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何人かは錯乱して外へ飛び出そうとして、自動扉の前を陣取る勇輝に阻まれた。混乱するのも当然だ。
勇輝は眉間にしわを寄せつつも大きく息を吸い、それから言葉を乗せて一気に吐き出す。
「――皆さん、落ち着いてください! あの化け物は俺たちで対処しますから、決して外に出ないように!」
普段は性格上大声を出さない勇輝だが、張り上げた声は狭い店内によく通り、慌てていた人々も口を噤んだ。
虚勢でも気休めでもない、確かな意思を持って響いた彼の台詞に異論を唱えられるものはその場にいなかった。
ただ――約一名。何やら仰天した様子の少女が一人、いた。
「く……黒神⁉︎」
「はぁ⁉︎ なんでお前がいるんだ田村!」
聞こえるように声を張っているから、勇輝の返答はいつもよりも喧嘩腰に思える。
それにむっとしたのか、由紀は頬を膨らませて怒鳴り返す。
「なんでって言ったってしょーがないでしょー! たまたま買い物で李雨日まで来てて、コンビニでお弁当買ってかーえろっと思ったらなんかヤバいのいたんだもん‼︎ 何アレあれも異獣⁉︎」
「どう見たってただの蝶じゃないのはわかるだろうが! お前の目は節穴か⁉︎」
「ただの蝶じゃないからビックリしてんの‼︎」
「ビックリで済むなら騒ぐなこの馬鹿猪!」
「ビックリで済んでないわよ怖いに決まってんでしょ‼︎」
ハイテンポで進む少年少女の応酬に、今さっきまで恐怖で縮こまっていた店内の一般人たちも困惑している。二人の凄まじい剣幕に圧されているような。
「まあいい、話が通じる奴がいるなら好都合だ! 田村、お前は一般人を外に出さないようなんとかしろ! 俺はシブキに加勢する!」
「えっ⁉︎ ちょっと待っ、私も一般人なんだけど丸投げ⁉︎ 無責任じゃない⁉︎」
由紀の反論に聞く耳も持たず、勇輝は店内から足早に出て行ってしまう。
しばしの沈黙の後、人々の視線が由紀に集まる。
「え……えーっと……」
引きつった笑顔で誰にともなく助けを願う由紀だが、当然手を差し伸べる者はいない。何せ勇輝がいなくなった今、この場で事情を知っているのは由紀だけなのだ。
三秒ほど目を泳がせて、ようやく決心がついたのか、はたまたやけっぱちなのか、猪少女は口を開く。
「み……みんな外に出たら危ないから、中にいてください!」
店中に響き渡る、当たり前の警告。一応、騒めきは収まったようだ。
一方のシブキは、外でオオアゲハ二体を相手取っていた。
一体が勢いをつけて突進するが、容易く見切ってひらりとかわす。スピードはクレナイスズメより格段に低い。翅から分泌する毒液にさえ注意すれば、熟練の龍や龍使いにはどうということもない敵だ。
すれ違いざま、シブキの剣がオオアゲハの胴体を的確に斬り裂く。傷口から消滅していく蝶を視界の端で確認したシブキは、すぐに次の標的へと目線を移す。
ちょうどその時、勇輝がコンビニから出てくるのが見えた。
勇輝は敵の姿を捉えるなり、間髪入れずに紫の瞳を文字通り輝かせた。
「波動術――"射光線"」
紡がれた言の葉とともに完成したのは、淡いアメジスト色の光に姿を変えた波動の矢。三本ほど生成されたそれは、音もなく宙を滑り、まだ仕留められていないオオアゲハの両翅と頭部を射貫く。




