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「あら、ありがとね。佳純ちゃん、由紀のお友達が探してくれるって。ええ、大丈夫よ、昨日わざわざ由紀を送ってくれた子たちだもの。……下心? なんにもなさそうないい子たちよ。ねぇ、龍魔くん――」
彼女が振り向いた先には、すでに誰もいなかった。開けっ放しの玄関から見えるのは、道路の向こう側の景色だけだ。
「……もう行っちゃったのかしら?」
由紀の母親が首を傾げているときにはもう、シブキと勇輝は李渦公園の方向へ走り出していた。
勇輝は走りながら携帯電話を取り出し、スピーカーに切り替えた上で柚木に向けて発信する。コールは二回しか鳴らなかった。
「――もしもし、黒神です。支部長、百々目鬼たちの動きは」
『高架下だよ。高速道路の高架下』
「……高架下、となると」
「次の角を曲がってまっすぐ、だな」
「ああ。……支部長、助かりました」
焦りが電話越しでも柚木に伝わっていたのか、彼の声は若干の疑問を抱いている。
『勇輝くん、今増援を手配するからもう少し――』
「時間がありません」
柚木の言葉を、勇輝が真っ向から切り捨てた。それは彼が柚木を嫌っているからではなく。
「人一人、攫われているかもしれないんです」
『ああ……そういう。わかった。今から僕とヒョウでそっちに向かう。間に合わないかもしれないけど、ないよりはマシだろ?』
「はい。俺たちに何かあったら、よろしくお願いします」
勇輝の弱気な発言に、しかし柚木は笑って答える。
『らしくないぞ、勇輝くん。君とシブキくんなら大丈夫だ。さ、行っておいで』
「……ありがとうございます。では」
電話を切る直前に小声で吐かれたその言葉を、シブキは聞き逃していなかった。
「お前が支部長に礼なんざ珍しいじゃねーか。追い詰められてんのか」
「まさか。仕事だけはできる上司でよかったと思っただけだ。お前こそ根詰めるなよ」
「ハッ、相変わらずだな。……なら心配ねぇ。いくぜ、相棒。猪の捜索くらい朝飯前だろ」
ニヒルに笑った相棒に、勇輝も不敵に口角を上げてみせる。
「もう朝飯も済んでる。あんな馬鹿猪一匹、捕まえられないはずがない」
「頼もしいもんだぜ、ったく」
けれど、そんな相方に力をもらっているのもまた、事実なわけで。
「…………無事でいろよ、由紀」
小さく呟かれた水龍の本音は、肩を切る風とともに流されていった。
薄暗い高架下、怪しくそびえる閉じた襖が一組、シブキと勇輝の目前にあった。
「……まさかあれか?」
「ああ。目目連が展開する空間の入り口だ」
シブキの双眸が、襖から勇輝へと向けられる。
「突入前に言っておく。目目連は空間展開を主とする異獣だ。襖の奥は奴の空間。おまけに俺とお前、同時に入っても恐らく分断される。空間の最奥に目目連がいるんだろうが……辿り着けなきゃ意味がねぇ」
「辿り着けないなんて笑わせるな。お前と引き離されたまま、俺が死ぬわけないだろう」
是非も言わせず鼻で笑った相棒の紫水晶の瞳には、揺るぎようのない確信が宿っていた。
「簡単に言ってくれるぜ。けど、そうこなくちゃな。……奴は自分の空間の中じゃ無敵だ。だが隙を突いて現実世界へ引きずり出せれば、中位種程度の実力しかない。わかるな?」




