56 もう、逃げられないようです
この物語で一番重要なのは、やっぱり王太子様が味方になってくれた事だろう。今世での私の幸せは、王太子様のお陰でもある。
アーティー様は、番であるエリナと結婚できたけど、結局のところアーティー様も本当の意味での幸せは手に入れられなかった。だから、今世では王太子様にも幸せになって欲しいと、心から願っている。
そんな事よりも──
ー今日こそ、伝えるんだー
「あの…アラスター様……どうしても伝えなければいけない事があって…聞いてくれますか?」
「勿論。どんな話でも」
嬉しそうに微笑むアラスター様の笑顔が、伝えた後も変わらない事を祈りながら、私はゆっくりと話し出した。
「───それで、第二次成長期を迎えて成人したからか……アラスター様が………私の番だと………その時初めて気付いたんです…」
「──────え?」
「でも!私、本当に、アラスター様が番だから好きになったんじゃなくて、本当に番だと分かる前からアラスター様の事が好きだったんです!本当にそれだけは───」
「ちょっ…だから、リュシー落ち着いて!」
と、アラスター様がまた、左手で自分の顔を覆って、右手で私の口を押さえた。
「本当に勘弁して欲しい。2年ぶりに会えて嬉しい上に、何度も『好き』なんて言われたら俺も我慢できなくなるから。リュシーの言う事を信じてるから。ただ、一つだけ訊いて良いかな?」
口を押さえられたままだから、コクコクと頷く。
「俺から距離を取ろう…逃げようと思ったのは…“番だから”だった?俺は人間だから、番の感情がよく分からないけど、獣人は番が相手だと本能的に動いてしまうと聞いた事がある」
それだけ言うと、アラスター様は私の口から手を離した。
「そう…です。番を認識してしまうと、本能が強く働いてしまって…どうしてもアラスター様を自分のモノにしたくなってしまって。でも、リリアーヌ様との仲を裂くなんて事をしたくなくて……2人の仲を裂いてしまう自分が怖くなって」
「リュシー……」
今思い出しても辛い気持ちになる。今だって、婚約しているけど『重い』と言われたりするんじゃないか?言われたらどうしようと不安になる。
「でも、今もそうだけど…本能が勝ってる感じは無いよね?本当に俺が番なのか?」
「それは……私が番を認識できないようにする魔道具を使っているから…です」
「ん?番を認識できない魔道具?」
その事も、お父様から話しても良いと言う許可をもらっていた為、その魔道具の話もした。
「今も発動しているの?」
「……はい。だから、本能的に私がアラスター様を襲う?ような事はありま───」
「今すぐ、その魔道具を止めようか」
「はい?あの…話を聞いてまし──」
「うん。ちゃんと聞いてる。大丈夫。リュシーに襲われるのなら吝かではない。寧ろ大歓迎しかない。勿論、黙って襲われるだけでは終わらない自信もあるけど」
ーえ?どんな自信ですか?ー
それから、魔道具を外す外さないの舌戦を繰り広げた後、私は魔道具を外す事にした。
ーあぁ…これは…久し振りの香りと感覚だー
その魔道具を外した瞬間、一気にその香りへの欲が増した。
どうしても手に入れたい──
手に入れたら二度と離さない──
私だけのモノにしたい──
「───っ!」
アラスター様に伸ばしかけた手を必死に押さえようとすれば、その手をアラスターに掴まれて、そのまま抱き寄せられた。
「アラスター様!?あの離して!じゃないと─」
「そんな顔して俺を見たりしたら……俺の理性がもたない!」
「はい!?」
「俺は、リュシーが好きだ。愛してる。その愛してる人の番だなんて……俺にとっては幸運でしかない。何がどうなろうと、俺はリュシーのモノだって事だろう?なら、リュシーは俺だけのモノだ。リュシー、愛してる」
「アラスター様……」
ー番に受け入れられると言うのは、こんなにも満たされて幸せな事なのかー
エリナも、もう少し頑張ってアーティー様に寄り添っていれば、2人で幸せになれたのかもしれない。それでも、それは今更だ。なら、私はリュシエンヌ=クレイオンとして、レイモンド=オズ=ユーグレイシア王太子様が幸せになるように何かお手伝いをしよう。
「アラスター様…受け入れてくれて、ありがとうございます」
「感謝するのは俺の方かな?もう、リュシーは俺から逃げられないからね?」
とニッコリ微笑んだ後、アラスター様は私に軽くキスをした。
───だけでは終わらなかった。
番からのキスで、本能が爆発するか?とビクビクしたけど、逆に、番に受け入れられたと安心したせいか本能が落ち着きを取り戻した。取り戻したら取り戻したで恥ずかしくなり、アラスター様から離れようとすれば『もう少しだけ…』と、切ない微笑みを浮かべて、耳元で低音ボイスで囁かれてしまえば、抵抗する気力は無効化され、アラスター様の腕の中で受け入れるしかできなかった。
ーキスだけでいっぱいいっぱいだー
満足したのか、笑顔たっぷりで、息も絶え絶えになっている私を抱きかかえて座っているアラスター様。もう、どちらが獣人で番を認識しているのか分からない状態だ。恥ずかしさは半端無いけど、嬉しいものは嬉しい訳で…やっぱり私は─
ーアラスター様にはチョロいようですー




