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東京妖刀奇剣伝  作者: どるき
出会った彼女に導かれ
14/40

自称妖刀鍛冶──スカベンジャー

 現場に到着すると、黄色いテープに囲まれた一帯からは妖気が溢れていた。

 ちょうどあの場所は甫が地面に落ちた奇剣を突き壊した場所だろう。

 初めて見る光景に、甫は困惑を隠せない。


(なんで妖気が?)

「不思議そうな顔だな、石神。まあコレは……都内特有の現象だから、地方出身のお前が知らなくても仕方なねえがな」


 黄色いテープには墨で梵字が刻まれており、コレによる術式が妖気を抑え込んでいる。

 まるで祓ったハズの妖気が現場にとどまっているようだ。


「人口が多い大都会ってのは、強い妖刀は祓ったつもりでも生き残ることが多いんだ。特に、駅のように往来が激しい場所では、エサとなる邪念もたっぷりだからよ」


 この現象は都内に配属される士には実地研修で教えられる知識であり、帯刀許可証試験における座学には含まれていないため、斬九郎も実地研修中なら知らなくても仕方がないという認識で甫に説明した。

 仮に斬九郎ではなく、半場亜久里や小烏区陣ならば、知らない側の不勉強として甫を責め立てていたであろう。

 親友である杉田銀時も安心してイレギュラーな二人を任せられる、斬九郎の面倒見の良さがここに出ていた。


「つまりこれは……僕の確認不足が招いた現象なんですか?」

「いんや、コレばかりは身構えていても防げやしないさ。さっき挨拶した中にもいた、栗林がこうして後詰めで封じておいたから、復活した妖気もあの中からは出られねぇし」

「たしかこの……黄色い布のおかげなのよね。話には聞いていたけど、こうやって周囲の邪念を吸って復活した妖気の塊は、実物はとても気色悪いわ」

「大丈夫ですか? 律子さん」

「オレの方こそ話には聞いていた現象だから驚いたが、感受性が強すぎて妖気に当てられたか? 名探偵。昔はアンタみたいな体質の人が巫女さんをやっていたと言うが、この鋭い感受性は修行じゃ身につかねえな」


 斬九郎が言うように、律子や若かりし日の天樹がもつトランス能力は先天性の要素が強い。

 修行を積んだ剣士も剣気を操る過程で妖気に敏感になるが、これらは本質的に違う能力である。

 今回の事件において黒幕が制作した奇剣は、おもちゃのような外見とは裏腹に、そんな律子の体調を崩すほどの妖気を帯びていたわけだ。

 そのような強い妖刀があるところには、本筋にある事件とは別に、群がる輩も現れるらしい。


「それと──覚えておけよ、お二人さん。これが大きいヤマには付き物の……浪人だ!」


 斬九郎が言う浪人を知らない二人は、突然の彼の行動に対して呆気にとられてしまう。

 おもむろに野次馬の中に駆け出していった斬九郎は、その中に居た一人の男の手を取っていた。

 浪人と呼ばれていた男の腕を九郎がねじり上げたことで律子が感じていた不快感が大きく下がる。

 どうやら不調の原因は男が彼が組んでいた印にあるようだ。


「いくらオレでも札付きの浪人は見過ごせねえよ。無礼討ちにされないだけマシだと思いな」


 この男はAKMでも要注意人物とされている、妖刀事件の現場荒らしの常習者。

 須賀勉すが つとむという自称妖刀鍛冶で、妖刀の材料にするために、妖刀事件の現場に現れては無許可で妖気を蒐集していた。

 彼は士ではないが妖刀鍛冶を自称するだけのこともあり、無許可で自作の奇剣を持ち歩いて、警察から補導を受けることも多い。

 勉の場合はまだ悪意がないだけマシなのだが、無許可で持ち歩いている自分の妖刀を強くするために、祓われた妖刀の残滓を集める違法剣士が事件現場に出没することは都内ではよくある二次事件とされている。

 そこで都内の士の間では、無許可で妖刀を持ち歩く人間を総称して「浪人」という隠語を使っていた。


「あっしは何もしてないですって」


 連れ出された勉は無実を主張するわけだが、さきほどまで結んでいた印がサイドバックに仕込まれた金属片に妖気を貯めていたのは事実であり言い逃れも苦しい。

 斬九郎にはお見通しだ。


「現に黄布には手を出していないでしょ?」

「だからと言って、漏れた妖気やそれによって活性化した邪念を集めるのも同じだってんだ。今回こそは補導じゃ済まねえぞ」

「そ、それは勘弁」

「だったらお前が知っていることを洗いざらい歌いな。妖刀鍛冶だって言うんなら、他のお仲間から誘いがあったんじゃねえのか?」


 勉から金属片を取り上げた斬九郎は、胸元を掴んで彼を脅す。

 その様子を憧れの眼差しで見る律子とは裏腹に、甫はそんな彼女の視線に気づいて少し妬く。

 そんな嫉妬心の影響だろうか。

 小さな鍔鳴りの音が甫の耳を刺激していた。

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