↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋のシグナル  作者: 多田羅 和成


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/6

最終話 恋のシグナル

 綾瀬七子《あやせななこ》は十年前、宇宙人と出会ったことがある。


 頭についた触覚。尖った耳。真っ黒な瞳。


 何一つとして忘れたことはない。彼女はずっと待ち続けている。


 風間宙太《かざまみちた》に預けた恋心を返してもらうために……。


 ******


 ホテルにて、ある高校の同窓会が行われていた。久しぶりに会う元同級生と、思い出話に花を咲かせる。


 あの時よりも大人びた七子は、黒を基調としたドレスを纏い、壁の花となっていた。


「もしかして綾瀬さん?」


 聞き覚えのない声に、視線だけを向ける。


「やっぱり綾瀬さんだ。僕のこと覚えている?」


 さりげなく隣に立ってきた男に、七子は眉間に皺を寄せ、少し距離を取った。


「……ごめんなさい。覚えてないわ」


「あはは、だよね。だって二年生の二学期以降、誰とも関わろうとしなかったからさ」


 それでも諦める気がないようで、男は話を続ける。


「ニュースで知ったよ。綾瀬さん宇宙飛行士になったんでしょ? すごいなー。同級生として誇らしいよ」


「それはありがとう。それで友達と話さなくていいのかしら。私より話が合うでしょう」


「つれないなぁ。ねぇ、いいバー知っているから一緒に行かない?」


 男は七子の腰に、手を伸ばそうとした。しかし避けられたことで、空振りをする。


「いい誘いかもしれないけど、お断りさせてもらうわね。私、銀河の果てにいる人が好きなの」


 七子は微笑みだけを送る。男が言葉を失っている隙に、七子は会場を後にした。


 ******


 久しぶりの裏山は、とても静かで心地いい夜風が吹いている。


 七子は左薬指につけた指輪を撫で、寂しげに呟く。


「……私、もう二十七歳よ。いつまで待たせる気なの」


 それでも返事はない。十年間、返事が返ってきたことは、一度もなかった。


 きゅっと唇を噛み締めた後、夜空に両手をあげる。そして指先同士を合わせると、三角を作った。


 そして声を張り上げ、シグナルを飛ばす。


「ベントラ・ベントラ、スペース・ピープル。こちら地球の綾瀬七子。近所の裏山にいます。そろそろ私の恋心返しに来なさいよ! 風間宙太っ!」


 ――ガサガサガサッ! ……ドサッ!


「えっ?」


「いってー! また着地失敗したとか、あり得ないだろ!」


 忘れもしなかった懐かしい声。


 七子はドレスが汚れることも気にせず、駆け寄っていく。


 そこにいたのは、十年前から変わらない宙太の姿だった。


 立ち尽くす七子に対して、宙太は困ったように笑いかける。


「ただいま。えっと、間に合った……? あの、七子。なんで黙ったままなんだ?」


 無言で近づく七子に、だんだんと宙太は焦っていく。


「えっと、その、確かに待たせすぎたかもしれないが、俺なりに頑張ったというか。あのーそのー、七子さん! 真顔で近づくのは何故かな! 本当に針千本飲ませる気とかじゃないよね!」


 冷や汗が流れる宙太を、七子は強く抱きしめた。


「よかった……。本当に、帰ってきてくれたんだ」


 宙太は静かに抱きしめ返し、震える背中を撫でる。


「……約束したから。ちゃんと帰るって」


「おっそいのよ! 後三年遅かったら、針どころか釘を飲ませるところだったわ! 他の男からの誘いを断るのも、めんどくさいのに!」


「えっ! 他の男からの誘いって、ま、まさか、俺以外にデートとかしたの?」


 恐る恐る尋ねる宙太がおかしくて、七子は少女のように可愛らしい笑い声を漏らす。


「あら、私の恋心を盗んだのはどこの誰だったのかしら? そのせいで地球の男に興味すら湧かなかったわ」


 その言葉に、宙太は安堵するようにため息を吐く。


「よかったー……。それを聞いて安心したよ」


 七子は思い出したような顔で、宙太の胸ぐらを掴む。


「あぁ、そういえば指輪のお返ししていなかったわね」


「えっ、お返し?」


 返事など聞いてないとばかりに、勢いよく引き寄せると、触れ合う唇。


 宙太の大きく見開いた目を見て、七子は満足そうに目を細める。


 ゆっくりと離れる唇。余熱が本当に帰ってきたことを実感させてくれた。


 そして宙太へ伝え忘れた言葉を口にする。


「これからもずっと愛し続けるから、二度と離れないでよね」


「……もちろん。もういなくならない。ずっと七子だけを愛している」


 二人が笑い合う声。


 共鳴するように指輪に秘めた小さな宇宙は、眩いほど輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。