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鍵はショートケーキ

「マスター、改めて自己紹介させてもらうわね。私はユウ・ライト。」

「ぎ、銀髪の……天使様……。」

前回は火山の国の国民に変装していったため、ここにこの姿で現れるのは今日が初めてだ。

オニキスの言う通り、どうやら私はこの辺りでは“銀髪の天使様”で通っているらしい。

モノクロの三魔に銀髪の天使、次々と異名が増えてくる。

それだけ人々に周知されることがなんだか誇らしい。頼られているって感じだ。

「銀髪の天使様がこの店に来てくださるなんて……今日は良い日だ。神様ありがとうございます。」

空に向かって祈るマスターを見て、ユウタは吹き出す。

「銀髪の天使様って……何ですか。その恥ずかしいネーミング。誰が考えたんですか。」

「な、恥ずかしく何てないでしょ!かっこいいじゃない!……ユウタだっていつか黒髪の両目隠しなんて言われるかもよ。」

「それ、異名じゃなくて特徴じゃないですか。」

自分のおかしな髪型に自覚はあったようだ。

一先ず、銀髪の天使様が恥ずかしいかは置いといて話を進めよう。

「マスター、申し訳ないのだけど実はユウタはいつか遠くにある故郷に帰らないといけないの。だから、マスターにはユウタの料理を作れるようになってもらうわ。」

「天使様の啓示でしたら、従います。ユウタくんお願いします。」

マスターはユウタの手を強く握りしめる。心なしか背後に熱い炎が出ているかのようだ。

やる気に満ち溢れるのはいいことだ。マスターもその気になってくれて本当に良かった。

「ただ……。」

「ただ?」

「些細なことなのですが、私が厨房に入ると接客担当がいなくなってしまうので……。」

大切なことを忘れていた。

今この店はマスターとユウタの二人で回している。流行っていなかったときなら良かったが、繁盛してからは二人でもギリギリ。それでユウタがいなくなれば、マスター一人では絶対にこの店を切り盛りすることはできないだろう。

マスターのことを考えずに勝手に盛り上がっていたのが申し訳なくなり、意気消沈しているとすぐにマスターは訂正する。

「あ、いや、でも、接客担当の従業員のことは後で考えればいい話ですから!まずは、私がユウタくんの作る料理をきちんと作れるかですよね。」

両手をグーにしてファイティングポーズをとるマスターはなんだか可愛らしい。

愛嬌だけなら、マスターはこの繁華街一だと自身を持っていえるが、問題は味だ。

見様見真似で作ったぷりんは、石のように固くなっているし、サンドイッチも黒焦げだ。

はっきり言って、マスターの料理は美味しくない。

だから、良い人でもお店は流行らなかったんだ。そのマスターの料理の腕をユウタはあげることができるのだろうか。

「料理に関してはもっと簡単にできるものをいくつか考えておきます。その中から、お店の新メニューにふさわしいものを選びましょう。」

「ユウタ、すごいのね。新しい料理まで考え付いちゃうの?」

素直に感心しているとユウタは首を横に振る。

「新メニューって言っても、俺のレパートリーの中にあるものを少しアレンジする形にしましょう。そのほうがシンプルです。」

私も負けていられない。

キョロキョロとお店の中を見渡す。

年季の入った建物のため、所々壁にヒビが入っている。これも直さなくては。

「お店の内装もこんな寂れた感じじゃなくて一新しましょう。表の看板の文字読めなくなってから、あれも塗りなおさないと。」

「いっそのこと、お店の名前も変えるなんてどうですか?」

ユウタのアイディアに一同沸く。

確かにそれは良い。はっきり言って、この食事処の名前はダサすぎる。

シンプルに“食事処”だもの。

「それじゃあ、新しい名前はユウタくんが考えてよ。」

ユウタの意見に同調したマスターが人の好さそうな笑顔で頼み込む。

そんな笑顔で頼まれたら、ユウタも断りづらいだろう。

「わ、わかりました……。新メニュー開発の間にでも考えておきますね。」

流され体質というかなんというか、ユウタが人の頼みを断ったことを見たことは無い。

そういうところが、ユウタの良いところに違いない。

「がんばっているようね。」

入ってきたのはオニキスだった。

一応、オニキスは女王直属の占い師だ。仕事が終わってから、駆けつけてくれたのだろう。

突然やってきたオニキスに驚いて、またマスターはありがとうございますと天に感謝を伝えている。

魔女に対する有難みが強いのはとても嬉しいが、少し感情が豊かすぎやしないだろうか。

そんなマスターのことはとりあえずほっといて、オニキスに問いかけた。

「今、このお店を新しく蘇らせる話をしてたの。オニキスなら、どんなお店がいい?」

「そうね……。どこか、お菓子を食べながら休憩ができる場所があると良いのだけどね。」

「なるほど……。ティータイムってわけですね。」

ユウタは少し考えたあとにぽつりいった。

「お菓子なら、ユウタが作るぷりんがあるじゃない!」

ユウタの作るぷりんは正しく絶品だ。

おやつに食べるのも、食後のデザートに食べるのも、ばっちりだ。

ティータイムでユウタの作るぷりんが出たら、私は毎日でもその店に通うかもしれない。

「プリン一つだけだったら、お客さんが飽きちゃいますよ。……新メニューはケーキにしましょう。ショートケーキです。」

「しょーとけーき……?」


この時、私たちは気づかなかった。

お店を見つめる怪しい影があったということに。




毎月22日はショートケーキの日です。

理由を知らない方はカレンダーを見てください。

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