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第256話 巨大人形 後編

「奴には弱点になる術者が存在しません! ゴーレムとして自動的に動いているだけなのかも……!」

「一理ある。ならば()()()()()()


 獣が牙を剥くかのように、トラヴィスは獰猛な笑みを浮かべた。


 トラヴィスのあまりにも堂々とした発言に、サクラは思わず言葉を失ってしまう。


「魔法使い……メリッサだったな。三度に渡って魔力の波動が駆け抜けたわけだが、発生源は感じ取れたか? 具体的な位置までは分からなくてもいい」

「えっ!? えっと、ごめんなさい……発生源が不確定で……多分、外部からの命令じゃありません! ゴーレム同士で連携を取り合っているだけみたいです!」


 唐突な質問に困惑しながらも、メリッサは上半身だけの巨大人形が腕を伸ばして殴りかかってきたのを、強力な風の魔法で横に逸した。


 突風魔法の余波。巨大な拳の風圧。トラヴィスは砕け飛び散る床の残骸すらも涼風のごとく受け流し、未だに攻略の糸口も見いだせない巨大人形を見上げていた。


「つまりアレは、それぞれのゴーレムの魔法文字が連携し、擬似的に一つの大規模な制御系となることで巨体を操っているわけだ。ならばアレを構成するゴーレムの魔法文字を破壊し尽くせばいいだけのこと! 単純だな!」

「それが弱点と言えるんですか!?」

「言えるとも!」


 巨大人形が振り子のように拳を振るい、腕を伸ばしながらすくい上げるような軌跡の攻撃を繰り出す。


 トラヴィスは片足を前に突き出して真っ向からそれを踏みとどめた。


「魔将ヴェストリの巨人は、魔将本人を潰さない限り全身をくまなく切り刻んでも無意味だったんだろう? だがこちらは()()()()()()。これを弱点と言わずなんと言う! それに全て破壊せずとも、魔法文字を減らせば動きが鈍るだろうしな!」


 サクラは息を呑み、無茶苦茶な暴論にも聞こえるトラヴィスの理屈を咀嚼(そしゃく)して、それが現時点における最善手であることを理解した。


 ルークとトラヴィスはあらゆる面で正反対であり、それゆえによく噛み合っている。


 身体能力を支えるスキルを持たず、限られた力を最大限に使って蟻の一穴(いっけつ)を穿つかのように戦おうとするルーク。


 圧倒的身体能力のみを強みとし、有り余る力を最大限に使って大胆不敵な戦術を駆使するトラヴィス。


 方向性は真逆だが――もしもルークがこの場にいたとしても、トラヴィスと同じ発想に至っていただろうと思われた。


「……ルーク殿がいればより楽に片がついたかもしれませんね」

「俺もそう思う。だが無い物ねだりをしている暇はないな」


 そしてトラヴィスはすぐさま全員に指示を出した。


「奴は体表を残骸で構成し、未だ健在な人形型ゴーレムを覆い隠している! まずは俺の拳とメリッサの魔法でこれを剥ぎ取る! 露わになったゴーレムの魔法文字を片っ端から破壊してしまえ!」


 この場の全員が即座に各々の役割を理解し、すぐにでも実行に移せる構えを取る。


 更に、戦うためのスキルを持たないレイラまでもが、意を決した様子でトラヴィスの隣に進み出た。


「わ、私にも手伝わせてください!」

「――いいだろう! さっきの投擲弾はまだ残っているな? 合図をしたら俺の前に片っ端から放り投げろ!」

「はいっ……!」

「総員! いくぞ!」


 号令と同時に先陣を切ってトラヴィスが動き出す。


 レイラが必死になって次から次に放り投げた投擲弾に、トラヴィスは片っ端から正確無比な拳の連撃を叩き込んだ。


 炎、氷、風、雷――作動した魔法効果が魔力の拳圧に巻き込まれ、属性効果を帯びた衝撃波と化して巨大人形を襲い、表層の残骸を打ち砕き剥ぎ取っていく。


 本職の魔法使いであるメリッサも負けじと属性魔法を発動させ、数本の竜巻の柱で巨大人形の表層を削り取っていった。


「見事な猛攻――私も負けてはいられないな」


 サクラは薄紅色の刀を鞘に収め、迷いを斬り裂くかの如き勢いで総緋緋色金造の真紅の刀を抜き放った。


「トラヴィス殿! 三十秒間だけ切り札を使います! この閉鎖空間ではそれ以上は持ちません! 私もあなた方も!」

「構うな、思いっきりやってこい! もしもの場合はルークに尻を拭かせるまでだ!」

「はい! ――御座(おわ)しませ、火之炫日女(ヒノカガヒメ)!」


 神降ろしの行使によってサクラの総身に灼熱の魔力が滾る。


 ただ周囲にいるだけで肌が焼けると錯覚するほどの熱気を発し、黒く長い艷やかな髪は燃え上がるような赤色に染まる。


 長くこの場に留まれば、他の冒険者を焼き殺してしまいかねない――サクラはそれを察していたため、太陽のように輝く瞳で巨大人形を睨みあげて【縮地】を発動させた。


「参る!」


 サクラは一瞬のうちに巨大人形の胸部に肉薄し、絡み合って胴体を構成する人形型ゴーレムに刃を振るった。


 もはや切断を越えて溶断の域に達した一撃は、まるで熱したナイフでバターを切るかのような容易さで、複数の人形を溶けた残骸へと変えた。


 人形を蹴って【縮地】の発動を幾度も重ね、その度に真紅の刀を振るって魔法文字を溶かし潰していく。


「――まったく、なんて熱量だ。俺達を蒸し殺すつもりか」


 サクラの視界の隅で数体の人形の額が斬り裂かれる。


 そして一瞬だけ眼前にナギが姿を表したかと思うと、すぐに高速移動スキルで姿をかき消し、別の場所で人形の首が切断された。


 あちらはあちらで、必要最小限の動きだけで的確に人形型ゴーレムを潰しているらしい。


「加減をしてもこれほどとは。貴様、本当に制御できるんだろうな」

「扱える範囲で使っているつもりだとも。だが、それもじきに限界か……!」


 サクラは歯噛みをして巨大人形の肩を蹴り、大きな宙返りをするかのような軌跡で後方へ飛び退きながら神降ろしを解除した。


 出力を加減して行使したつもりだったが、使い続ければ使い続けるほどに、体の内側で滾る熱量が際限なく増していくのが分かった。


 長く行使し過ぎれば、この熱量が弾けて溢れ、制御不能な最大出力で暴走してしまうかもしれない。


 そうでなくとも、魔将の一人である炎使いの剣士と戦ったときのように、自分以外の何者かに意識を奪われてしまうことになるかもしれない。


 だから自分はここまでだ。後は任せるべき者達に任せよう。


「後は、任せろッ!」


 跳躍したトラヴィスと空中で交錯する。

 その肉体は、メリッサの魔法かレイラの魔道具によるものか、サクラの神降ろしの残り火に耐えうるよう、濃密な氷と冷気に覆われていた。


「おおおおおおおっ!」


 巨大人形の頭部に、ミスリルのガントレットに覆われた拳が叩き込まれる。


 破滅的な衝撃は頭部を貫き、頸部を経て胴体へ至り、巨大人形をバラバラに打ち砕いたのだった。

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