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第345話 ホワイトランクの依頼

前回のあらすじ)街の冒険者ガーネットがブロンズランクの依頼に連れて行く条件として提示したのは、ホワイトランクの依頼を1日で三つこなすことだった

「ええっと……まずは薪割りか」


 最初の依頼主の元へと行くと、庭に山のごとく丸太が積まれてあった。


 少し前に嵐があり、大量の倒木が出たとのこと。


 冬が来る前にこれを薪にしておきたいが、他の仕事もあって手がまわらないらしい。


「ホワイトライクでいいとは言ったが、本当に大丈夫か? そんなひ弱な腕で薪割りできんのか? 幼女もいるじゃねえか」


 ゼノスの冒険者カードを見たひげ面の依頼人は眉をひそめたが、他に選択肢もないようなので、やむを得ずといった雰囲気で仕事を任される。


「今日中に二割は片付けてくれよ」

「いや、全部やるよ」

「ああ、そうかい……はあっ⁉」


 依頼人は変な声を出した後、眉間に皺を寄せた。


「お前な、ふざけたことを言うなよ。俺でも一日かけても半分いけるかどうかだ」

「一日? 多分そんなにいらないと思うぞ」

「あのな」

「リリ、丸太を順番に置いてくれるか?」

「うんっ」


 リリが丸太を目の前に立てた。


 能力強化――とつぶやくと、ゼノスの全身がぼんやりと青白く光る。


 斧を手に取り、ゆっくりと振り上げた。


 丸太を目掛けて軽く振り下ろすと、しゃりっという音とともに、丸太はあっという間に薪へと変化する。


「え?」


 依頼主が目を丸くしている間にも、次々と薪割りが進んでいった。


「どんどん頼む」

「うんっ」


 しゃり。しゃり。しゃり。


 リリが丸太を置いて、ゼノスが割る。


 軽快な音とともに 一時間もしないうちに全ての丸太が薪へと姿を変えた。


 依頼主は目を丸くして驚く。


「な、なんだあんたっ。木こりか何かか?」

「そういう訳じゃないが、薪割りは子供の頃に死ぬほどやらされたしな」

「なあ、あんたうちで働かねえか? 筋がいいぜ。仲間として迎えるぞ」

「いや、悪い。他の依頼もあるんで、もう行かないと」

「そうか……気が向いたらまた来てくれよな」


 依頼人は残念そうに送り出してくれた。


「仲間として迎えてくれるらしいぞ」

「まあ、喜んでくれてよかったよ」


 カーミラの言葉に、ゼノスは苦笑を返す。


 とりあえずは一つ目の仕事が完了。


 次は水汲みの仕事だ。


「ほえ~、兄ちゃん、やるもんじゃのう」


 依頼人は街の老夫婦。


 最近足腰が弱ってきたとのことで、水源からの水汲みを頼まれた。


 それも能力強化魔法で軽々とこなすと、老夫婦は目を丸くした。


「大したもんじゃ。兄ちゃんは戦士か?」

「いや、そういう訳じゃないが」

「どうじゃ、うちの養子にならんか?」

「いや、悪い。次の依頼もあるんで、もう行かないと」

「そうか……気が向いたらまた来ておくれ」


 今度の依頼人も残念そうに送り出してくれた。


「養子にならんのか?」

「ならんだろ……でも、まあ喜んでくれてよかったよ」


 二つ目の仕事も完了。


 三つ目は引っ越し作業だ。


「いや、助かったよ。うちの客は年寄りばっかで頼りにならなくてさ」


 依頼主は酒場の女主人で、店の場所を少し広い所に変えることになったらしい。


 再び能力強化魔法で、机や椅子などを軽々と運び終えると、女主人が近寄ってきた。


「すごいね、あっという間に終わったよ。華奢に見えて力持ちなんだね」


 そう言うと、女主人は更に距離を詰めてくる。 


「しかも、あんたよく見るといい男じゃないか。どうだい? あたしの旦那にならないかい?」

「それは駄目ぇっ!」


 リリが慌てた様子で割って入る。


「あ、悪い。もうギルドに戻らないと」

「そうかい……気が向いたら戻ってきておくれ」


 今度も依頼人も名残惜しそうに送り出してくれた。


「旦那にならんのか?」

「いや、ならんだろ」


 再度、杖に突っ込みを入れると、カーミラは面白そうに言った。


「しかし、仲間に養子に旦那……貴様、早くも大人気じゃのう。くくく……」

「まあ……それだけ喜んでくれてってことかな」


 いや、そうなのか?


 なんだかよくわからなくなってきた。


 ただ、冒険者という身分で正式に初仕事をこなせたことにはちょっとした達成感を覚える。


「俺、冒険者になったんだな」

「嬉しそうじゃの。やってるのは雑用ばかりじゃが」


 ゼノスは青空を見上げて微笑む。


「そうだけど、ずっと事件続きだったから、たまにはこういうのもいいよな。平和が一番だ」

「うん、そうだね、ゼノス」

「しかし、ゼノスは知らなかった……」

「だから、水を差すなぁっ!」


 こうして、ものの二時間もしない間に、三つの依頼は完遂されたのだった。


  +++

 

「今日中に依頼を三つだったな。やってきたぞ」

「はあっ?」


 冒険者ギルドに戻ったゼノスは、今回の条件を提示した地元のブロンズランク冒険者、ガーネットに依頼の完了を伝えた。


 ガーネットは眉間に皺を寄せて立ち上がる。


「お前なぁ、オレを舐めてるのか? まだ二時間しか経ってねえぞ」

「そうか、思ったよりかかったな」


 二件目の老夫婦のところで仕事前にお茶を出されて、のんびりしてしまったせいだろう。


「ふざけるな。お前、このブロンズランクのガーネット様を騙そうとはいい度胸だな」


 憤るガーネットだが、そこにぼそぼそとした声が届いた。


「いや、確かに三件、完了してます。依頼人のサインもあります」


 受付に立つ青白い青年だ。


「はあっ?」


 ガーネットは大股で受付に向かい、青年から依頼票を取り上げた。


 それを両手で広げて、しげしげと凝視する。


「……木こりのジンライ。大量の倒木があったはずだろ」

「まあな。薪割りは子供の時に沢山させられたから」

「アルマー夫妻。話がくそ長え。相手してるだけで日が暮れちまうはずだ」

「年寄りの話し相手は慣れてる」

「酒場のユキナの引っ越し。ああ見えて要求の厳しい女だぞ。引っ越し作業中に食器や酒瓶を割ろうもんなら、烈火のごとく罵倒される」


 商売道具を割られれば普通怒るとは思うが。


「ただ、俺の時はそんなに厳しい印象はなかったな」

「くそっ、面のいい男には甘いんだよ、あいつは」

「それはわからんが……」


 ゼノスは目の前の女性冒険者に言った。


「とにかく、条件は満たしたぞ。ブロンズランクの依頼は連れて行ってくれるんだろうな」

「……」


 ブロンズランク以上が挑戦できる鉱物採取の依頼。


 ホワイトランク向けの雑用仕事と違って、報酬が数十倍ある。あの依頼が達成できれば当面の宿代も確保できそうだ。


 ガーネットは依頼票を握りしめた後、くしゃくしゃになったそれを受付に投げ返して言った。


「……ちっ、まあいい。ド新人にしてはそこそこやるじゃねえか」

「おお、そうか」


 ブロンズランク以上向けの依頼に連れて行ってくれるというのはただの口約束だ。

 反故にされる可能性も考えていたが、一応守ってくれるらしい。


 ガーネットは得意げに自身を親指で差した。


「新人がオレ様の冒険に同行できるなんて、光栄に思うんだな」

「ああ、感謝するよ」

「ただ、足を引っ張るんじゃねえぞ。分け前はオレが七割、お前らは三割だ」

「え~」

「なんだ? 文句があるなら連れて行ってやらねえぞ」

「……わかったよ、それでいい」


 三割でもホワイトランクの依頼に比べればかなりの額になる。


 今回は仕方がないだろう。


「あの……」


 そこで後ろから声がした。


 振り返ると、そこに小柄な少女が立っていた。


 古の魔法使いがしているような大き目の黒い三角帽子を被り、同じく大き目のローブの裾が床まで垂れている。帽子からはみだした濃紺の髪は眉の上で切り揃えられており、どこか眠たげな瞳は薄い緑色をしていた。


「なんだ、お前は?」


 ガーネットが眉をひそめて尋ねると、少女は淡々とした声で答えた。


「……私もその依頼、行ってもいい?」

「あん?」


 ガーネットは少女の頭から爪先までをじろりと眺める。


「お前も冒険者か? 見ねえ顔だな。カードを出せ」

「うん」


 三角帽子をかぶった少女は、ローブの中からいそいそと冒険者カードを取り出す。


 それを眺めたガーネットは、再び舌打ちを繰り返した。


「パール・レドリック……って、またホワイトランクかよ。ガキのお守りじゃねえんだぞ」

「私もやった。依頼。三つ」

「あん?」


 ガーネットは怪訝な表情を浮かべる。受付に目を向けると、係の青年が依頼票を見つめておもむろに頷いた。


「この人も、確かに三つ完了してます」

「……なんだと?」


 もう一度パールという少女とゼノスを眺めた後、ガーネットはがしがしと頭を掻いた。


「一体なんなんだ今日は……まあいい。多少使える奴なら、手駒は多いほうがいい。お前も足を引っ張るんじゃねぞ」

「うん」


 パールはこくりと頷いた。


 こうして僻地の冒険者ギルドの一角で、ブロンズランク一人に、ホワイトランク三人という臨時パーティが結成される。


 新たな冒険の供となるパールに、リリが近づいて言った。


「パールちゃん、初めまして。私はリリ、よろしくね」

「……よろしく」

「パールちゃんはいくつ? 同い年くらいかな?」

「もうすぐ二十歳」

「ご、ごめんなさいっ……」


 確かにパールはリリより少し背が高い程度で、子供と言われても驚きはない。


 ただ表情に乏しく、あまり活気のようなものは感じられない。


 そのパールは、リリをじっと見つめている。


「……可愛い」

「え?」

「私は可愛いものが好き」

「あの」

「……頭よしよししていい?」

「あ、えっと」

「よしよし」

「あ、はい」


 リリがパールによしよしされている。


「ほっぺたふにふにもしていい?」

「あ、ええと」

「ふにふに」

「あ、はい……」


 リリが今度はふにふにされている。


 その様子を、ガーネットが呆れた顔で眺めていた。


「……黒づくめの怪しい男に、ガキのエルフに、ガキみたいな三角帽子の女。なんなんだこのパーティは。初心者講習かよ」


 ぶつくさと言いながらも、ガーネットは壁からブロンズランク以上と記された鉱物採取の依頼票をもぎとって受付に持って行った。


 黒い外套の新人冒険者。

 エルフの少女。

 三角帽子を頭に乗せた小柄な少女。


 ガーネットは一同を振り返って溜め息をつき、先頭に立って歩きだした。


「じゃあ、行くぞ。ついてこい、子分ども」

ふにふに


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― 新着の感想 ―
ランクだけは上のガーネットさん。 きっと実力は最下位。
もしガーネットがアの付くパーティ(書籍漫画アニメだとゴの付くパーティ?)のアの付く冒険者の噂を聞いて憧れてたら笑う。(失墜後の噂はまだ届いてないと仮定)
ガーネットさんからクレソンと同じ空気を感じる。
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