キャットフィッシュ釣り(2)
今回もよろしくお願いします。
風はほどほどだ。
対岸が霧に隠れて全く見えない。それくらい水面が平らで広い。
ここが海だと言われれば、僕はそれを信じただろう。でもここは海ではなく湖らしい。
ここまで僕たちを乗せてくれた車は、僕とシンとキョウの3人を残して帰って行ってしまった。夕方ごろ、迎えに来てくれるらしい。
シンは飽きたら何か美味しいものを食べに行こうって言ったけど、車がないんじゃ何処にも行けないじゃないか。歩いて何かを探そうなんて気がまるで起こらないほど、此処の景色はだだっ広くて何もない。また僕はシンに騙されたらしい。
太い釣り竿が2本、土の地面に突き刺さり、僕たちの前に何かの目印のように立っている。竿は金具に紐で結ばれている。すごく太い黄緑色のカラフルな糸がリールっていうごろんとした機械に巻き付いている。
僕の知ってる釣りとはまるで勝手が違う。
いや、最初は僕が子供の頃にやった釣りとほとんど一緒だった。
2メートルくらいの竹の先に糸を結んで、細かく切った魚の身を針につけて餌にした。
すぐ足元の水面に糸を垂らすと、一分もしないうちに竿の先がぐんぐんって空を踊った。
ぐいと竿を立てると、20センチくらいの平べったい銀色の魚が、くねくねと体をうねらせて上がってきた。
シンもキョウも同じ事をやっている。糸を垂らせば簡単に魚が釣れる。一番大きい魚でも25センチくらいしかなかった。釣りを始めてほんの30分ほどで、3人で15匹ほどの魚を取った。この魚たちは水中に浸かっている魚篭に入った。
やっぱり釣りはあまり楽しくなかった。一匹目の魚が掛かったときは少しだけ興奮したけど、3匹目の魚が釣れる頃にはすっかり僕は飽きてしまった。
釣りが一生やっても退屈しない遊びだなんて、とても信じられない。
「よし、エサは確保でした。これからが本番だよ、マオイ」
にこやかに嬉しそうに、そう口にしたシンの一言で、僕たちは今までエサにする魚を釣っていたんだって解った。
キョウがホテルから持ってきた2本の太い釣り竿を手にした。予めホテルの部屋で仕掛けは作ってある。仕掛けを作ったのはキョウだったけど、その手付きは慣れていて素早かった。
針の大きさはこれまで小魚を釣っていた針とは比べ物にならないほど大きい。僕が力いっぱい引っ張ったって形が変わらなさそうなほど太い。
魚篭に手を突っ込んで、まるで苦労することなく、一匹の魚をキョウは鷲掴みに捕まえた。この魚の鼻あたりにキョウが針を刺す。
“ブ~~ン”とキョウが竿を振るうと、エサの魚が勢いよく遠くの湖面に向かって飛んで行った。30メートルは向こう側の水面で、“ボチョン”という音が起った。
手を使ってリールから糸を数回引っ張り出して、竿を地面に突き刺した。
もう一本の竿もキョウは同じことをした。一本目の時より、少しだけ餌は遠くに飛んで行った。
そして地面に立った釣り竿2本の先を眺めながら、僕たちはお尻を地面に落として座っているのである。地面とお尻の間には、藁を編んだゴザがあるだけだ。
あまり長く座っていると、お尻が痛くなりそうだ。
10分経ち、20分が過ぎ、30分以上の時間、僕たちは地面に腰を下ろして座っていたけれど、全く何にも起こらない。偶に西から吹いてくる風が、少しだけ地面の砂を巻き上げる。空気が湿っているので砂の作る煙は、それほど高くは舞い上がらない。
朝からこんな感じだと、今日も夕方スコールが起こるなぁなんて、僕はぼうと考えていた。
なんの前触れもなく、ジジジィ~~って音を立ててリールから勢いよく釣り糸が飛び出て行ったのは、その時だった。