40 秋
今日は常連のミーちゃんと、最近たまに見る白と黒の猫がお店で眠っていた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様」
カイと目が合う。自然と顔がほころぶ二人。
「今日はお客さん、もういるんですね?」
ソラがエプロンを付けながら話しかける。
「うん。気温も下がってきたし、昼間も猫達、出歩けるようになってきたからね」
「今度、武尊が神社で舞を踊るらしいよ」
昨日愚痴っていた武尊を思い出す。
「へぇ、武尊さんって踊れるんですね! 意外です」
ソラは正直である。
「カイさん、武尊さんと仲良しですよね?」
「まぁね、小さい時から一緒にいるからね」
何か思い出すように上をみる。
◇
小学校は俺と武尊は別のクラスだった。俺は小さい頃から可愛かったし、頭も良かった。立ち居振る舞いも子どもっぽくない俺は、人気者になるのに時間はかからなかった。
学校に慣れてきた頃、帰り道に武尊を見つけた。
「おぉーい、武尊!」
俺は他の友達二、三人と一緒で、武尊は一人で歩いていた。
「一緒に帰ろう?」
そう声をかけると、武尊はみるみる瞳に涙が盛り上がった。無言で頷く武尊。
「ごめん、俺ここで。また明日な!」
驚いた俺は他の友達と別れて、武尊と二人になる。よく見ると服が汚れている。靴も濡れている。
「カイ……おれ」
「誰にやられた?」
俺は頭に血が昇った。
「何でもないよこれくらい」
「駄目だ。許さない。誰か言って!」
しかし、武尊は頑なに名前を言わなかった。
その日から、行きも帰りも、俺は武尊と帰ることにしたし、休み時間も時々様子を見に行った。
それが良かったのか分からないが、武尊への嫌がらせは収まった。武尊自身も元気になっていった。
◇
「アイツのあのキャラは防御だから……武尊は普段軽いけど、芯は繊細だからね。ちゃんと舞の練習もしてるんだよ」
懐かしそうなカイ。
「神社での舞、うまくいくといいですね!」
「そうだね」
明日の満月に思いを馳せる二人なのだった。
◇
夜の神社に優雅に舞う人影。
神社の赤に、白の袴、まなじりを紅く描かれた狐の面。厳かな雰囲気の中、見守る人々。
今日は中秋の名月。幸運にも秋晴れで、満月が大きく綺麗に見える。
舞が終わると、参列者に御神酒が配られる。
その舞い踊った人物は、静かに控え室へ戻り狐の面を外す。
暑い、疲れた、酒飲みたい……
その思いを口にするのはまだ憚られる。何故なら近くに長がいるからである。
「武尊、大役お疲れ」
六十代半ばの厳しそうな顔つき、紫の着物姿の女性が大きく頷いている。
「はい。ありがとうございます」
「お前ももう二十歳か。そろそろ身を固めねばな」
「身を固める……?」
「ふふ。妻を見つけるという事だ。現代だと早いかもしれんが、昔は二十歳じゃ遅いくらいだった」
一体いつの時代の話だ!
心の中で突っ込みを入れる武尊。
「まぁ、せいぜい頑張れ」
捨て台詞を吐いて部屋から退出する長。
「はぁー」
武尊は大きく息をはいた。
窓から見える月を見る。スマホを取り出し、思わず写真を撮った。
これを、最初に見せたいと思えるような人に会えれば……モモを思い浮かべて首を振る。
いや、あの子じゃない。
「誰かいないかなあ」
一人呟く武尊であった。
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