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化け物は崩れた姿勢から不気味に起き上がり、爪を突き出して青年に斬りかかる。青年の剣は鉤爪を受け止め振り払う。化け物の猛攻にも臆さず、彼の足は一歩たりとも退こうとしない。憎々しげに唸りを上げる化け物に、青年は不敵な笑みを浮かべた。
「ヘッ、そう簡単にゃ行かせねぇよ。こう見えても防戦は得意なんでな」
挑発を理解したのか、化け物の攻撃は徐々に激しさを増していく。しかし化け物が苛烈に攻め立てるほど、青年の剣筋もより速く、鋭くなる。
しばらくの攻防の末、ついに青年の目の色が変わった。突如大きく振るわれた刃に化け物は追いつけず、弾き飛ばされる。右手の爪のうち一本にひびが入り、音を立てて割れてしまう。
「距離は稼いだ。そろそろ本戦といこうぜ、百々目鬼」
これまで彼が防戦に徹していたのは、少女が逃げきるまで化け物を引き付けていたからである。彼女が化け物の手の届かない位置まで逃げた今、青年が攻めに転じない理由はなくなった。
反撃開始だ。青年は小さく呟いて、左足をぐっと後ろに引き体勢を低くする。右手に持つ剣の刃を自身の胴の左側に当てるその姿勢は、居合の構えにも似ている。
化け物が警戒を強めるより早く、青年の右足が力強く地面を踏みつけた。息もつかせぬ速度で敵の懐に入り込み、斬り上げる。
化け物の被っていた布が破れて、憎悪に燃える単眼が露わになった。剣は勢いを残したまま、化け物の眼球目掛けて突きを繰り出す。鋭く尖った鋼はその眼を貫き、化け物の一切の動きを停止させた。
形勢が逆転してから、わずか三秒の出来事だった。自身の核をやられた化け物は倒れ、その体も徐々に光の粒と化して空の彼方へ消えていく。
崩れていく亡骸を見下ろし、無形の蛍に囲まれて静かに佇む青年の姿は、何も知らない人々の目に英雄として映っていた。
青年が緊張を解くように息を吐いたと同時に、静まり返っていた群衆から叫びが上がる。先程の罵声とは違う、しかし同じくらい激しい轟音を、青年は全くもって予想していなかったようで、「は?」と小さく漏らして振り向いた。
「すげぇ! あのバケモンを倒しちまった!」
「ヒーローみたい……!」
「紫の奴もすごかったよな、なあ!」
その後も次から次へと、二人の青年への称賛の言葉が飛び出した。しかし青年は笑顔を向けるどころか、どんどん不機嫌な様子になっていく。
「……なァにがヒーローだ。人の命かかってたってのに」
ぼそりとこぼされた悪態はどこか怒りの色を帯びているが、興奮しきった群衆にはもはや届かない。唯一、その小さな文句を聞き取ったのは、彼と同じ戦場に立った紫の青年だけだった。
「ご機嫌斜めだな、シブキ」
いつの間にやら後ろに立っていた紫の青年に、青の青年は不服そうな顔で返事をする。
「うっせー。おせぇよ勇輝、もう終わっちまったぜ」
「お前が速いだけだ。目玉鬼を一掃して、お前の方を見たらまだ百々目鬼が立っていたから助太刀しようとしたら、数秒後には決着がついていた」
「見掛け倒しだよ。見た目で怯みさえしなけりゃ、おせーし脆いし一撃も軽い。中位種っつっても弱い方さ」
「まあ、お前のスピードにはそこらの異獣じゃついていけないだろうな」




