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第480話 騎士団長会合 後編

「さて……次は虹霓鱗(こうげいりん)騎士団と翠眼(すいがん)騎士団かな」


 俺とディートリンデ卿のやり取りが一段落したのを見て取って、カーマイン卿がすかさず議論を先に進めにかかった。


「この辺りは僕の専門外だから何とも言えないけど、君達も白狼騎士団との連携は必要だろう?」

「う、うむ。恐らく必要不可欠だな」


 気弱そうな男、翠眼騎士団の団長のマクシミリアン卿がわざとらしく咳払いをして、虹霓鱗のアンジェリカ卿に先んじて語り始める。


「実を言うと、騎士団としては我々から貴殿らの方針に口出しをするつもりはない。我々は魔法使いの活動の監視が任務であり、魔法関連の研究は構成員が独自に行なっているに過ぎないのでな」

「つまり『元素の方舟』でどんな新発見があったとしても、翠眼騎士団そのものが関心を寄せることはない、ということですか?」

「そう考えて頂いて結構。アンブローズ卿には魔法関連のアドバイザーとして貢献するよう指示してあるが、それ自体は我々本来の職務のうちではないのだ」


 言われてみればその通りである。


 彼らの任務はあくまで監視。

 監視対象と同じような研究をすることではない。


 虹霓鱗騎士団が研究団体も兼ねているので、それと同じような先入観を抱いてしまっていたが、こちらは大規模な上級騎士団だからこその特異性なのだろう。


「だが、一つだけお願いしたいことがある。貴殿らが監督しているダンジョンで新発見が増えれば増えるほど、それらに興味を示した魔法使いが研究のために移り住もうとするかもしれない……」

「現状では魔法使いが増えたという報告は受けていませんが、いずれそういう事例が増えるかもしれませんね」

「そ、それで、だ。噂を聞きつけた魔法使いが現れたなら、素性を確認して我々に報告してはもらえないか」


 マクシミリアン卿は申し訳無さそうな顔でそんな要請を口にした。


「素性の確認は『本人がどこの誰だと主張しているか』程度で構わない。教えてもらえたらこちらで真偽を照会する。できれば、どんな研究をしているのかも聞き出せたら、本当に言うことはないのだが……」

「……確かに。翠眼騎士団としては必要な情報ですね」


 現状、グリーンホロウ周辺に在住する魔法使いはほんの僅かだ。


 黒魔法使いのノワールに属性魔法使いのメリッサ、そして銀翼騎士団の拘置所に入れられた白魔法使いのブラン。


 多少の魔法を使える程度なら冒険者にもっといるが、本職と呼べるレベルならこれくらいだ。


 魔法使いがほとんどいない理由は、十中八九、魅力的な研究対象がなかったからだろう。


 ノワールもメリッサも研究を目的としていないが、本来の魔法使いはそうではなく、大部分は魔法の研究を一番の目的と定めているという。


 そういった魔法使い達にとって、グリーンホロウも『魔王城領域』もわざわざ訪れる価値を見いだせない土地だったわけだ。


 しかし、今後は状況が変わってくる。


 古代魔法文明との関わりや、魔獣を生み出すメダリオンなどの存在が広まれば、間違いなく多くの魔法使いがグリーンホロウに興味を示すことになるだろう。


 これらの情報は積極的に広められる類のものではないが、探索に大勢の冒険者が関わっている以上、少なくとも噂レベルで広まっていくことはどうしても避けられないはずだ。


「グリーンホロウに移住した魔法使いの素性、および研究目的の聞き取り調査……詳細は後でアンブローズ卿と相談しますが、冒険者ギルドとも連携して、可能な限り対応したいと思います」

「ありがたい。これで我々も対応しやすくなる」


 マクシミリアン卿は心底安堵した様子で長々と息を吐いた。


 そんな大袈裟なとも思ったが、よく考えるとマクシミリアン卿は報告を受けられる確約を得られたことではなく、それ以前の問題である『白狼騎士団の団長と円滑に対話ができたこと』に安堵しているようだった。


 彼にしてみれば、俺は初めて会う相手なうえに、冒険者上がりという真っ当な騎士とは異なる経歴の持ち主である。


 まず第一に、ちゃんと意思の疎通と相互理解ができるかどうかの時点で、大きな心配を抱えていたのかもしれない。


「ええと、それで次は……アンジェリカ卿でしょうか」


 俺は自分から議題を次に進めようとしてみることにした。


 カーマイン卿の助け舟は本当にありがたいが、いつまでもそれに頼っているわけにもいかない。


 他の騎士団長に対して、カーマイン卿を介さなければ意見を向けることもできないようでは、これから先やっていくことなどできないに違いない。


「そうですね……もちろん虹霓鱗騎士団は『元素の方舟』に大きな関心を向けています。神殿統括担当であると同時に、神々について……神々が与える力について探究する騎士団でもありますから」


 アンジェリカ卿はテーブルの上でしなやかな指を絡ませながら、こちらに視線を合わせることなく――目が見えないのだから当然だ――言葉を続けた。


「ですから、今すぐこの場で全ての希望を述べることは難しいのです。他の騎士団と比べてお伝えしたいことが多すぎますし、その前提の再確認にも手間暇が掛かってしまいますから」

「また次の機会に……ということですか?」

「私はご覧の通りの体ですから、あまり王都を離れることはありません。ルークさんが王都にいらっしゃる間でしたら、いつでも時間を用意することはできますけれど……」


 そしてアンジェリカ卿は一旦言葉を切り、俺だけではなく他の騎士団長達にも質問を投げかけた。


「私だけ皆様に何も打ち明けない形になってしまいますが、よろしかったでしょうか」

「うん、僕は別に。あくまで白狼騎士団と各騎士団の意見交換を同時にやっているだけで、他の騎士団同士のすり合わせや情報共有はオマケだからね」


 真っ先に返答したのはやはりカーマイン卿だった。


 黄金牙のギルバート卿と鉄狗のディートリンデ卿も無言で首肯し、翠眼のマクシミリアン卿も慌ててそれに倣う。


 最後に残った竜王騎士団のウィリアム卿は、全員の反応を一通り確かめてから、この会合が執り行われてから初めて重々しく口を開いた。


「私は騎士団長会合の見届け役として臨席している。諸兄らが問題と思わない事柄を、私が問題視することはない。白狼騎士団と虹霓鱗騎士団の意思決定はまた次の機会にするがよかろう」

「ありがとうございます」


 アンジェリカ卿は微笑みを浮かべて礼を述べ、そして改めて俺の方に話の矛先を向けた。


「それでは、さっそくで申し訳ありませんが、今日の夜会にでもお時間をいただくことはできないでしょうか」

「夜会に、ですか?」

「ええ、できれば――エイル議員との面会に私も同席させていただきたいのです」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] > アンジェリカ卿はテーブルの上でしなやかな指を絡ませながら、こちらに顔を向けることなく――目が見えないのだから当然だ――言葉を続けた。 > アンジェリカ卿は微笑みを浮かべて礼を述べ、…
[良い点] マクシミリアン卿の中間管理職っぽいところが響きます。 うん、13も団があればそういう方もおられる。 アンジェリカさんはゆっくりお話かなと思っていたら、最後に鋭い球投げてきましたね。 やはり…
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