1 バイト探し
広島県広島市のとある高校。
犬飼ソラは求人情報をスクロールしていた。バイト探しは最近の日課だ。
高校に入ったらバイトしてお金を稼ぐ!
なぜなら、ゲームを思う存分買う為に!
ソラは、ゲーム好きで引きこもりがちの高校一年生だ。人付き合いが苦手で、友人と遊びに行くだの、彼氏を作って〜だの、興味がない。
黒くて長い髪の毛は、美容院に行くのが苦手な為、自然とこうなった。引きこもりがちなので色白であり、おしゃれに疎い。ちなみに猫目である。
またこの会社出てるな、これは経験者募集だし……
ん?
未経験者歓迎の文字が見えた。カフェの雑務。履歴書不用、面談のみ、住所……
家の近くだ、こんなお店あったかな?
近いことはメリットだ。時給も悪くない。履歴書不用も面倒くさがりの自分には魅力的だ。
営業スマイルはした事がないし、接客業は向いていない自信があるので「雑務」と裏方っぽい仕事は嬉しい。
ソラは応募してみることにした。
翌日メールで連絡があった。
『ご応募ありがとうございます。一度面談にお越しください。お日にちは……』
初めてのバイトである。少し緊張しながらメールを送る。
「おはよー真剣に何してるの?」
幼馴染の柳モモが話しかけてきた。
クラスで同じ中学出身者はモモのみだ。彼女はソラとは正反対の明るい性格で、男女共に友達が多い。この高校が始まってすぐの時期に、既にクラスのメンバーを把握している。ソラには出来ない芸当である。
「応募したお店にメールを返してて……」
文章に悩みすぎて眉間に皺がよる。
「すごい顔してるよ」
「は!」
今日の夕方面談が決まった。
◇
放課後、住所を頼りにお店を見つける。
地図ではこの辺りのはず……
カフェが並び、観光客が多い通りからは外れている。きょろきょろしていると目の前のお店から人が出てきた。
「面談予定の、犬飼ソラさんですね」
驚いて固まる。
「はい、そうです!」
「どうぞこちらへ」
背の高い女性はソラをお店に促す。
目の前にあるのにお店に気づかなかった? お店の外には他の人もいるのに、この人私が応募したってよくわかったな。
お店の中に入る。
優しい光が入り込んでいる。観葉植物が多く、外から見るより室内は意外と明るい。
「こちらにお掛けください」
店の一角に机がある。机の上にも小さいサボテンが置いてある。
「ありがとうございます」
丸椅子に腰掛ける。向かい側に女性が座る。
「緊張しなくていいですよ、あなたは採用です」
「へ?」
私何もしてないけど、なんで?
「第一印象で決めました。仕事内容お話ししますね」
ほんとに? もうそれ面談でもない気が……
「このお店の植物の管理、掃除、時々来店される方の対応、時間は……」
朝から緊張していたソラは力が抜けた。どんどん進む話を聞いて、女性の顔を見る。
女性にしては声が低いな。
あれ?
女性のような美しさだが、よく見ると……
「男の人だ」
呟いていた。
「あれ? 女の人だと思ってたんですか?」
男性が目を見開く。
「すみません! 失礼なことを口走りまして!」
やばい、恥ずかしさで体温が上がる。
「気にしなくていいですよ、自己紹介遅れてすみません。橘カイと申します。それでは今日はこのくらいで、明日から宜しくお願いしますね」
低姿勢でお店を出る。
「失礼します……」
やってしまった感が拭えない。トボトボ帰っていくソラ。
昔から悪気はないのだが、相手を怒らせてしまう事があるのだ。自分のコミュニケーション能力の低さが恨めしい。
「女性か……」
一八〇センチの長身、目鼻立ちの整った顔、さらさらの短髪。
このルックスでキャーキャー言われることはあっても、女性と言われたことはない。
カイは楽しそうに笑った。
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