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王子の婚約が決まったようです

それからは特に何もなく平和な日々を過ごしている。

まもなく王子とオルシーニ侯爵令嬢との婚約が発表され、やはりリカルドは粘着されたそうだが既に王様承認の婚約者がいると分かるとなんとか引いたそうだ。

ただ、一番大変だったのはうちのガスパル兄様だったらしい。

三男とは言え王子の側近が内定しているに等しい兄様は猛烈なアタックを喰らうことになったのだ。

本人同士が会う機会は王子とのお茶会くらいなのでなるべくリカルド様が行動を共にしガードしてくれたそうだが、必死なトゥールーズ侯爵令嬢には公爵令息に対する不敬などお構いなしだったらしい。

父様の方にも侯爵から打診があったそうだが、国王や公爵がグロスター伯爵家が権力を持ち過ぎるからダメだとノーを突きつけてくれたお陰でお断り出来たそうだ。

しかし最大の決め手は、

「公爵令息ともあろうリカルド様がちんけな伯爵家の娘なんかと婚約するなんてどうかしている」

とトゥールーズ侯爵令嬢がリカルドに嫌味を言った事に内心ブチ切れたガスパル兄様がにっこり天使の如く笑って

「トゥールーズ侯爵令嬢様こそ可愛いのに随分とご自身を安売りなさるのですね。僕みたいな三男などいくら殿下の同級生とは言え学園に上がる頃にはもっと優秀な方が出てくるでしょう。そうすればお払い箱ですよ。青田買いが過ぎませんか?」

と言ってやったかららしい。

侯爵令嬢はその笑顔にヤラレながらも、プライドの高さから

「貴方に私は勿体ないに決まってるじゃないの、勘違いしないで欲しいわ!誰にも声が掛からない貴方が可哀想だからからかっただけよ!」

と言い放ち、兄様に再び笑顔で

「そうですよね。僕なんかには勿体ないので冗談で良かったです。弁えて冗談だと理解してますから大丈夫ですよ」

と返して終わったようだ。

リカルド様曰く、トゥールーズ侯爵令嬢は元々リカルドよりもガスパルの方が気に入っていたから、むしろあの笑顔で完全に落ちたフシがある。その瞬間に失恋したわけだが、これからもプライドが邪魔してガスパルに好きだと言えずに拗らせるのではないか、と怖いコトを言う。

そんなたらし込む様な事をしていつか刺されるのではないかと妹の立場としては心配だ。


「アンセルマ、ガスパルは君が思ってるより随分と強かだから心配することはないよ」

「そういう問題じゃないです。将来兄様の婚約者がいじめられたらどうするのですか」

「そこも含めてガスパルは上手くやるさ。ガスパルは僕の大事な相棒だしね」

「優秀なお二人なら失脚する未来なんてないのは分かってます。だけど無駄に敵を作る様な怖い事はしないで下さいませ」


顔合わせをしたあの日からリカルドは毎週グロスター家に来てくれる様になった。

一緒に勉強をしたり、魔物を狩ったり、お茶をしたりする。

たまにガスパル兄様も混ざるが、今日は不在なので2人で狩りをして屋敷に戻る途中だ。

一年以上毎週会っているのでだいぶ打ち解けたと思う。


「アンセルマの言う失脚がコルデーロ殿下の側近じゃなくなる事というのなら、僕達は失脚上等と思っているんだよね、残念ながら」

「えっ?」

「僕達は国を支えるつもりはあるけれど、殿下を支えるつもりはあまりないんだ。だから学校に入って手頃な人間がいればコルデーロ殿下を押し付けるつもりだよ」

「えっ?ちょっと待ってください。リカルド様は将来宰相になるのではないのですか?!」


代々宰相の家だと聞いていたので、てっきりリカルドは宰相を目指しているのだと思っていたアンセルマは驚いて歩を止めた。

もはや平和に暮らせるならなんだって良い。

別にリカルドが宰相にならなくてもアンセルマは困らない。

アンセルマが作った魔道具達もアンセルマの名前は出さずにグロスター家とカディネ家の共同開発品として世の中に売り出され、かなり儲けを得ていると聞く。

だからリカルドが錬金術師になるとか言うのであればそれはそれで構わないのだが、王家に反旗を翻すとなると話は別だ。

しかもリカルドは僕達、と言った。

ガスパルも同じように考えているなら、2人が何をしようとしているのか確認しておかねばならない。


「勘違いしないで、アンセルマ。王宮で働く気はあるけど、コルデーロ殿下に仕える気がないと言っただけだ」

「宰相になる事と、殿下に侍る事は別、という意味ですか?」

「そんな感じだね。コルデーロ殿下はご兄弟が居られないからだいぶ甘やかされておいででね。勉強からも逃げてばかりいる。だけど僕達がいるから無理に努力をしなくても良いなんて考えている大人もいるくらいなんだ」

「それは将来この国が不安ですね」

「そうだろう?だから父様達も国王を諌めてはいるんだけど、王妃周辺が面倒な人達でね。だから国王の許可を得て、少し王子と距離を取ろうという話になっているんだよ」

「リカルド様がどんなお仕事を選択されても私は構いません。ただ国賊になる様な事がなければ」

「平和な日常がアンの願いなのは理解しているよ。野菜も食べて元気に、だよね」


理解して頂けているようで何よりだ。

公爵様は御自身の領地でも野菜の生産量を増やし、アンセルマに料理方法を聞きながら公爵家自体が野菜を食べる量を増やした。

食物繊維やビタミンの摂取量が増え、公爵家面々の肌艶はかなり良くなっている。

実際はアンセルマの作った化粧水や石鹸の効果もあったが、公爵夫人が夜会で肌艶を褒められて方法を聞かれ、野菜の効能について吹聴した結果、上流貴族の間で野菜が爆発的に流行り始めたのだ。

お陰で野菜畑を多く所有するグロスター伯爵家とカディネ公爵家は大儲けしたのは間違いない。


アンセルマが前世で農業高校に通うことにしたのは、勉強があまり好きでなかった事と、父の実家が栃木にあり、無駄に山だの畑だのを所有していたからだ。

当時健在だった爺様に

「将来お前が畑をやりたくなるかもしれないだろ?大きくなったらお前にやるからね」

と言われ子供ながらに農業知識がないと貰っても困るじゃないかと信じた部分が大きい。

今なら分かる。単に田舎の土地が売れないだけだと・・・。

大学は結局バイオの方に行ってしまったので3年だけだが、その無駄に農業を勉強した3年間が無駄じゃなかった。

堆肥や芽かきなど前世では当たり前の知識でさえここでは重要な情報だ。

これにアンセルマが品質改良した種を使えば、いくら他の領地が野菜作りを始めたところでグロスター伯爵領とカディネ公爵領が作る高品質野菜が優位なのは揺らがないだろう。

勿論領地内の農家とは機密保持の契約魔術を結んでいるから情報が漏れることもない。


「アンセルマ、来週は街に出ようか」

「もう行っても宜しいのですか?」

「アンも自分で稼いだ金が出来ただろう?」

「そうですね。あるとは聞いてます。父様に確認してみますね」


農業技術教育の為に一部の農園には何度か足を運んでいる。

その際は侍女達が着るお仕着せを着て、麦わら帽子を深く被って野暮ったい伊達メガネをかけて兄様の侍女としてのお出掛けだった。

その為まだ街には出た事がない。


「街に行ったらアンは何がしたい?」

「そうですねぇ。何があるのか分からないのでなんとも言えないところはありますけど、屋台で何か食べたいですね。あとはお洋服屋さんとか雑貨屋さんとかを見て回りたいです」

「屋台が良いのかい?食堂やカフェではなく」

「オススメがあればそれでも構わないですよ。リカルド様は街に行った事があるのですか?」

「何回かね。屋台は試した事がないから色々見て回ろう」


その日の夜、アンセルマは父親にリカルドと街へ出掛けたいので、自分が自由に出来るお金を買い物ができる程度欲しいと申し出た。

買い物とはどんな物をどれくらい買うつもりなのか?と細かく聞かれてアンセルマは何も買わないかもしれないし、何か欲しい物を見つけたらめちゃめちゃ買うかもしれないし行ってみなければ分からないと正直に話す。

父親は金庫からザラザラと貨幣を柔らかく鞣した皮の小さな袋に何枚か入れてアンセルマに持たせてくれた。


「父様、これは私の魔道具を売った私の分の報酬という事で間違いないですか?父様が働いて稼いだお金は入ってないですね?」

「正真正銘、アンが稼いだお金だよ。足りなければもっと出すが?」

「いいえ、自分で稼いだお金でお買い物がしたいのです。だから父様のお金を足したらダメですよ」

「アンが稼いだお金がまだあるという意味だ。これはアンが働いた分の報酬だから心配せずに使いなさい」


アンセルマは袋から一枚貨幣を出してマジマジと見つめる。

500円玉よりも少し大きい銀色の貨幣だ。

100という数字が刻まれている。


「父様、これ一枚でどんなものが買えますか?」

「そうだな、串焼きだと2本くらい買える。リンゴのパイなら5つは買えるかな」

「串焼きは高いのですね」

「魔物の肉ならばもう少し安いと思うが肉は庶民には贅沢品だからな。腸詰なら3本くらい買えるはずだ」

「父様のおススメは何ですか?」

「昔はどれも美味いと思っていたが、今は我が家の料理の方が格段に美味いからなぁ。まぁシンプルな串焼きが良いかもしれないな。エールによく合う」

「父様も屋台で食べられたりするのですね」

「仕事で色々な街に行くからね」


100の硬貨で千円くらいの価値だろうか。

袋の中の硬貨の数を数えると20枚入っている。

だいたい2万円といったところなら、案外常識的な金額だ。

親バカだから200万くらい平気で持たせるのではないかと心配していたのだ。


「それで足りなかったらララに言いなさい。別で幾らか持たせておくから。」

「父様、ありがとうございます。」


明日の準備を整えて、アンセルマは眠りについた。

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