お願いした通りの婚約者
その2日後、複雑そうな顔の父様に婚約者が決まったと告げられた。
何度もため息をつく家族に不安になる。
「兄様達にはまだ婚約者はいらっしゃいませんよね?」
「無力な父を許してくれ、アン。アンを守る為にはこの方法しかなかったんだ」
「何から守るのですか?」
「王族や高位貴族からに決まっている!アンを無能な者になどに嫁がせる訳にはいかないからな。アンが素晴らしい存在だと気付かれる前に婚約をしておく必要があるんだよ」
懐中時計やポットなどの発明はまだどこにも売り出されていないらしい。
売り出せばアンセルマの価値が露見して取り込もうとする不届者がワラワラ沸くのが見えているからだ。
又、王子の妃候補も今はなんとかアンセルマの名が挙がっていないが、アンセルマの幼いながらに人並外れた美貌と能力を知られれば侯爵家の令嬢達を蹴散らすのは容易いと父様は考えているらしい。
親バカなのか?
そこで我が家より上位の家柄で、アンセルマを守り、幸せに出来そうな甲斐性のある子息に目を付け、あちらから婚約を打診してくる様に手を打ったのだそうだ。
「お相手はアンより3つ上のカディネ公爵家の御令息であるリカルド様だ」
「リカルド様は公爵家の方だったのですね」
「あぁ。アンが仲良く出来そうだとガスパルが言っていたけど間違いないかな?」
「間違いないです。リカルド様の術式はとても綺麗なのですよ。もっと一緒にお勉強したいです」
「アン・・・リカルド様が嫌になった時は父がなんとかしてみせるから必ず言うんだよ?」
「父様、公爵家って王家の次に偉いのですよね?喧嘩してはだめですよ。平和が一番なのです」
リカルドはリカルドで殿下の婚約者に選ばれなかった方の侯爵令嬢から縁談を持ち込まれるのを危惧しているらしい。
特に殿下より2つ年上のトゥールーズ侯爵令嬢の方が家柄としては殿下と同じ歳のオルシーニ侯爵令嬢よりも上なのだが、派手な生活をしてあまり評判が良くないのだとか。
王家としてもそこは理解しており、同じ歳のオルシーニ侯爵令嬢を選ぶ事になるだろうが、選ばれなかったトゥールーズ侯爵家が苦言を呈する事は目に見えている。
トゥールーズ家にゴネられた結果、王家が身代わりに公爵家の長男で歳の近いリカルドを差し出さざるを得ない状況になる可能性が高い。
カディネ公爵家は代々宰相を務めるクレバーな人達だ。
家格だけしか取り柄がないトゥールーズ侯爵家を嫌悪している。
特にリカルドは幼い頃からそのクレバーさが突出しており、スマートに避けてはいるものの、高飛車なトゥールーズ侯爵令嬢が嫌いらしい。
そこに来てアンセルマの自分に似たクレバーさや新しい物を生み出す発想力、魔力の馴染みの良さ、おまけで美貌はリカルドにとって渡に船だった。
あの日急いで帰宅したリカルドは両親にアンセルマに譲ってもらった時計を見せて『自分の婚約者にはグロスター伯爵家のアンセルマ以外は考えられない』旨を説明し、息子のプレゼンに納得したカディネ公爵は父様と結託して本日めでたく2人の婚約承諾書を王に承認させたそうだ。
王もトゥールーズ侯爵家に公爵家の後ろ盾を得る様な結婚は認めるべきではないのは理解しており、善良なグロスター伯爵家ならばパワーバランスが崩れることもないだろうと安易に了承された。
つまりこれは王が決めた婚約であり、そうそう簡単に覆るものではないと言うことになる。
「アンは本当に賢くて優しいなぁ。だけど父が一番アンを愛しているからね。誰を敵に回そうがアンの一番の味方だ。だから困った事があったら必ず言うんだよ?」
「はい、父様。私も父様が大好きです」
転生前にお願いした事は無事全部叶いそうでなりよりである。神様、ありがとう!
あとはチートを活用して安泰に暮らしていくだけだ。
家族で顔合わせという事で数日後、カディネ公爵夫妻とリカルドがグロスター家にやってきた。
家格の低い伯爵家で顔合わせする事になったのはカディネ公爵がアンセルマの開発した品々を見たいと言ったからである。
アンセルマをなるべく屋敷から出したくないという父様の思惑もあっての伯爵家開催だ。
転生あるあるで我が家の料理が美味しいのもこの際だから堪能してもらう事になった。
我が家の料理はアンセルマの聖水で作られているのでデトックス効果もある優れものだ。
2人分の懐中時計も急遽用意しておいたのでまずは舅姑に媚を売る。
「初めまして、アンセルマ・グロスターです。この度はご縁を頂きましてありがとうございます。お近づきの印にこちらの懐中時計をお納め下さいませ」
「まぁ、ありがとう。リカルドから聞いた通りのお嬢さんね、あなた?」
「初めまして、アンセルマ嬢。私は宰相をしているレイナルド・カディネだ。こっちは妻のバジリナだよ」
「宜しくね、アンセルマちゃん」
「宜しくお願い致します、カディネ公爵閣下、公爵夫人」
「堅い、堅いわ、アンセルマちゃん。お義母様、と呼んでちょうだい」
「はい、バジリナ御義母様」
両家が席に着くと侍従が机の上にポットを置いてくれる。
アンセルマは一通り構造を説明して、自らの力でいつも通りに聖水を注ぎ入れた。
蓋をし、ポットについた魔石に力を込めるとお湯が沸く。
侍女が今度はティーポットを机の上に置いて蓋を開けて見せる。
網が中に仕込んでいる事を説明してから侍女にティーポットに茶葉を入れてもらう。
みんなの前でエアーポットを押し、ティーポットをお湯で充した。
普通お客様にお茶を入れるのは侍女の仕事で、机の上で実演なんてしてみせないが、今日は特別だ。
公爵夫妻だけでなく、後ろに立つ公爵家の侍従達も興味津々にその様子を窺っている。
「こちらのエアーポットは新品をお土産に用意しておりますので是非持ち帰って使ってみて下さい」
「まぁ、嬉しい。このお茶菓子も見たことのないお菓子だけどもとっても美味しいわ。どこのお店のものかしら?」
「我が家で焼いたものですわ。これも娘が考えたものですの」
「まぁ、魔道具だけではなくお菓子まで?」
「食事もですのよ。後でお出しする食事もアンセルマが考えたものばかりですの。少し伝統的な料理とは異なりますのでちょっとビックリされるかもしれませんわ」
「それは楽しみね」
母様と義母がニコニコと笑い合い始めたので父様に視線を向けるが、こっちはこっちで父親同士商売の話を始めてしまったようだ。
ここは黙って笑っておこうと思ったら、公爵の隣に座るリカルドと目が合った。
「アンセルマ、僕達は食事まで散歩でもしようか」
手を差し伸べられてキョロキョロと周りを見回すと、大人達はそれが良いわねと促してくれる。アンセルマはリカルドの手を取って客間を出た。
「アンセルマ、僕との婚約は嫌じゃなかったかい?」
「嬉しいです。何で嫌だと思うのですか?」
「女の子はお姫様になりたいものだろう?アンセルマなら王子にだって手が届く位置にいるよ?」
「王子様は嫌です。王子様と婚約したら王妃教育があるのですよね?王妃教育がどんな事を勉強するのか分かりませんけど、自由な時間がなくなってしまうのは困るんです。やりたい事いっぱいありますから」
力いっぱい否定したアンセルマにリカルドは一瞬ふいを突かれた様な顔をしたが、すぐに声を上げて笑う。
そんなに皆、王子の嫁になりたいものなのだろうか?
そんなに王子イケメンなのか?
否、うちの兄達もリカルド様も相当なイケメンの器量良しなのだから負けるはずがない。
「もしかしてリカルド様と婚約したから、公爵家教育みたいなものがありますか?」
「そんなものはないよ。僕とは定期的に会う必要はあるけれど」
「それは益々嬉しいです!リカルド様に言われた本は読み終わったのですよ。次はいつ遊びに来てくれますか?」
アンセルマの問いにリカルドはアンセルマと繋いだ反対の拳を口元に寄せ一瞬考える。
「もう読んだのかい?それは想像以上だね。週に一度は顔を出す様にしよう。どうかな?」
「本当ですか!?じゃあ、やりたい事をリストアップしておかなきゃ!リカルド様もやりたい事考えておいて下さいね!」
グロスター伯爵家の庭は一見普通の貴族の庭園が広がっている様に見えるが、奥まで行くと花が薬草に変わり、野菜畑になる。
これもアンセルマが自分の実験の為におねだりした結果だ。
更に目隠しの庭木を抜けると焼け焦げた煉瓦の壁や爆発に抉れたような穴がある広場があり、そこから先は魔物も出る森だ。
一応、花が植わっている所までにしておくつもりだったのに、リカルドは目敏く薬草の花壇を見つけた。
「薬草も自分で育てているんだね?」
「あまり多くはないですよ。練習用に初級錬金術の本に載っているものを育てているだけですから」
ただ試行錯誤の結果うちのポーションの効果は流通しているものよりも5割増しで効果が高い。
聖水で育てた薬草を使うと4割増し。土地に定期的に癒しをかけると更に1割増しになると分かったからだ。
普通の人間が水魔法を使ったところで水はただの真水にすぎない。
父様曰く「水魔法の水が聖水になるのなんて聞いた事がない」そうだから他の人がやるにしてもコストを考えると出来るのは土地に癒しをかける事くらいだろう。
そもそもアンセルマが出す聖水の方がポーションより万能だ。
「これも薬草?」
「それはお野菜です。今日のディナーにも出ますよ。お野菜は嫌いですか?」
「好き嫌いはないがグリーンピースが山盛り出るとウンザリはするかな」
「地面から採れる野菜は貧困層の食べ物って皆さんはあまりお野菜を食べないみたいですけど、お野菜は体に必要なのですよ」
この国は基本的にステーキとローストビーフは異常に発達しているが、付け合わせは焼くか煮るかした野菜に塩を振っただけのものだ。生では食べない。
その肉にだけ向けている情熱を他の料理にも使えば良いのに、と思う。
その為なのか、土地との相性の問題なのか野菜の種類は少ない。
一番多く食べられているのがグリーンピースで、豆類が多く、キャベツやニンジン、玉ねぎ、ニンニク、カブが中心で他の野菜もあるにはあるが数が少ないようだ。
リカルドの言う通り、美味しい肉にグリーンピースが山ほど付いて出てくる事も少なくない。
貴族は貧しい人達の食べ物として野菜を食べないのも種類が少ない理由の1つなのだろう。
あまり野菜を食べないのでビタミンや食物繊維が足りずに病気に苦しむ人達も少なくないらしいが果たしていつお貴族様はそれに気づくのだろうか。
「これもアンセルマが?」
「はい。本に載っていた野菜が食べてみたかったので」
前世で無駄に都内の農業高校に通っていたアンセルマには化成肥料はなくても農業知識というチートがある。種は父様に入手してもらうしかないが、土壌改良もして我が家の畑は豊作だ。
肉が高価なので庶民はあまり肉を食べられず、野菜中心の生活らしい。ライ麦パンに野菜スープ、チーズ。運が良ければ肉という感じなのだそうだ。
だが我が領地では毎朝訓練がてらアンセルマが森で狩るオークやボア系魔獣の肉が安い価格で流通しているので他の領地に比べると肉を食べてる庶民も多いかもしれない。
その代わりに直轄地の農園ではこの国では珍しい野菜も作ってもらっている。
もちろん種と農業指導の手引き書付きだ。
なので自分で作っている野菜は基本的にここら辺の土壌に合う品種に改良し、種を摂るのが一番の目的である。
「アンセルマの生活改善は本当に魔道具だけじゃないんだね」
「ほとんど家から出た事がないのでおうちの中で気になった事をやってるだけですよ」
「アンセルマは家から出てみたいかい?」
「そのうち街とかには行ってみたいですけど、まだ自分で稼いだお金がないのでまだいいかなぁと思います」
基本的に買い物といえば馴染みの業者を呼び家で品物を見て購入する。
服も既製服なんてないからサイズを測ってもらってデザイン画から選んで作ってもらう。
家で買い物をする時はもちろん両親が払ってくれるからアンセルマはお金を見たこともないし、物価もよく分からない。
お小遣いもないから自分のお金もなければ街に出ても自由になるお金がないのだ。
買い食いも出来ないなんて、街に行く意味もないではないか。
名門伯爵家なのだからお金があるのは分かっている。
だけどそれは税金やら父様が働いて稼いできたお金だ。
お風呂やポットなどある程度お金をかけてもらっているが、それがまだ世に出ていないなら稼ぎにはなっていないという事だろう。
前世で社会人経験もあるアンセルマにはどうも自分で稼いだ金でなければ安心して使えないという想いが拭えずにいる。
「来年くらいになればアンセルマが作ったものも売り出す事が出来る様になるんじゃないかな。そうしたら一緒に街に出かけよう」
「来年何かあるのですか?」
「もう少ししたら王子の婚約者が正式に決まるはずだ。そうすると少し騒ぎになるかもしれないが、半年もすれば僕達の婚約なんて徐々に皆話題にしなくなるだろう。少し派手な事をした所で目立つ事はないさ」
お互い今は大々的に2人が婚約した事を公にするつもりはない。
だが王子の婚約が決まれば、選ばれなかった方の令嬢が暴れ出す。
その際リカルドに目をつけ婚約を迫ったところでリカルドは既に売却済みと分かる。
そういった経緯で私達の婚約が公になるだろうからそこから半年は大人しくしていようという事らしい。
「魔道具を売り出すのが派手な事なのですか?」
「時計もポットも皆が欲しがると思うよ?」
「でも初級魔術で簡単に作れますからすぐに真似されてしまうのではないでしょうか」
「錬金術師はそもそも数が少ないし、皆ポーションを作るので手一杯でほかの物を作ろうなんて発想が無かったからね。真似しようとする人は少ないんじゃないかな。沸かす機能がないエアーポットの構造だけでも欲しいと思う庶民はいるかもしれないけど、グロスター伯爵はちゃんと特許を取っているからお金を払わず同じ物を作ることはできないよ」
「特許なんてあるんですね。それは有難い限りです。お家の生活改善が済んだら、街の人達にも何か改善したいものがないか聞いてみたいです」
庶民は最低限の生活魔法を使える程度の魔力はあるが、錬金術初級に必要な魔力には及ばない。
高位の貴族程魔力が高いとされているが、庶民にも稀に高めの魔力を持つ者が生まれる。
そういう子は家業を手伝うより圧倒的に金になる錬金術師になるのだ。
貴族でも家を継げない長男以外は騎士団や魔術師団の為にポーションなどを作る王宮所属の錬金術師になったりもする。
ポーションは所謂万能薬なので戦闘で負傷した時だけでなく病気の時にも飲む。
だから数少ない錬金術師は日々ポーション作りに駆り立てられることになるのだ。
「まだ屋敷内で改善したいものがあるのかい?」
「ありますよ。洗濯機とか掃除機とか?」
「それはもう構想はあるの?」
「あります」
夢はオール家電ならぬオール魔道具だ。
冷蔵庫やドライヤーはお風呂の応用で既にあるが、電子レンジも作りたいし、クーラーも作りたい。
ただし魔力量がそんなに多いわけではない一般人が買ってくれるかは別問題だ。
グロスター家では魔力量が多いアンセルマ自身が家中を回って朝のうちに全部の魔石に力を込めて回れるが、他の貴族が使用人達の為に魔力を使うとは思えない。
そもそも使用人達の仕事が楽になる為だけの器具を購入するかも疑問だ。
お風呂やお茶はお湯を運んでいる間に冷めるが使用人に何度も運ばせれば良いと思う人もいるだろう。
特に掃除機や洗濯機は貴族側にメリットがない。
庭の端にあるガゼボに座ってそんな懸念を伝えるとリカルドは一緒に考えてくれる。
「自分の担当業務に関わる魔力は自分で供給させれば良いんじゃないかな?最初は大変かもしれないけど毎日使っていれば魔力量も増えて順応出来るだろう。それに雇い主だって人を減らす事が出来るメリットがあるよ」
「仕事を失う人が出るのは困ります」
「アンセルマは本当に色々考えているんだねぇ。ポットを作る人とか、それを運ぶ人とか、農家とかその分雇用を生み出しているから仕事にあぶれる事はないと思うよ?」
「リカルド様が私が考えない部分まで考えて下さるので本当に良かったです」
「喜んでもらえて何よりだよ」
そこから2人はアンセルマの部屋に行き、これからの学習計画も立て、次の宿題ももらう。
今後やりたい事を話しながらリカルドが一覧にしていく。
リカルドの字は8歳とは思えないほど美しい。
横に置かれた紙が入った木箱を見て、アンセルマはまた欲しいものを思い付いた。
「リカルド様、その一覧を私も欲しいです」
「いいよ、もう一枚書いてあげる」
「いいえ、まずは魔道具を作りましょう」
「魔道具?どんな?」
「この木箱に魔石を取り付けて、木箱の上にリカルド様の書いた原紙を置きます。そうすると箱の中に入ってる紙に同じ文言がこのまま複写されるというのはどうでしょう?」
「面白いね。やってみよう」
小間使いを呼んできて箱に穴を開けて石を嵌め込んでもらい、リカルドと手を重ねて前と同じ様に新しい魔術を教わった。
箱の中に複数枚紙を入れておけば全てにコピーが出来る簡易コピー機の完成だ。
「アンセルマ、複製の魔術は2種類あって、今回の様に平面であれば中級だけど、立体の場合は上級魔術が必要になるから覚えておいてね」
「リカルド様は上級錬金術も使えるのですか?」
「まだ途中までだけど、アンセルマに抜かれない様に頑張らないといけないね」
「十分凄いです!リカルド様、カッコいい!」
無邪気に喜んだら、リカルドがハァとため息をついて苦笑する。
錬金術の為に隣に座ったリカルドの手がアンセルマの頭をそっと撫でた。
「後で皆にもこの魔術具を見せてあげよう」
「そうですね。王宮で働く公爵様達の方が使い道が多いと思いますし」
「そうだね。手で書き写す手間が省けて助かる人は多いだろう」
「なぜ皆さん複写の魔法を使わないのですか?」
「中級魔術をこんな事のために使いたくないんだよ。魔力が勿体無いからね」
貴族ならば中級魔術を使うくらいの力はあるが、アンセルマの様に子供の頃から無駄に努力しないと中級魔術を何回も使う魔力量はない。
もしもの時の為に魔力はとっておきたいし、魔術を使った際の疲れより書き写す疲れの方がマシと思うものなのだそうだ。
普通が分からないチート過ぎるのも考えものかもしれない。
とりあえずリカルド様という後ろ盾を得たのはとても良い縁だったと感じている。
これからはリカルド様に判断は全部託していい感じに進めてもらおう。
簡易コピー機を見せると宰相であるカディネ公爵の笑みが深まった。
なんだかちょっと怖かったが、公爵にお仕事で使ってくださいと渡したら有り難く使わせてもらおう、と言って受け取ってくれたので問題ないだろう。
ちらりと横に立つリカルドを振り返ったら、にっこり笑って頷いてくれたから大丈夫なはずだ。
次は食堂に移って食事だ。
伝統的な食事であれば大皿に盛った料理が最初から用意されておりそれを切り分けて食べる。
所謂宴会料理だ。
でもそれだと冷めるし、大量に残って勿体無い。
そんな訳で我が家は前菜1品・スープ1品・主菜1品又は2品・デザート1品 のプリフィックスコース方式である。
本日の料理の説明から入り、其々が好きな料理を頼む。
「まぁ、美しいわね」
そうカディネ公爵夫人が一皿目が運ばれてきて声を上げる。
何せ肉ばっかり食べてる人達なので普段皿の上は茶色い。
だがアンセルマが一緒に今日の為に用意した料理達は美しさにもこだわっているのだ。
とは言えあまり画期的過ぎると食べてもらえないので、野菜はふんだんに入れつつもパイ包にしてみたり細かく刻んだりしている。
「これは冷たくて甘いが何のスープだね?」
「玉ねぎというお野菜のスープです。玉ねぎには疲労回復とか病気になりにくくする効果があるのですよ」
「ほぅ、これが玉ねぎ・・・」
勿論異世界転生お約束のフワフワパンにフライドポテトもある。
笑顔が深まる大人達は置いておいて、アンセルマはリカルドとここだけ参加のガスパル兄様とこれが好きだとかこれはちょっと苦手だのと楽しく意見交換をした。
やはりデミグラス風のハンバーグとフライドポテトは子供にも大人にも好評だったが、甘い人参グラッセは大人の男性陣にはお菓子の様だと若干不評だった。
じゃがいもは我が家の畑にはあるけれど、実はこの国では流通していない野菜だ。
これは将来の異世界転生お約束のポテトチップスを売り出すべくじゃがいもの生産は必須だね。
アンセルマは心のメモに今日の情報を整理しながら無事に食事を終えた。
お土産には電気ポットならぬ魔力エアポットを用意していたが、アンセルマとリカルドが席を離れている間に大人達の間では色々あったらしい。
アンセルマ監修の石鹸と、石鹸を作る際に出来たグリセリンとラベンダーの精油、そして聖水で作った化粧水。そしてパウンドケーキをお持ち帰り頂いた。
事前に渡した時計とコピー機もある。
「アンセルマ、今度は何かお土産を持ってこよう。何か欲しいものはあるかい?」
「欲しいものですか?・・・平和なにちじょう?・・・思いつかないです」
「平和な日常、か。君の願いに応える様努力しよう」
「わっ、冗談ですよ。皆さんがお野菜もしっかり食べて、元気に暮らしてくれたらそれで良いんです」
「ふむ。野菜か。良いだろう」
カディネ公爵はアンセルマの頭を撫でて満足そうに笑う。
イケおじだ。
ほんとイケおじ。
ふわふわな父様とは違う出来る男風なのが堪らない。
リカルド様も将来こんな感じかな。
公爵夫人も凄くキリリとした美人だからとても期待出来る。
「アンセルマ、今度はうちにも遊びにきて欲しいところだけれど、来年までは少し難しそうだからまた遊びにくるわね」
「はい、お待ちしてます、御義母様。」
「また面白いものが出来たら見せて頂戴ね」
公爵夫人的面白いものってなんだろう?
石鹸と化粧水を持って帰ってったってことは美容系?
大人の男性が好きな食べ物といい、少し考える必要がありそうだ。
とりあえずにこりと笑って了承しておく。
リカルドとは来週また勉強する約束をして公爵一家をなんとか送り出した。




