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第352話 ドワーフの剣とミスリルと 後編

「……調べてみないとな。一体何があったのか。できることなら、今すぐに」


 ドワーフが秘蔵していた名剣の【修復】と、ミスリルとの【合成】の際に生じた謎の発光。


 その原因を解明するため、まずは普通に扱っても発生する現象なのかどうかを確かめることにする。


 剣身に触れ、柄を握って持ち上げてみる。

 しかし特に目立った反応はなく、ただの剣との違いは感じられない。


「もしかしたら剣の作りに理由があるのかもしれないな。今度は集中して【解析】してみるか」

「さっきは使ってなかったんですか」

「意識して発動させないと、どうしてもな。ただ元通りにするだけならいちいち頭に入ってこないんだ。勝手に流れ込んでくることもあるにはあるんだが……」


 だからこそ別個の能力として分類し、他とは異なる名称を付けて呼んでいるのだ。


 同時に発動させたならともかく、ただ【修復】や【合成】しただけで【解析】と同じ効果が得られるなら、わざわざ【解析】を独立した力と認識する意味は薄いだろう。


 アレクシアの問いかけに答えながら瞼を閉じて、改めて意識を集中させて【解析】を発動する。


 ノワールが作製したガーネットの剣とは違い、表面には何の仕掛けも加工もない。


 しかし更に奥、剣身の内側に何か違和感がある。


 本来なら構成物質がみっしりと詰まっているはずの剣身内に、細く複雑に入り組んだ何かが張り巡らされている、とでも表現するべきだろうか。


「立体的な魔法紋? そんなことができるのか……?」

「ちょ、ルーク君! また光ってます! ぼんやりとですけど!」


 慌てた様子のアレクシアの声を聞き、すぐに目を開けて現状を確認する。


 確かに剣身が青い炎のような淡い光を纏っている。


「これ……ルーク君のスキルの魔力が発光するのとは……また違いますよね……」

「ああ、そうだな……アレクシア、ちょっとこいつに【重量軽減】を使ってみてくれ」

「もしかして()()()()()()ですか?」


 アレクシアは察し顔で柄を握って【重量軽減】スキルを発動させた。


 すると、今度は白銀の剣身が暖色系の光を帯びていく。


「やっぱり。これ、スキルの魔力に反応してるんですよ」

「お前もそう思うか。ミスリル製の武器は魔力の作用を高めるけど、妙な光り方はしないはずだから、そういう機能が武器に仕込まれてると見てよさそうだな」


 そんな仮説を口にしながら、今度は納品された普通の剣とミスリルを【合成】させてみる。


「……特に反応なし。普通の鉄鋼より馴染みがいい感じはするけど、光ったりはしないと。普通じゃないのは剣の造りで間違いないか」


 順調に分析が進むにつれ、謎だった発光現象の性質も少しずつ明らかになっていく。


 まず第一に、この現象はスキルの魔力に反応している。


 第二に、原因は俺のスキルや材質の金属の方ではなく――後者は全くの無関係とも言い切れないが――剣身の内部に仕込まれた魔法紋らしきものにある。


 通常のニューラーズ製の剣では同じことが起こらず、普通の鉄剣よりもミスリルの馴染みが良く、多少の性能向上が期待できそうなくらいだ。


「それにしても、どうしてあんなにボロボロになるまで放置されてたのやら。後生大事にしまい込んで中身を確認しなかったのか……その辺りは後でニューラーズに尋ねてみるか」

「あのー……凄く基本的なこと聞いてもいいですか?」


 エリカがおずおずと肩の高さに手を上げ、少しばかり気まずそうに眉根を寄せながら、これ以上なく根本的な疑問を投げかけてくる。


「ぶっちゃけ、こんな風に光って、何か意味あるんです?」

「……何だろうな。【解析】中も変な感じはしなかったし」

「……何でしょうね。【重量軽減】が強化されたとかもないですし」


 俺もアレクシアも揃って首を捻るしかなかった。


 仮説にすらならない無根拠の想像なら、いくらでも際限なくぶち上げられると思うのだが、そうすることに意義があるのかは(はなは)だ疑問だ。


 これがもし命の懸かった緊急事態であれば、仮説未満でも構わないから最も可能性の高いものを選び出していたところだが、今はそこまで切迫した事態でもない。


「後でノワールにも聞いてみるか。魔法紋なら【魔道具作製】スキルの範疇だろ」

「今日は駄目ですよ。ノワールさんは休みの日なんだから」


 ノワールに頼る考えを口にするや否や、エリカが先回りをして釘を差してくる。


「ていうか、時間が掛かりそうなら明日以降でも良いでしょ。ただでさえ、最近のノワールさんは働き過ぎかもって思うくらいなのに」

「分かってるって。あいつが忙しいのは俺にも責任が……いや、俺に責任があるんだしな」


 俺は店主で雇用主、ノワールは店員で被雇用者なのだ。


 ノワールに働き過ぎの恐れがあるなら、その責任は全て店主(おれ)にある。


 ひとまず分析を終えることにして、剣を鞘に収めて作業台に置いたところで、店の方から支店スタッフのハリエットがひょこっと顔を出した。


「店長さーん。そろそろ『本部』に行った方がいいですよ。ガーネット君が怒っちゃいます」

「おっと。悪いな、エリカ、アレクシア。後は任せてもいいか?」


 発光現象の分析につい力を入れすぎ、次の予定までの時間が押してしまっていたらしい。


「大丈夫ですよ。支店から二人も来てもらってますし」

「騎士団の本部の準備も大詰めなんでしょ。先に行ってる皆を待たせるのも悪いし、店の方は私達に任せてさ」


 エリカとアレクシアの心遣いに感謝しつつ、ニューラーズの剣の陳列と保管を二人に任せ、俺はエゼルのための剣だけを持って建設中の騎士団本部へ赴くことにした。


 皆が言うようにあちらの準備もいよいよ大詰め。


 まだ全ての騎士が派遣されたわけではないが、少なくとも騎士団の活動拠点として機能させるだけの用意が整いつつあるのだ。


 店を出る前に、支店から来てもらったスタッフにも声を掛けておくことにする。


「向こうも忙しいのにごめんな」

「いえいえ。むしろちょうどよかったですよ。明日の休みは地上で買い物する予定でしたから。たまにはこっちの温泉にも入りたいですし」

「そうですよ。向こうの大風呂、お湯はこっちと同じはずなんだけど、やっぱり雰囲気が足りないというか」


 ハリエット達支店スタッフは、明日の予定を思い浮かべて楽しげに笑みを交わしている。


 俺はそんな彼女達に店頭を任せ、思考を武器屋の店主から騎士団長へと切り替えながら、急ぎ足で店の外へと踏み出していった。

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