55 恋愛小説な物語
シーフォールスからユーグレイシアに帰るのは、一瞬だった。
シーフォールスに来る時は海を渡って来たけど、帰りは王都から魔法使いが派遣されて、転移魔法を使ってユーグレイシアへと転移。その翌日には、その魔法使いがユーグレイシアに来ていた訓練生4人を連れて、シーフォールスへと転移魔法で帰国した。
ユーグレイシアに帰国してからの、私達訓練生5人はバタバタと忙しかった。
3年間の報告書を纏めたり、トルガレントの訓練をギルウィットの訓練に取り込む為のレポートを作成したりしながら、ギルウィットの騎士としての訓練やらで、休み返上で働きまくる毎日を過ごし、気が付けば、ユーグレイシアに帰って来てから1ヶ月が過ぎていた。
「訓練生5人は明日から1週間の休暇とする。ゆっくり休んでくれ」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
そして、ようやくの休みになり、私達5人はその日一緒に夕食を食べてから、それぞれ帰路に就いた。
私が今住んでいるのは、ギルウィットの中心から少し外れた所にある、母方の家門が所有している別荘で、使用人が3人と、調理人2人の6人暮らし。邸もこじんまりしていて、邸内では気楽な生活をしている。礼儀作法に煩い人は居ない。
「お嬢様、おかえりなさいませ。急ぎの手紙が届いております。それと、すぐ入浴も可能ですが、どうされますか?」
「今日は疲れて早く寝たいから、すぐにお風呂に入るわ」
「かしこまりました」
私はその手紙を受け取ると、すぐに自室へと向かった。
入浴を済ませ、用意してくれていたミルクティーを飲んだ後、ベッドに入ってから手紙を確認すると─
「アラスター様からだ!」
まさかのアラスター様からだった。
手紙も久し振りだ。
「───え?」
手紙の内容は、明日、この邸に来ると言う事だった。
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「アラスター様、ようこそいらっ───」
「リュシー!会いたかった!」
翌日、アラスター様を出迎えて挨拶をする前に、ギュウッと抱きしめられた。嬉しいのは嬉しいけど─
「ア…アラスター様!あの…人前では──」
「誰も居ないから大丈夫」
「え?」
視線を動かすと、さっき迄居た使用人達が居なくなっていた。空気を読み過ぎではないだろうか?
「えっと…嬉しいんですげど、恥ずかしいので離してもらえますか!?」
「離したくないけど…リュシーのお願いなら…」
渋々な様子で体を離してくれたアラスター様の顔は、何となく可愛く見えた。
久し振りのアラスター様は、2年前よりも髪が長くなり、後ろに一つで軽く括っている。勿論、低音ボイスは相変わらずで…身長も少し伸びた?感じがする。兎に角───
「カッコイイ……」
「ん?」
小さく呟いただけで聞こえなかったのか、小首を傾げるアラスター様はカッコイイけど可愛い。何をしてもカッコイイか可愛くしか見えないのだから、本当に困ったものだ。
「アラスター様、本当にお久し振りです。会いに来てくれて、ありがとうございます」
「リュシー、お疲れ様。元気そうで良かった。おかえり」
そう言うとまた、アラスター様は私を軽く抱き寄せた。
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今日は天気も良かった為、庭園のガゼボでランチをする事になり、そこで聞かされたのは、“私達の物語”だった。
リリアーヌ=カシオス公爵令嬢が、レイモンド=オズ=ユーグレイシア王太子の婚約者候補に上がった時、既にヒューゴ=イーデン伯爵令息と将来を誓い合った仲であった。されど、身分の問題もあり、公爵に反対され、そこでリリアーヌ様が王太子に相談したところ、王太子がリリアーヌ様の気持ちを理解して、応援してくれる事に。そこで、協力者として上がったのが、王太子の側近の1人のアラスター=ヴェルティル伯爵令息だった。彼もまた、想いを寄せる令嬢の為に努力を重ねているところだった為、利害が一致したのだ。
そのアラスター=ヴェルティルが想いを寄せるのが、リュシエンヌ=クレイオン侯爵令嬢だった。そのリュシエンヌが武の家門と言う事もあり、私に並び立つ為に騎士になった。のは良かったが、騎士になり頭角を現せば令嬢に絡まれるようになり、まともに騎士の訓練も出来難くなり、それらが煩わしくなり、リリアーヌ様と契約恋人になる事にした。
しかも、実は私も密かにアラスター様に想いを寄せていたけど、リリアーヌ様とアラスター様の仲を信じていた私は、その想いに蓋をして、邪魔をしない為にも学園を去り騎士としてシーフォールス王国へ渡る事となった。
そして、ようやく成果を上げて結ばれたリリアーヌ様とイーデン様は、公爵に認められて晴れて婚約を結ぶ事になり、恋人の契約が終了し、ようやくアラスター様が私を追い掛ける事ができ、私達2人も想いが通じ合って無事に婚約する事ができた。
「──と言う事で、社交界では今、ひっそりと身を引いて一番被害を受けたリュシーに同情する人達ばかりで、“これからは、リュシエンヌ様を大切にして下さい!”と、よく言われている。勿論、そんな事言われなくても大切にするけどね。兎に角、リュシーが後ろ指を指されるような事はないから安心して欲しい」
「そう…なんですね………」
確かに、ほぼ本当の事ではあるけど…安心よりも恥ずかしさの方が勝るのは…仕方無いよね?




