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第235話 レイラの恋愛事情

 そうこうしながら第五階層に到着し、騎士団の要塞を流用したホロウボトム支部へと足を踏み入れる。


 かつては魔王戦争のための基地であった建物も、今は『魔王城領域』の探索に臨む大勢の冒険者と、彼らを顧客とした商売を営む人々で大いに賑わっている。


 店舗の種類も通路を歩く人々も非常に多く、この大きな施設全体が一つの商業街の縮図と化しているといえるだろう。


「さてと……こっからサクラを探すのは骨が折れそうだな」


 ガーネットが周囲を見渡しながら口元を歪める。


「急ぎの用事じゃないんだから、見つからなくてもまた後日にすればいいさ。それに、ダンジョン探索計画について知りたいなら、誘われた側じゃなくて()()()()に話を聞く方が手っ取り早いだろうしな」

「そういや心当たりがあるって言ってたな。まぁお前の顔の広さなら当然か」


 十五年も冒険者をやっていれば自然と顔見知りも増えていく。

 高ランクにまでのし上がった奴も珍しくない。


 魔王軍やドラゴン以上の脅威が潜んでいるかもしれないダンジョンの深層探索なんていう、ハイリスクな案件を主導できる冒険者はそう多くはない。


 ……もちろん勝手に乗り込もうとする奴は多いはずだ。

 黄金牙騎士団が深層部への入り口を監視していなければ、結構な人数の冒険者が乗り込んでいたことだろう。


 そんな状況下で、騎士団も他の冒険者も納得させられるリーダーになれる冒険者となると、さすがに数が限られてくるのだが……そういう奴の心当たりが俺にはあった。


「ノワールとエリカはこれから休憩だよな。もしもサクラに会ったら、俺が探してたと伝えてくれ」

「了解です。明日からまたよろしくお願いしますね、お店の方」


 ひとまずここからは二人と別行動を取ることにして、ガーネットと一緒に支部の中を進んでいく。


 しばらく廊下を歩いたところで、日用品を売っている店舗の近くで見知った少女を見つけた。


 短い黒髪に赤い瞳。年齢はシルヴィアやガーネットと同じくらい。

 そんな少女が壁際で不自然に身を隠して、曲がり角の向こうの様子を窺っている。


 まさかサクラを探していたらこちらと先に出くわすとは。


「何やってるんだ、レイラ」

「ひゃあっ……!」


 レイラは素っ頓狂な声を上げてびくりと身を震わせ、目を丸くしてこちらに振り返った。


 ベアトリクス・レイラ・ハインドマン。

 支店の開設に合わせて大量雇用したスタッフの一人であり、支店ではなく本店の補充要員として働いてもらっている少女。


 その正体は、国王陛下の近衛兵団である竜王騎士団、それを構成する一族の一つであるハインドマン家の一員だ。


 あくまで一族の一人であって、彼女自身は騎士ではなく、グリーンホロウに派遣された理由も『白狼の森のルークを一族の人間と結婚させ、一族に組み込んでから竜王騎士団に入団させる』という計画の下準備のためだった。


 俺がそれとは別の計画を了承したことで、竜王騎士団が関係する計画はお流れになったはずだったが、レイラは以前と変わらずホワイトウルフ商店のスタッフとして働き続けていた。


 竜王騎士団やハインドマン家がどう考えているのかは分からない。


 しかし、レイラ本人の考えは手に取るように分かってる。


「ひょっとして……ああ、やっぱり」


 おたおたと戸惑うレイラの頭越しに顔を出して、曲がり角の先に目を向けると、案の定そこにはトラヴィスの姿があった。


 黒剣山のトラヴィス。

 俺よりも更に上を行く長身と、相当な量の筋肉を搭載した屈強なAランク冒険者。


 勇敢でかなり面倒見がよく、人好きのする性格から多くの同業者に慕われ、多くの若手を含む大規模なパーティを率いる男だ。


「や、やっぱりとは何ですか……!」

「お前がそんなぼうっとした顔する相手なんて、トラヴィスくらいしかいないだろ」


 そもそもレイラが引き受けていた『下準備』とは、俺がハインドマン家と竜王騎士団の一員として、ひいては自分自身の婚約者として相応しい人物かを見定めることだった。


 結果的には肉体的な強靭さ、たくましさが不足しているという今ひとつな評価だったのだが――ふとした偶然からトラヴィスは持ち前の屈強さでレイラの命を救い、レイラは理想的な異性に出会ってしまったわけだ。


「い、いいえ、これは情報収集です。私達の騎士団としても注視せずにはいられない案件ですから」

「近衛兵の黒竜騎士団にゃ関係ねぇだろ。銀翼(オレたち)や黄金牙ならいざしらず」

「竜王騎士団です! 旧称で呼ばないで頂きたいと何度言ったら!」


 頬を赤らめて苦し言い訳をするレイラを、ガーネットは悪童のような笑みでからかっている。


 もちろん二人のやり取りは声量を適度に抑えられているし、廊下の喧騒にかき消されて他の誰の耳にも届いていない。


「しっかし、ハインドマン家のお堅いご令嬢が、三十越えた筋肉男に御懸想とはねぇ。世の中、何があるか分かんねぇもんだ」

「あいつ俺と同い年だぞ」


 断じてガーネットは人のことを言えないけれど、それをレイラのいる場所で指摘するわけにもいかない。


 ガーネットも承知の上でレイラをからかっているのだろうが、将来的に真相を明かしたときのことを考えているのかどうかは定かではなかった。


「……そ、そんなことより! 例の約束を覚えておられますよね! あっ、この場での内容確認は不要です! この銀翼騎士には他言なさらないでください!」

「もちろん。きちんと覚えてるさ」


 俺が王都まで赴くことになった原因――ガーネットが父親から婚約者の選定を命じられていると知ったとき、俺は最速で王都に行くために様々な人の力を借りた。


 このうちの一人がレイラだ。

 レイラにはガーネットが参加する予定の伯爵主催の夜会について教えてもらい、この情報を元に更なる対策を練ったわけである。


 そして、情報提供の対価として提案したのが、トラヴィスにレイラのことを紹介するというものだった。


「約束の件もあるし、俺もあいつに聞きたいことがあるから、ちょっと行ってくる。ここで待っててくれ」


 俺はガーネットに向けて口の前で人差し指を立てる仕草を――黙っているようにという意味合いのジェスチャーをして、曲がり角の向こうへと踏み出した。


 ガーネットには他言無用と言われたが、実はもう手遅れだった。

 夜会に乗り込んだその日のうちに、そういう約束でレイラから協力を取り付けたことを伝えてしまっている。


 そのことを黙っているようガーネットに伝えてから、冒険者の一団と話し込んでいるトラヴィスに声を掛ける。


「トラヴィス、ちょっといいか?」

「ん? おお、ルークか! 王都から戻っていたんだな!」

「唐突で悪いんだが、いくつか聞きたいことと話したいことがあるんだ」

「お前なら別に構わんぞ。人払いは必要か?」

「聞きたいことの方は大丈夫だ」


 笑みを浮かべるトラヴィスに、本題の質問を単刀直入に投げかける。


「『魔王城領域』の深層領域の探索、お前が主導してるんだろ? どんな計画になってるのか聞いてもいいか?」

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空往く船と転生者 ~ゲームの世界に転生したので、推しキャラの命を救うため、原作知識チートで鬱展開をぶち壊す~
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