第8話・みんなで綺麗に
2学期が始まり2週間が経とうとしたある日。朝のホームルーム中に1枚のプリントが配られた。
「全員プリント貰ったか? それじゃぁ説明するぞ。今年も地域清掃がプリントに書かれている日程で行われる予定だ。我々2年生は近くの小さな川沿いの草むしりを担当している。男子生徒は草を刈り女子生徒は運搬と袋詰めをしてもらう。葉で手を切らないように各自軍手を持参することと暑いと思うが長袖のジャージを着てくるように。あとはプリントに書かれている通りだ。質問はあるか?」
先生の説明が終わり質問タイム。と言ってもこういう時に聞く人はあまり居ないんだけれども―――
「はいっ」
唯一手を上げたのは青葉さんだ。
「えーっとこの集合場所が学校となっていますが登校したら教室で待機していれば良いのですか?」
「去年はどうしたんだったかな?」
「去年は近くのお店に現地集合でした」
「そうだったか。それじゃぁ登校したら教室で待機していてくれ」
「分かりました」
「他に質問あるやついるか? 居ないならホームルーム終了だ。1限目は移動教室だから遅れるなよ」
そう言うと先生は教室を出ていった。
僕たちもノートなどを持ち教室を出た。
「今年は川沿いの草むしりか」
涼はすでに面倒そうに呟いた。
「去年のよりはマシだと思うけど」
「去年は何をしたんですか?」
「駅前のショッピングセンター、眼鏡店、古本屋がある通り担当だった。僕たちのクラスはショッピングセンター前だったかな?」
「あそこって結構広いですよね」
「飲み物もあっという間になくなってみんな近くの自販機で買いまくったからスポーツドリンクが売り切れたんだよね」
「今年は去年より重労働になりそうな気がするな……」
涼の予想は的中することになるとはこの時誰も知らなかった。
地域清掃当日。今日は一日授業が無いのでカバンにはタオル、飲み物、軍手などしか入っていない。
僕たちは教室で出席を取った後目的地の川沿いまで移動を開始した。
「暑い……」
涼は移動中さっそく飲み物を飲んでいた。仕方ないことだ。現地では葉で手や足を切らないように全員長袖のジャージ着用して軍手を着けているためすでに暑い。
しかし川沿い周辺には自動販売機が無いため昼休みまで一気には飲めない。
「しのぶ。俺のペットボトル入れておいてくれ」
「ほいさ」
涼は残りの飲み物をしのぶちゃんが背負っているリュックに入れた。
道中はみんなジャージの上を脱ぎ体操着姿の者も居る。
「美羽、大丈夫?」
「大丈夫です。暑いのは苦手ですけど今日は頑張らないとなので」
「気合い入っているわね。美羽ってこういうこと好きなの?」
青葉さんの言う通りやけに気合が入っている。もしかして何かあるのだろうか? 僕はそっと聞いてみた。
「もしかしてこれって羽根が関わっていたりする?」
「詳しくは覚えてないんですけど確か残りの羽根に〝綺麗にする〟というのがあった気がするんです」
「つまり掃除をすれば出るかもってことか。とりあえず今日一日頑張ろう」
「はいっ」
歩くこと10分ほどで目的地に到着した。川沿いの草は1メートル以上伸びている。
「これは重労働になりそうだな……」
「だな……」
「しのぶが隠れそうね」
「さすがにそれは無いよ~」
そう言いながらしのぶは草の中に入った。
すると予想通り草の方が大きかったためしのぶちゃんが完全に見えなくなってしまった。
「小学生がこの中に入ると見えなくて危ないな」
「だから私たち高校生に任せているんでしょ。しのぶは小さすぎだけどね」
「私たちはどの当たりやりますか?」
「橋の近くでやろう。日陰もあるし」
男子生徒は学校支給の鎌などを持ち草刈りを始めた。
「結構草硬いな……」
鎌で簡単に切れると思って居たけど力を入れないとなかなか切れない。
ようやく切った葉を美羽と青葉さんがさらに細かく切ってゴミ袋に詰めていった。
あっという間にゴミ袋がいっぱいになった。
「うおおおぉぉぉぉ!!!」
涼はコツを掴んだのか物凄いスピードで草を刈っている。まるで草刈機のようだ。
「涼の奴すごいな。というか頑張りすぎだ」
「いや、そうじゃないのよ」
「そうじゃないって?」
「しのぶがね」
「しのぶちゃん? そう言えばさっき草の中に入って行ったきり戻ってこないけど」
「涼は飲み物をしのぶのリュックに入れているのよ。今日、涼ったらカバンすら持って来なかったから」
「ってことは今涼は……」
「飲み物のためにやっているってことね。私もしのぶを探して連れて来るからしばらく美羽はここよろしく」
「分かりました」
青葉さんはしのぶちゃんが入って行った方へ草をかき分けながら入って行った。
僕と美羽は二人で地道に草を刈り袋に詰めていった。
しばらくすると草むらの中からしのぶちゃんが出てきた。
「ただいまー」
「あれ? しのぶちゃん一人?」
「そだよ~」
「青葉さんが探しに行ったんだけど」
「うん、そろそろ来ると思うよ。涼は頑張っているからそのままにしておいてだって」
「涼は気づいていないのか」
涼はまだ奥の方で草を刈っていた。
いつもと違い今日は時間の進みが早い気がする。
残り少ない草を刈っていると青葉さんが戻って来た。
「あっ、青葉さんお帰りなさい」
「ただいま。もうそろそろ終了だって」
「ところで涼は?」
辺りを見るといつの間にか居なくなっていた。
「涼なら草の入ったゴミ袋をトラックに載せる作業に行ったわ」
「ちょうどこの辺りも刈り終ったから片づけるか」
「はいっ」
時計見ると時刻はすでに12時になろうとしていた。
僕も草を入れる作業に入った。
草を入れ終わり僕たちはみんな一度学校に向かった。
「疲れたー」
僕は思いっきり体を伸ばした。腕が筋肉痛になりそうだ。
「結構川沿い綺麗になりましたね」
「めっちゃ汗かいたかいがあったな」
「早く家帰ってシャワー浴びたいわね」
「そう言えば近くに銭湯ってありますか? 今日の夕方まで私の住んでるマンション断水なので」
「それじゃこの後みんなで銭湯に行かない?」
しのぶちゃんが提案した。
「行きましょう」
美羽はこういうみんなでどこか行くのが好きみたいだ。
「それじゃ僕は家でのんびりしてるかな」
「え? 翼君は行かないんですか……」
美羽少し残念そうな顔をした。僕と涼を含めた五人全員で行くと思っていたみたいだ。
「……わかったよ。涼も無理やりでも連れて行くよ」
「はいっ!」
「それじゃ13時頃駅前に集合ね」
「わかった~」
「了解」
「分かりました」
一旦学校に戻り点呼を取ったあと僕たちは各自家に帰った。
時刻は13時前。僕は急いで昼食を取った後すぐに駅前で待って居た。
駅に隣接しているコンビニで飲み物を買い石のベンチで待って居ると最初に美羽がやってきた。
「まだ翼君だけですか?」
「時間までまだあるからな」
「そうですね」
「ところで羽根は出たのか?」
「それが出ないんです」
「綺麗にするって掃除じゃないのかな?」
「もしかしたらなんですけど今までのキーワードが全部自分自身に関わる事だったんですよ」
「ってことは自分に関わる綺麗にすることか……」
「自分を綺麗にって着飾るってことなんですかね?」
「それだとなんか違うような気がするんだけど」
「また分かったら連絡しますね」
「分かった」
しばらくするとしのぶちゃんと青葉さんと涼が一緒に歩いて来た。
「お待たせ~」
「それじゃ行きましょう」
僕たちは銭湯に向かった。その銭湯は昔ながらの銭湯でもう何十年も前からあるらしい。
歩いて15分ほどで目的地の銭湯に到着。
住宅地の中にあるので地元の人以外はあまり気が付かないだろう。
「すごく風情がありますね」
「この前見に行った映画のモデルになっているって噂だけどね。作者がここ出身とか」
「あの幽霊の女の子の映画ですよね? なんか映画の世界に入ったみたいです」
「中も忠実に再現されているって聞いたけど実際ここ来るのは初めてだから」
「近場はあまり行かないところもありますからね」
入り口で料金を払い中に入ると休憩所があった。
僕と涼はその先にある男湯の暖簾を潜り中に入った。
平日の昼間だけあってさすがに人は僕と涼だけだった。
「貸し切り状態だな」
「のんびり入れそうだ」
僕と涼は汗を流した後広い湯船に入った。
「ふい~……気持ち良いな」
「足伸ばして入るなんてそうそうないから」
静かに入っていると隣から楽しそうな声が聞こえてきた。
「隣盛り上がっているみたいだよ」
「女子ってこういう場所でも楽しむよな」
女湯から聞こえてくる楽しげな声を聴きながら俺と涼は静かに湯船に浸かった。
先に出た僕と涼は休憩所で買った飲み物を飲みながらテレビを見て待って居た。
しばらくすると女湯の暖簾を潜って美羽、青葉さん、しのぶちゃんが出てきた。
「お待たせしました」
「お帰り。3人の分の飲み物を買っておいたよ」
「ありがとうございます」
「やったー!」
「ありがとう。いくら?」
「ん? 別にいいよ。僕のおごりってことで」
「そう? それなら遠慮なく頂くわ」
3人は一緒のタイミングで飲み物を飲んだ。
その後みんなは休憩所でまったり過ごした。
夏だというのに風呂上がりのせいか扇風機が涼しくて気持ちがいい。
「ぼちぼち帰るか?」
「そうね。それじゃ行きましょう」
僕たちは銭湯を出た。
「この後どうする?」
「俺は家に帰って少し寝るかな」
「私は宿題片づけないと」
「え? 宿題?」
涼が不思議そうな顔をした。もしかしてというか確実に忘れているな
「今日が午前で終わるからって昨日宿題出されただろ」
「そう言えば……」
「もしかしてやってないの? それじゃぁ帰ってやらないと」
青葉さんは涼の肩に手を乗せた。
「ちょっと青葉待て! しのぶだって終わってないだろ」
涼が咄嗟に矛先をしのぶちゃんに向けた。
「しのぶはどうなの?」
「オワッテルヨデス」
不自然な口調で察した。もちろん青葉も分かったみたいだ。
「それじゃぁ二人ともこの後私の家で宿題終わらせましょ」
「俺は家でやるからいいよ」
「終わらせましょ」
青葉さんがある意味最高の笑みを浮かべた。
「あ、はい」
「それじゃ翼君も美羽もまた明日ね」
「はい、また明日」
青葉さんは涼としのぶちゃんを連れて家の方へ帰っていった。
「僕たちも行こうか。家まで送るよ」
「ありがとうございます」
僕は美羽3人が歩いて行った方とは逆にあるマンションへ向かった。
車がすれ違うのも困難だろう道を歩いていると何やら美羽の様子が変だった。なんというか落ち着きがない感じだ。
「なんかそわそわしているけどどうした?」
「なんか羽根が出るような気がして」
するといつものように美羽の胸元から白い光に包まれた羽根が出てきた。
「え? なんで今?」
僕も美羽も不思議に思った。この羽根は〝綺麗〟というキーワードだった為学校の地域清掃で川辺を綺麗にしたのにその時は出なかった。その後美羽が自分に関わる事かもしれないと言ったから……
その時僕の頭にさっきのことが過った。
「もしかして〝綺麗〟って銭湯に行くってことじゃないのかな?」
「だとしたら毎晩お風呂入っているのでその時に出てくるはずですよ?」
「今までの羽根を思い出したんだけど羽根が出るときって大体僕たちの誰かと一緒に何かしたときだったから」
「ということは自分自身に関わる事を誰かとやるってことなんですか?」
「たぶんそうだと思うよ。これで6枚目のはずだからあと1枚もその条件のはず」
「最後の1枚ですか……」
美羽の表情が変わった。最後の1枚は初めの説明で言っていなかった羽根だ。でもなんで隠すんだ?
「なぁ最後の羽根のことなんだけど」
「……話さないとですよね。それじゃ話します」
「お、おう」
「私は翼君のことが好きです!」
「えっ?」
美羽に突然告白された。これは一体……
いよいよ次回が最終回です。
毎度更新が数か月後とで申し訳ないです;
他にも掲載している小説もよろしくお願いします
@huzizakura




