表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

第三話:リュミエルの町へ(ベルクート)

*本話は、ベルクート視点のお話です。

暗くなり始める森の中で、騎士達があわただしく動き回っている。

その中心に眼光鋭い男がいた。


俺達を保護した騎士が、その男の前に立ち敬礼をする。


「レオンハルト様、森の中で旅人を見つけたので保護いたしました」

「ん?保護、旅人?」

「はっ、森で迷い、町の方角も分からぬとの事で保護いたしました」

「そうか……」

男の視線がこちらへと向けられる。


「私はこの辺り一帯を治めている者だ。

レオンハルト・オパールと言う」

レオンハルトと名乗る男が握手を求めてくる。


「君達の名は?」

「俺達の名前は……」


「名前が無いと、お前を管理できないだろう」


先ほどの男の言葉が頭をよぎる、名で『管理』する。

もしも言葉通りの意味ならば、名乗るのはリスクが……


「レティセラと言います」

「あ、ちょっと」

「え?良い人そうだよこの人?」

「えっ?」

「ん?」


レティセラの言葉に時が止まった。次の瞬間――


「ははははは!」


レオンハルトが豪快に笑い声をあげた。


「ははは、良い人そうか。そうかそうか」

「珍しいですね」

レオンハルトの笑い声に騎士が驚いた様子で合いの手を入れる。


「何を言う、私だって笑うことはある」

「そうではなくて、レオンハルト様は大抵初対面だと怖がら……失礼しました」

レオンハルトに睨まれ、騎士は慌てて口を閉じる。


「まったく……今日の調査はここまでとする。

第四班はここに残って残火の確認。

明日の朝、日の出とともに再調査、昼になったら一度戻れ。

残りの者は撤収準備だ」

「はっ!」

レオンハルトの指示に兵士が駆けていく。


「まったく……」

「あ、あのごめんなさい、悪い意味で言ったわけではないのです」

「かまわんよ、久しぶりに笑わせてもらった」

レオンハルトの笑みを見て、少し安心できた。

レティセラの直感は正しかったのだろう。


「申し遅れました、ベルクートと申します」

「なるほど、『ベルクート』殿と『レティセラ』殿で間違いないかな?」

「……はい、合っています。」

俺達の名を呼ぶときに何かがよぎる、魔力か?

だが、違和感や嫌な感じはしない。

気のせいだったか。


「さてと、私達はこれからリュミエルに戻る、行く当てがないなら送って行こう」

そう言うとレオンハルトは馬車を指さした。

リュミエルと言うのがこの人の拠点なのだろう。


「よろしいのですか?失礼ながら、レオンハルト様は位の高い方とお見受けします。

私達のような見ず知らずの者を簡単に馬車に乗せるなど……」

「あぁ、もちろん客室には安全上入れられないが、後ろの荷台に座らせる位ならば問題は無いだろう。それに……」

「それに……?」

「なぁに、良い人そうと言ってくれた彼女の期待を裏切る訳にはいかないからね」

ふふふ、とレオンハルトは笑みを浮かべる。


「レオンハルト様、馬車の準備が整いました」

「あぁ今行く、すまないが手を貸してくれるか?」

レオンハルトが手を差し出した、と同時に足に掛かっていた外套をどける。


「見ての通りでね」

レオンハルトの右足は膝下が木材の棒に置き換わっていた。


「昔、魔獣との戦いでな……おいおい、そんな顔をしないでくれ」

「……はい、すみません」

魔獣、戦い……この世界は危険に満ちている。


「私達これからどうなるんだろう?」

「……」

レティセラの問いに、今はまだ何も答えられなかった。




満月が真上に上がる頃、レオンハルトが治める町。

リュミエルへと到着した。


「送っていただいてありがとうございます」

「かまわんよ、その様子なら宿も決まっていないのだろう?

その路地を進むと月並亭という宿がある、冒険者ギルドからも大通りからも離れていて少し不便かもしれないが、その分この時間でも客室の確保はできるはずだ」

「重ね重ねありがとうございます」

「ではな」

そう言うとレオンハルトを乗せた馬車は去って行った。


「権力者って聞くとあまりいいイメージなかったけど、とっても良い人だったね」

「そうだな」


レオンハルトの言葉通りに道を進むと『月並亭』と看板が見えた。

扉からのぞくと、酒を飲み談笑をする人々が見えた。地元の人だろうか?

「えーと……ここで合ってるのよね?」

「看板はあってる。でもこれは宿屋じゃなくて……酒場?」

入るのを躊躇していると店主と目が合う。


「ん?いらっしゃい、入り口で何やってんだい冷やかしじゃないなら入んな」

店主に呼びこまれる。


「ご注文は?と言いたいが、そろそろ店じまいなんだ、注文なら一杯だけにしてくれよ」

「あの、ここが宿屋だと聞いたんですが合っていますか?」

「あぁ、宿泊のお客さんか。おい!マーサ!マーサ!お客さんだ!」

店主が2階に向かって声を荒げる。


どたどたと音がして2階から人が降り……


スコーン!

「いってぇぇぇぇぇ!!!」


木のコップが店主の頭へとクリーンヒットした。


「お馬鹿!あんなデカい声出してもう夜中だよ!!」

良く通る声の女性が、階段の踊り場から店主へコップを投げつけたようだ。

女性のそばには、眠い目をこする小さい女の子が2人いた。


「も、申し訳ありませんこんな時間にお伺いしてしまい」

「あらあら、お客さんは悪くないんだよ、悪いのはうちのバカ亭主なんだから」

この人がマーサのようだ。

『肝っ玉母ちゃん』そんな言葉がぴったりくる笑顔の似合う快活そうな女性だ。


店主が頭をさすりながら、恨めしそうな視線をマーサに送る。

「バカとはなんだバカとは……」

「あんなバカみたいにデカい声で呼ぶバカにバカと言って何が悪いんだい」

「やめとけマチス、お前じゃマーサちゃんに勝てないよ」

恨み節を呟く店主……マチスさんを、カウンターで酒を飲んでいたお客さんが苦笑いで止めている。


「……コホン。さてお客さん、月並亭へようこそ。お泊りはお二人?」

「はい、泊まるのは俺達2人です」

「お部屋は二階になるんだけど、すぐに準備をしてくるから待っていてもらえるかしら?

一人部屋しかないから別々の部屋になるわよ?」

「わかりました、それで大丈夫です」

「あんた、子供を起こしたんだから、部屋の準備してる間は見てて頂戴!

あ、お客様はお食事まだかしら?まだよね?

マチス!何か食べる物をお出ししてあげて」

そう言いながらマーサさんは2階へと上がっていった。


嵐の後と言ってもいいかもしれない。

取り残されたご主人や子供達、お客さんまでポカーンだ。


「まったく飯に子供にって、どっちも一度にできる訳ないだろうが……」

「そもそもお前さん、酒に合うつまみは作れても食事はロクに作れんじゃろが」

「うるさい……あー、すまんがお客さん、食材と調理場は好きに使って良いから自分で飯作ってもらえるか?」

それは店を経営してる人としてありなのか?


「はっはっは、そりゃいい、マチスが作るより安心だ。」

「うるっさい、お前らのツケここで全部回収してもいいんだぞ?」

「おぉ、怖い怖い」

周りの反応をみるにどうやらありらしい。

異世界に呼ばれた初日の食事が自炊か……まぁいいや。


「……どうする?」

「……お腹はすいた……」

俺の問いに、レティセラはお腹をさする。

俺の腹の虫も、町に着いた安心感からか、先ほどから空腹を訴え続けている。

「よし、じゃあ、マチスさん。お言葉に甘えて遠慮なく場所と材料お借りしますね」


レティセラと二人で調理場に入り材料のチェック。

基本的な野菜に、卵に、鶏肉……だよな?に似た何かの肉、トマトソースの様な物。

「お、炊いた米まである」

現代と遜色ない材料があるのは非常にありがたい。


「この材料で作るなら……あれ作るか?」

「……あれしかないわね」


レティセラと並んで調理場に立つ、いつもの役割分担だ。

俺のフライパンでは、野菜と肉をいため、ライスを加え、ソースで味を整える。

レティセラのフライパンでは、溶き卵を注ぎ入れ、手早くかき混ぜ形を整える。

炎の魔法が使えるからか、いつも以上に非常に繊細な火加減で焼き上げていた。


「兄ちゃんも嬢ちゃんも手際良いね、マチスの料理より見ていて安心だ」

「慣れてますから」


皿を取り出し、赤く染まったライスを盛り付ける。

つづいでレティセラがライスの上に黄色い玉子を鎮座させる。

最後に包丁で卵を割ってやれば、玉子からほわりと白い湯気があふれだし、赤いライスを覆いつくす。


たんぽぽオムライスの完成だ。


ごくりと誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。


二つ作ってテーブル席に座る。


「いただきます」

二人の声がそろう。


カチャカチャ……パクリ


「……あぁ、これだわ」

「ほっとしすぎて、涙出そう」

何というか日常が帰ってきたような感じがする。


「ん?」

食べ進めていると、裾になにか引っかかる感覚を覚えた。

視線を向ければ、小さい女の子と目が合う。

6歳くらいだろうか?

きらきらと輝く期待のまなざしがこちらに注がれている。


……なるほど。

「マチスさん、この食べ物をこの子にあげても大丈夫ですか?」

「じゅる……あ、あぁダイジョブだ」

よだれたれてるよマチス……


「はいどうぞ」

「ありがとう!ぱくっ」

小さな口いっぱいにオムライスを頬張る。


「アティア、お客さんのご飯だよ」

「……んぐんぐ。わぁ!おいしい!すごいおいしいよ!タリサお姉ちゃん」

「そうなの?」

お姉ちゃんは我慢をしているようで、小さい妹をたしなめながらも生唾を飲み込んでいる。

レティセラの方を向けば、みなまで言うな!

と言わんばかりに、サムズアップして自分のお皿をタリサへ差し出していた。


「タリサちゃんもどうぞ」

「いいの?」

「えぇ、もちろん」

「ありがとう!……おいしい!」

にっこにこできらっきらの少女たちの笑顔に場の空気が柔らかくなる。


にっこりと笑いアティアが俺に笑いかける。

「ありがと夜空のおにいちゃん!」

「うん?夜空の?俺がかい?」

「うん!おにいちゃんの髪の毛とおめめが夜空みたいで綺麗だから」

「そうかありがとう」

頭を撫でればくすぐったそうにアティアは喜んだ。


「あら、ベルクートばっかりズルいわ、私は何に見えるかしら?」

とレティセラがいたずらっぽく微笑めば、タリサが元気に手をあげる。

「お姉ちゃんはね、流れ星のお姉ちゃん、紅い髪がしゅーって流れ星みたいで綺麗!」

「ふふふ、ありがとう」

レティセラはお礼を言うと、オムライスをスプーンに取り、タリサの口へ運ぶ


「ん~おいひぃ!これすき!なんていう食べ物?」

「オムライスって言うのよ」

「な、なぁ、お客さん、俺にもそれ一口く」


スパコーーーン!

「いってぇぇぇぇぇ!!!」

マチスが涙目で見上げると、お盆を片手にアルカイックスマイルを浮かべるマーサがいる。


「お客にご飯作らせておいて、それを食べようとするとかこのおバカ!」

「作り方なら教えますから、ご自分で作られてみてはいかがです?」

「ほ、本当か!?絶対教えてくれるか?!」

「ふふふ、あははは」

レティセラが声を上げて笑う。


レティセラの笑顔を見て、久しぶりに心から笑えた気がした。


ゴール地点は決まっています。

二人がどんな道でそこへたどり着くのかを、楽しみながら最後まで書いていく予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ