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「さあ、来い。お前たちの相手は俺だ」


 彼がそう告げると同時に、一ツ目どもは空に飛び上がった。ある程度の高さまで上昇すると、落下の勢いをつけて三方向から青年に襲いかかる。


 青年はギリギリまで引きつけ、突進を喰らう寸前で鎌を大きく振るう。衝撃で起きた風が、小さな三体を吹き飛ばしていく。吹き飛ばされたうちの一体は、目を回して力尽きてしまった。


 残り二体は負けじと立ち上がり、今度は鋭い爪の生えた触手をむちのように振って青年へと向かっていく。青年は難なく斬撃を見切って鎌で受け止める。


「……すげぇ」

「何もんだ、あのガキンチョ……」

「鎌なんてさっき持ってなかったよな?」


 背後で見守る群衆は、青年の手慣れた動きにただ呆然とするばかり。先ほどまで疑心と軽蔑の声を上げていた野次馬どもでさえ、息を呑んで戦いの行方を見守っている。


 交戦中の青年の瞳がちらりと動いて、群衆を一瞥した。


「ひとの戦を、」


 一ツ目の動きが一瞬止まった。その隙に、青年の大鎌は二体の胴を真っ二つに引き裂く。


「――見物するな」


 言いながらアメジストの眼球が捉えていたのは、化け物たちのいた所ではなく、人の群れの方だった。死神の冷たい眼で覗かれた人々の間に、冬でもないのに冷風が走る。


 重たい沈黙に目もくれず、青年は公園の中央、自身の片割れが走っていった方を見やる。


「…………さて相棒、援軍は必要か?」


 この分ならいらなそうだな。どこか楽しげな声でそう呟いて、青年は相棒が向かった場所へと走り出した。





 死神が鎌を振るっていた頃、青の青年も同じように敵を前にしていた。四体目の化け物である。


 それは三体の一ツ目どもとは全く異なる外見をしていた。一頭身で丸っこい一ツ目とは違って、こちらは人型。白くぼろっとした浴衣に身を包み、頭は大きな布で隠されている。布から垣間見える顎の部分には、古い包帯が乱暴に巻きつけてある。


 ここまでならまだ人だと言っても通用するかもしれない。しかしそれを異形たらしめるのは、袖口から覗く二本の長い鉤爪と、三本爪の蜥蜴のような脚、そして頭の布を突き破って額から伸びる、鬼の如き一本角である。首筋にはあるはずのない目がついている。頭を覆う布や着物の端々に見られる、目玉のような赤い模様も、その異様さを助長していた。


 加えて厄介なのは、化け物が一人の少女を捕らえていたことだ。触手のように蠢く長髪で絡めとられた不憫な少女には、恐怖に顔を引きつらせることしかできなかった。


 青の青年が駆けつけたのは、化け物が自ら包帯を剥がして大きく裂けた口を露出させ、今まさに少女を喰らわんとしていた、その時だった。


「させるか、よッ!」


 化け物の牙が少女の柔い肌を貫く直前、少女を拘束していた髪がばさりと斬り裂かれた。すんでのところで青年が滑り込み、剣を振るったのである。それでもなお口を開けて化け物は襲いかかるが、青年は少女を抱き上げて横に躱してみせた。


 青年は化け物と距離を取ってから、少女をそっと地面に下ろし、庇うように彼女の前に立つ。


「もう大丈夫だから、あとは俺に任せな。お前は後ろに全力で走れ。いいな?」


 優しく気遣うように青年は微笑(わら)う。救われた少女の目には、その背中が誰よりも凛々しく映った。戸惑いながらも少女はこくりと頷き、立ち上がって走り出す。

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