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とある勇者パーティーの剣士の話  作者: 邪眼
第一章、黒い森の少女
30/33

願わくば、この幼い勇者が健やかに羽化の時を迎えん事を

「今からでも遅くない、怖いなら、親元に帰ったって誰も咎めはしない。

 わざわざ酷い世界を知ることも無いんだ」


 そんなことを言って笑ったウィンは、きっと私の為だと思って言ってくれているのだろう。

 と、ナタリーは痺れたように何も考えられなくなっている頭でそんなことを思う。

 立て続けにアルフィーやウィンの強い感情に触れたせいで疲れたのか、酷い眠気に襲われる。


 勇者について語る時のウィンは異常だ。


 普段の気だるげとも言える様な穏やかさはなりを潜め、荒れ狂うような激しさだけがそこにはある。

 それは憧憬、妄執、或いは盲信、または狂信とされる類の激しさだ。

 盲目的なまでに勇者(・・)に傾倒し、勇者とはこうあるべきだという理想を語る様子は熱狂的でありながら、何処か苦し気で、胸に痛みを覚える程に不安定で悲しい物に思えてならない。


 ナタリーはぼんやりとした頭で考える。

 先程、ウィンが語っていた最中からまるで自分の中に誰かがいて、こんな時にはどうしたらいいのか教えてくれているかの様な妙な感覚がしている。


「でも、勇者が逃げ帰るわけにはいかない。

 ……そうだよね、ウィン?」


 その感覚に従って、そう言って安心させるように笑ってみせると、ウィンは少し驚いた様に目を見開き、それから困ったように笑った。


「あぁ、そうだな」


 ……どうやらこれでよかったらしい。


 それにしても、この感覚は何なのだろう。

 それに、ウィンは何を見て、聞いて、知っているのだろうか。

 先代の、ナタリーからすれば先達、もしくは先輩にあたる勇者は、どんな死に際だったのだろう。

 ……ウィンの様子からして、酷い物だったのかもしれない。


 ……でも、あぁ、やっぱり……凄、く、ねむ、た、い。



◆◇◆◇◆


 ナタリーの金色のまつげに縁取られた瞼が、うつらうつらと落ちては上がり、また落ちる様を見て、ウィンは先程までの荒んでいた感情が嘘の様に収まるのを感じた。


 今の会話で、はっきりと分かった。


「ナタリーはまだ(・・)勇者ではない」


 だが、いずれ、いずれ、成る(・・)

 必ず成る。


 何物にも代え難い確信を得て、ウィンは笑む。

 心が沸き立ち、踊り上がるのを抑えられない。


 嗚呼、だから、どうか。


「願わくば、この幼い勇者が健やかに羽化の時を迎えん事を」


◆◇◆◇◆


『--』

『----よ』

『--ナタリー、----って』

『起きて、起きてよ、起きろってば。

 全く、一体君はいつまでそこで寝ていれば気が済むんだい?』


 不思議な声の主は耳元で大声を出したり、体を揺すったり、最終的には蹴り転がしたりしてナタリーを無理矢理覚醒させようとして悪戦苦闘しているらしい。

 その声はまるで、老若男女様々な人が一斉に喋っているかのように様々な声が重なって聞こえ、それでいてまるで不快さは感じさせず、まるで賛美歌か何かの様に、荘厳さと心地良さを伴って耳へと入ってくる。


「……ん、?」


 ナタリーは重たい瞼を擦り、目を開く。


「……何、これ。

 ……というか、此処、は」


 何処まで続いているのかサッパリ分からない真っ白な空間に、これまた真っ白な光を放つ球体が一つ、目の前にふよふよと浮かんでいる。


『私は……うーん、君達風に言えば……、光の精霊? みたいな??』

「何で疑問系なんだ……」

『それとも、過去の勇者達の意思や記憶、経験、或いは技術の集合体みたいなモノ、勇者の因子、又は勇者の本体、って言えばいいのかなぁ?

 まあ、そう言った類の曖昧なものだと思ってくれれば問題ないよ。

 あ、ちなみに此処は君の夢の中だ、好きなものを思い浮かべれば出したりもできるよ。

 因みに出した本は君を含めた過去の勇者たちが読んだことのある本なら何でも出せるからね』


 光はナタリーにお手本を示すかの様に、本やら人形やらをポンポン出してみせる。

 しかし、ナタリーは光が何気なく言った一言に驚愕し、それどころではない。


「勇者の……本、体……?」

『ああ。 君は知らなかったみたいだね。

 “一番最初の勇者”以外は皆、私が頭の中に居た(・・・・・・・・)んだよ。

 そして “一番最初の勇者”は私だった。

 まあ、要するに私は全ての勇者だった事があるって事だね』

「……つまり?」

『つまりは、勇者達はそれまでの勇者達の記憶、経験、技術を全部私から引継いできたってこと。

 魔王も同じだから、そうしないと負けてしまうのさ。

 言い方は悪いけど、前の勇者達の記憶の量が膨大過ぎるせいで、その代の勇者の意思を塗りつぶしてしまって、乗っ取るような形になってしまうことも多々あるけれど、ね。

 ああ、そんなに警戒しなくても大丈夫。

 まだ君は身体が出来上がっていない。

 それに君みたいな幼い子供の自我までもを奪ってしまうのは忍びないからね。

 経験はウィンが積ませてくれるだろうから、僕はここで君に修行をつけたいと思ってるんだ。

 まあ、彼がさっきみたい(・・・・・・)になってしまって周りが見えていない時は、僕もさっきみたい(・・・・・・)に勘や衝動と言った様な形で君が最適な答えを出せるように手助けするから。

 これからよろしくね』


 そう言うと、いつの間にか白金色の髪をつむじの辺りで一括りにした少女の姿になっていたソレは握手を求めて手を差し出す。


「は、はぁ……。

 ……よろしくお願いします?」

『返事は元気良く!!』

「お願いします」

『もっと』

「お願いします!」

『もっとだ』

「お願いします!!」

『もーーーーっと!!!』

「お願いしますっ!!!」

『うん、それでよし。

 今日のところは自己紹介だけにしておくよ。

 じゃあね、願わくば、この幼い勇者が健やかに羽化の時を迎えん事を!!』


 そう光の精霊(?)が言うと、ナタリーは夢の中だというのに再び強い睡魔に襲われ、眠りに着くのであった。

 あれ、あれれ??

 なんか色々ぶっこみ過ぎた感が…………。

 こいつの登場もっと遅かったはずなのになぁ。

 勝手に飛び出してくるのなんとかしておくれ。

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