第四話「年齢詐称も程がある」 1/11
守れない俺に存在価値はない。
戦わなければ俺はただの屍だ。
第四話「年齢詐称も程がある」
教室は妙にざわついていた。話し声が絶え間なく、あちこちから飛び交って居心地が悪い。
都立李渦高校、二年二組。時刻は八時十五分を指している。
ほとんどのクラスメイトがわいわいと話している中、黒神勇輝は後方の席で机の上に突っ伏していた。騒がしいのを嫌う勇輝にとって、この環境はひどく苦痛だ。イヤホンを持ってきていないことを今更のように後悔する。
あからさまなくらいに不機嫌な様子の彼にあえて話しかける者はいなかった。一人を除いて。
「おはよう、勇輝!」
聞きなれた声に、勇輝の頭がのっそり上がる。前髪を真ん中で分け、黒縁の眼鏡をかけた笑顔の友人は、まるで勇輝とは正反対の印象だ。
「光輝か。おはよう」
彼――御神楽光輝は、気難しい勇輝の数少ない親友である。
端正な顔で頭の切れる、さらに運動神経も抜群な勇輝は、決して人から好かれないわけではない。ただ、本人が群れることを嫌い、おまけに人付き合いというものに興味を示さないため、彼が友と呼ぶ相手はごくわずかなのだ。
友人の顔を見て少し元気が出たらしく、もそもそと起き上がる勇輝に、御神楽は楽しそうな声で話しかける。
「ねえ、聞いた? 今日転入生が来るんだって! しかもうちのクラス!」
「ああ……さっきから騒々しいのはそのせいか」
「あれ、興味なさそうだね?」
首を傾げる御神楽に対し、勇輝は当たり前だろうと言いたげに頭を振った。
「誰が来ようと俺に関係のあることじゃない。面倒な奴でなければどうでもいい」
「もー、冷めてるんだから。そんなんじゃ、いつまでたっても友達できないぞー?」
「いいだろ、お前がいるし」
「ンッ……勇輝って真顔でそういうこと言ってくるよね、ホント。そういうとこ好きだけどさあ」
御神楽の方も、勇輝のことは大切な親友と認識しているので、今の言葉はなかなかに嬉しかったようだ。ぶっきらぼうだが率直な友人に不意打ちを食らって、思わずにやけた口元を左手で隠している。
「ニヤニヤしているお前は好きじゃない」
「誰のせいだと思ってんの」
「さあな」
「ずるいなあ、いつも勝ち逃げなんだから。……じゃ、僕そろそろ席に戻るよ」
「わかった。また後でな」
先頭にある自席に戻っていった御神楽を見送ってから、一分もしないうちにチャイムが鳴った。
しばらくして担任の教師が出席簿片手に教室へ入ってくる。
「ホームルーム始めるぞー、席つけー」
「センセー! 転入生は?」
威勢のいい生徒がビッと手を挙げて尋ねた。
はてあいつは授業中もあんなにびしっとした挙手をしているだろうか、と勇輝は内心呆れていたが、面倒は御免なので声に出したりはしない。
「まあ慌てるな慌てるな。みんな知ってるみたいだが、今日は新しいクラスメイトを紹介するからな! 入っていいぞー!」
間延びした声で担任が開けっ放しの扉の外に合図を出すと、一人の青年が教室に入ってくる。
その姿を目にした勇輝は、無意識のうちに立ち上がっていた。
「は――」
「よう、勇輝」
一度は静まり返った教室に、再度ざわめきが起こる。
転入生が来たからではない。普段冷静で感情の起伏を見せない勇輝が、鳩が豆鉄砲を食ったかのように驚いていたからだ。
無理もない。教室に入ってきた、その青年は。




