日常
「おはよー。バイトどう?」
朝登校するとモモが話しかけてきた。
「おはよ。うん、まあ。いいバイトだよ。」
無難に答える。ウソを付くのは苦手だ。
「イケメンいる?」
目をキラキラさせている。女子高生らしく恋愛とイケメンに目がない。
「うん、イケメンなのかな…」
甲斐さんを思い出しながら答える。
「ソラが認めるなんてよっぽどじゃん!身長どれくらい?何歳?彼女いる?」
矢継ぎ早の質問にたじたじするソラ、
「身長…けっこう高いんじゃないかな。年齢は私達のちょい上位で…彼女は知らない。」
「えええ、見たいー!バイト先行っちゃダメ?」
「だめだよ。」
顔や態度には出ないが内心焦るソラ。
「そんなぁ、私もイケメンとお知り合いになりたい〜」
残念そうなモモ。
「なになに何の話?」
横から高橋君が話しかけてきた。
「んー、どこかにイケメンいないかなって話」
モモが答える。
「えー、ここにいるじゃん?」
高橋君が自分を指して言う。
「高橋はお笑い担当でしょ?」
モモが笑いながらツッコむ。
おちゃらけ担当の高橋君。イケメンというよりは愛嬌のある顔をしている。
それにしても、動物が話すなんて…
なかなか面白い現象だったな。
放課後が楽しみになるソラだった。
バイト先には先客がいた。
「やっほーソラちゃん、元気?」
ミーちゃんが話しかけてきた。相変わらずである。
「ミーちゃんは飼い猫なんですか?」
ソラは猫と会話してみた。
「ううん、飼われてたり、野良になってみたり色々。今はこのお店の近くで、おじいちゃんと暮らしてる〜」
そんな自由な感じなんだ。
「ミーちゃんって何歳?」
「それは、内緒!」
ミーちゃんはゴロゴロしながら答えてくれない。
猫は長く生きると猫又になるって聞いたことあるな。
「それは残念です。」
2人(?)のおしゃべりを甲斐さんが見ている。
「すごいね、もう慣れたんだね!」
怖がったり、現実を受け入れられず逃げ出すこともなく、普通に会話するソラは珍しいらしい。
「そいえば猫友達から聞いたんだけど、この辺りで野良猫を捕まえてる人間がいるらしいんだよ」
猫友達…
「捕まえてる?市の人とかってこと?」
甲斐さんが不思議そうに訊ねる。
「どーかな?捕まると戻って来れないって言ってて、怖いよねー」
怖がっているようには見えないが、
「俺も捕まらないように気をつけなきゃ〜。じゃあそろそろ行くわ。おじいちゃん待ってるし」
ミーちゃんは猫らしい素早さで猫用ドアから帰っていく。
「気をつけてね!」
甲斐さんが声をかける。
そういえばお客さんが猫の場合、お金取れないし、このお店ってどうやって成り立ってるんだろう?
「気をつけてね!」
ソラもミーちゃんと同じく甲斐に声をかけられて退勤する。
ソラが出たのと入れ違いに、お店の前に車が停まる。車から降りてきた人は甲斐さん位背が高い。綺麗な横顔が見えた。大きな段ボールを抱えている。
兄が植物やら猫の餌やら持ってきた。
「ここ置いとくぞ」
「ああ。」
また沢山あるなぁ。
兄は会社員として働いているが、このお店のオーナーでもある。代々橘家が継ぐお店の一つを、早々に受け持ったばかりだ。
「バイト雇ってるんだって?」
カウンターに寄りかかって話す。
「うん。」
「大丈夫なのか?」
この場合の大丈夫なのかは、身内以外の人にここを知らせて大丈夫なのか、だ。
「まあ、そこは勘で。」
「お前が言うならそうなんだろうけど。なんでまたバイトなんて?」
もっともな事を言ってくる。それが兄というものなのかもしれない。
「俺が忙しい時、今ここ閉めてるだろ?それが困るってミーちゃんが嘆いててさ。」
「あの我儘猫」
言いながら兄の目は優しげだ。
「じゃあ帰るけど、乗ってくか?」
「んー、もう少し残ってから帰る。後、最近野良猫が保護されてるって話とか聞いてない?」
「いや、市ではないな…何か問題か?」
甲斐はミーちゃんの話を伝えた。
「ちょっと調べてみる。」
「頼んだ。」




