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第434話 深まる謎と新たな仮説 前編

「今回はあの縦穴を実際に調査してみたんだが……どうやら僕の推測通り、あれこそ『魔王城領域』にドラゴンが現れる原因……出現経路だったと結論付けられそうなんだ」


 俺は少なからぬ驚きを覚えながら、セオドアの発言の続きを待った。


 (くだん)の巨大な縦穴については俺も前々から聞いている。


 それは町の区画が丸ごと一つ収まるのではと思えるほどの大穴で、多少の誇張はあるのだろうが、ドラゴンがまるで洞窟から出てくるコウモリ程度に見えるほどだという。


 この大穴がダンジョンの深層に繋がっていて、『魔王城領域』に棲息するドラゴンの発生源になっているという仮説も、既にセオドアの口から伝えられていた。


 だが、まさか本当に仮説が的中することになるとは。


 こういうことがあるから、冒険者稼業は今も多くの人々を惹き付けてやまないのだ。


「まだ最深部まで調査が及んでいないのだけれど、確信に至るだけの根拠はあるよ」


 セオドアは楽しそうに笑いながら、これまでの調査と研究で判明した情報を説明し始めた。


 ――まず何より確実な根拠は、縦穴を定点観測した結果だ。


 観測によって、想定よりも多くのドラゴンが縦穴から出現していることが確認されたにもかかわらず、逆にその大穴へ入っていく個体は確認されなかったらしい。


 つまりドラゴンが縦穴を通過するのは一方通行。


 第一階層から縦穴の奥へ移動したドラゴンが、元の場所へ戻ってきたというわけではないと考えられるわけだ。


「もちろん、可能性としては()()をしていることも考えられる。渡り鳥のように長い周期で縦穴を行き来していて、今は上層で過ごす時期だったりね」


 セオドアは自説が抱える欠点を油断なく認めながら、話の矛先をひとまずヒルドに振り向けた。


虹霓鱗(こうげいりん)の騎士殿。中立都市の管理者だという樹人(ドライアド)の話だと、このダンジョンは四つの階層に分かれているそうだね」

「はい。我々が『魔王城領域』と呼んでいた場所が第一階層、中立都市アスロポリスのある場所が第二階層です」


 ヒルドは卓上に大判の資料を広げた。


 管理者フラクシヌスから提供を受けた情報を元に作成された、ダンジョン『元素の方舟』の簡潔な全体想像図だ。


 最も上層にあるのは、俺達が『奈落の千年回廊』と呼ぶ第一迷宮で、その下には『魔王城領域』こと荒野のような第一階層が存在する。


 魔王城の地下に広がる小規模な迷宮が第二迷宮で、それを抜けた先に、水と緑に満たされた第二階層が広がっている。


 そしてここから先は完全に伝聞と想像なのだが、同様に第三迷宮と第三階層、第四迷宮と第四階層も想像図に記載されている。


「僕の手元にも最新の情報が届いている。このダンジョンは『元素の方舟』の名の通り、四大元素になぞらえた四つの階層が設けられているそうだね」


 まずセオドアは想像図の第三階層を指で叩き、次に第四階層へと指先を動かした。


「四大元素は()()順に土、水、風、火という順番になるとされていて、各階層は上からこの順番に並んでいる。そして第四階層は火の階層だ」

「ええ、管理者フラクシヌスからはそのように伺っています」

「ドラゴンは元より火の属性と繋がりが強い魔物だ。第四階層がどのような環境かまでは知らないが、本来の生息地としては違和感がないだろう」


 加えて、セオドアはドラゴンの種類とそれぞれの生息地について語ろうとし始めた。


 一口にドラゴンと言っても多種多様な種類が存在し、口から吐く炎が(ブレス)と称されるのも、種類によって吐き出すものが異なるから……などなど、放っておいたらこれだけで日が暮れそうな勢いだ。


「標準的な命名規則に従うなら、このダンジョンに棲息するようないわゆる『普通のドラゴン』はファイアドラゴンとでも呼称されるべきなのだろうけど、何も付けずにただドラゴンとだけ呼ばれるのが一般的だね」

「は、はぁ……」

「代わりに、(ブレス)のみならず全身に炎を纏う特異な種類がファイアドラゴンと呼ばれて……」

「話が脇道に逸れてますよ」


 勢いに押されて口出しできずにいるヒルドに代わって、俺が注意をして話を本筋に戻すように促しておく。


「おっと、失礼。ともかく、()()()仮説はこうだ。本来ドラゴンは第四階層に棲息していたが、フラクシヌスも知らぬ間に穿たれた縦穴を通じ、ドラゴンが第一階層にまで縄張りを広げている……とね」

「管理者フラクシヌスの証言とも矛盾しませんね」


 ヒルドは資料の束をめくりながら、フラクシヌスから得られた情報の一部を改めて読み上げた。


「管理者フラクシヌス、魔族王ガンダルフ、そしてイーヴァルディ……アルファズルのかつての仲間である彼らは『元素の方舟』を管理運営するため、第三階層に居住していたそうです」


 ――彼らの活動のごく初期において、各階層は次のように役割が割り振られていたという。


 第一階層は地上からの脅威を迎撃する前線基地にして、地下資源を収集する採掘基地。


 第二階層は地上の自然環境の一部を保全し、動植物や魔物と魔族の命脈を保つ保全地区。


 第三階層は人間を含めた文明的な生活を送る種族が暮らす、極めて高度な都市領域。


 第四階層は各上層の機能を維持するエネルギーを発生させる、いわば動力機関。


 ただしこれらは、あくまでフラクシヌスが知る最初期の割り振りに過ぎない。


 フラクシヌス曰く、彼はかなり早い段階で第二階層の魔族の保護に乗り出し、第二階層に移住して自らを中立都市(アスロポリス)に作り変えてしまった。


 それ以降はあまり情報も入ってこず、第一階層どころか『元素の方舟』にドラゴンが棲息していることも、それが特定条件で地上に解き放たれることも、彼は全く知らなかったのだ。


 ましてや魔王ガンダルフが第三階層を放棄して上層に移動した理由も、魔王軍を敗走させた謎の自動人形……アガート・ラムの出自や正体も、現在の第三階層の情勢も全く把握できていない。


 俺達がフラクシヌスから得られた情報は、彼がアスロポリスになる前の初期情報と、それ以降に知ることができた僅かな情報だけで、現在の『元素の方舟』の情勢全てを知ることはできなかったわけだ。


 現時点における第三迷宮以降の様子は全くの謎。


 地形も環境もフラクシヌスが知るものから掛け離れてしまった可能性すらある。


 もちろん、現状の証言だけでも極めて重要かつ大きな前進であるのだが――


「これは実におかしな事態だ。『元素の方舟』は古代魔法文明の滅亡を乗り越えるため、地上の環境や文化文明を保管するために造られたと聞いている。だが、ドラゴンはその対象外だったはずなんだろう?」


 セオドアの口元に心底楽しそうな笑みが浮かぶ。


「恐らく、ドラゴンの保護は他のダンジョンに任せるつもりだったのだろうけど、現にドラゴンが存在してしまっている。この謎は是が非でも解明したいと思っているし、それに……実は仮説だけなら既に浮かんでいるんだ」

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https://manga-park.com/app
https://kadokawabooks.jp/blog/syuuhukusukirugabannou-comicstart.html
― 新着の感想 ―
[一言] セオドアがモン⭕️ンの世界に行ったら大歓喜しそうですな
[良い点] え、彼だったんですかフラクニス!? 植物だから便宜上かもしれませんが、アニメ化かボイスドラマ化したらいわゆる声バレが起こりますね。 しかし、セオドアの調査力と推理力はなかなかのもので。 僕…
[一言] フラクシヌスって男性だったんですね。 なんとなく女性のイメージを持っていました。
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