表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一花繚乱  作者: 渡里あずま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/26

成果

 誰が動くか、そもそも謀反は起こるのか。

 それは賭けであったが、信長の思惑通りその夜、本能寺には銃声と鬨の声が響いた。

 ……寺内に乱入し、庭を埋め尽くしたのは桔梗紋。

 それは、秀吉の援軍に向かった筈の明智光秀の家紋だった。


 後世、百人ほどしかいなかった信長達に対し、明智軍は約一万三千人だったと言われている。

 地響きのような声と足音、そして銃声はいつしか止んだが、代わりに本能寺には火が放たれた。

 主君を守ろうとした小姓衆も銃弾や刃に倒れ、奥まで追い込まれたのは信長と濃の二人だけだ。

 夜着姿で、それでもそれぞれ槍と刀を構えた彼女達の前に当の光秀が現れる。


「光秀……?」

「十兵衛どの?」


 だが謀反人の筈なのに、膝を付いて頭を下げた光秀に信長達は戸惑った声を上げた。そんな二人に、光秀が口を開く。


「私が、もっと早く上様に仕えていれば……いや、あと五歳私が若ければ。たらればな話ですが、いつしか私はそう思うようになりました」

「……光秀」

「天下布武の先、上様の望みを叶えるには力も時間も足りず。そんな中、上様のある言葉を思い出しました」

「わしの……?」


 問いかけた信長に、光秀が顔を上げる。


「上様を選んだのなら、出し切る『だけ』など許さん。それこそ、死ぬ気で働いて貰わねば」


 そうかつての信長の言葉を口にし、光秀は微笑んで言葉を続けた。


「私が上様を討ったなら、羽柴どのか徳川どのが私を討つでしょう。若い彼らなら、上様の望んだように世の中を変え、戦の無い世を作られる。そう思ったのでございます」


 その言葉に、信長はハッと息を呑んだ。動揺のあまり、よろめく彼女を濃は慌てて寄り添って支えた。

 信長は限界を感じ、己の手で全てを終わらせようとした。そして光秀もまた限界を感じ、己の全てを賭けて主君の望みを叶えようとした。

 ……それだけ二人にとって『天下人』は大きく、重いものだったのだと濃は改めて実感した。


「光秀」

「はい」

「でかした」


 そう信長が言うと光秀は再び頭を下げ、立ち上がり様に踵を返した。

 そして信長と濃は、光秀の背中を見送り――完全に姿が見えなくなったところで、濃は腕の中の信長に言った。


「以前、私はあなたに言いましたね……人は、成すべきことがあって生まれてくるのだと」

「……ああ」

「思い出しました……あれは昔、十兵衛どのから聞いた言葉で。婚儀の日、私はあなたが『信長』として生きる決意をさせる為、生まれたのだと思ったのです」


 そんな濃を、信長はしばし黙って見つめた。

 そして見返す濃の視線の先で、信長は口を開いた。


「あの言葉があったから、今のわしがあるのだ……光秀や他の家臣達もよくわしに仕えてくれたがあの日、あの時にぬしからああ言われたからこそ、わしは『信長』を成すことが出来た」

「……信長」

「ずっとは、本当にずっとだったな」


 そう言って、信長は微笑みながら濃の胸に頭を埋め――燃え盛る炎の中、二人が離れることはなかった。



 本能寺の変からわずか十三日後、光秀は中国大返しにより戻った羽柴秀吉に敗れる。

 ……それが、光秀の狙い通りだと知る者はいない。

 だが彼の思惑通り秀吉は草履番から天下統一を果たし、家康は戦の無い世を築いたのである。

ここまでのお付き合い、ありがとうございましたm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ