20 兄の嵐
翌日、兄のリクはソラのバイト先に行こうと、学校帰りに待ち伏せした。
目を離さずにいたつもりが、見失ってしまった。
「ソラ? あれ?」
ソラはリクに気づいていたが、このお店は招かれないと入れない。やはりリクに、ここは見つけられなかったようだ。
「ソラちゃんお疲れ」
カイが挨拶する。
「お疲れ様です」
とりあえず一安心するソラ。
「今日、買い出しに行きたいんだけどいいかな? 猫の餌が終わりそうでさ。兄貴も忙しいのか最近来てなくて……」
「兄貴?」
兄という言葉に敏感なソラである。
「ああ、俺の兄貴がちょこちょこ買い出ししてくれてるんだよ」
「カイさん」
「ん?」
留守番したいなんて、仕事だし、兄のせいでも私が行かないなんて勝手すぎるよね。
「何でもないです」
兄に見つかりませんように。
ソラはこっそり祈った。
「荷物多くなりそうだから車で行こうか」
外に出る。兄は見当たらない。ほっとするソラ。二人で車に乗って出発する。
「ソラちゃん、この前の話の続きなんだけど」
「この前の?」
ソラはピンときていない。
「ソラちゃん歩いてるの見て、その時すごい親しげに男の人と話してたから……」
「あ! はい」
ソラは俯く。
「あれ誰かなーって思っただけなんだけど。ごめん、困らせてるよね」
「いや、別に困ってないです。カイさんに見られてたと思ったら恥ずかしくて」
やっぱり、あれはそういう。
「そりゃ、彼氏と歩いてるの見られたら恥ずかしいよね……」
「え?」
目当てのホームセンターに着いた。
「じゃあ行こうか」
カイは車を停めるとすぐに出た。
「あ、あの」
「車、気をつけて! カゴ待つね。猫の餌はあっちかな?」
「あの!」
ソラがカイの服を引っ張る。カイが立ち止まる。
「彼氏じゃないです」
ソラが伝える。
「え?」
振り向くと、ソラが不安そうにカイを見ている。
「あの、カイさんに誤解されたままなのは、なんか嫌です」
「ソラちゃん」
「あれは……」
「ソラ!」
ソラを呼ぶ声がした。
「こんな所に! そいつが昨日言ってたやつか」
リクがソラを見つけて近づいて来た。
「お兄ちゃん……」
ソラが呟く。
「お兄ちゃん?」
カイは近づいてくる男が、あの時一緒にいた男と同じだと気づいた。
兄だったのか!
「お、お兄ちゃん落ち着いて」
「はじめまして。ソラの兄です。いつもお世話になってます」
リクはカイを睨みながら挨拶した。
「こちらこそ、お世話になっております。店長の橘と申します」
カイは綺麗な笑顔で挨拶した。
「ふぅん。まぁ常識はありそうなやつだ。ところでソラ、その手は何だ?」
兄がソラをじっと見る。
「あ」
カイの服の裾を持ったままだった。
「こっこれは!」
手を離す。あたふたするソラ。
どうしよう……変な誤解されたら、カイさんにも迷惑が!
「これは、私がソラちゃんの言葉に気が付かなくて、呼び止められただけですよ?」
カイさんが兄に説明する。
「そうですか……ソラ、帰りは俺が迎えに行くから」
「大丈夫、一人で帰れるから! お兄ちゃんなんでここにいるの?」
ソラが困っている。
「それは、母さんに買い物頼まれたの忘れてて……」
兄妹のやり取りを、カイは微笑ましい気持ちで見ていた。
「それじゃあ、俺は帰ります。ソラ気をつけるんだぞ!」
リクはカイをチラッと睨みながら去って行った。すごく帰りたくなさそうだったが、ソラに嫌われるのは嫌なのだ。
「すみません! 家の兄、過保護なんです」
ソラが謝る。
「ううん。ソラちゃんが大切なんだね? いいお兄ちゃんだよ」
カイが頷いている。
「そうですかね……」
「一緒に歩いてたの、お兄ちゃんだったんだね? ごめんね、変な事言って」
話しながら、さくさく餌をカゴへ入れていくカイ。
「いいえ、家の兄あんな感じなので、見られてたって思ったら恥ずかしくて……」
「いや、ホッとした」
「え?」
あ、声出てた。
「ううん、なんでもない! レジ行こう!」
二人はお店を後にした。
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