第十八話「影天」1/10
第十八話「影天」
生温い風が路地を吹き抜ける。さあ、と木の葉が音を立てた、気がした。
煌々と地を低く照らす落ちた太陽が、黄昏色の光で世界を縁取っている。
陽の当たらない側に立つ、彼――シブキの前に突如現れた、ダスプレトと名乗る黒外套の男の姿は、まもなく訪れる夜の兆し、暗い闇色に溶け込んでいるように見えた。
ダスプレトが開口一番吐いた言葉に、シブキは眉を顰める。
「殺すのに相応しい? ワケのわからねえ言い回しだな」
「まあ、いいさ。君に理解されるつもりはないし、そんな必要もない」
諦念か、或いは。ダスプレトはそう吐き捨てると――その姿を、消した。己の影に、文字通り落ちるようにして、姿を消したのだ。
「どうせ、君は死ぬんだからさ」
コンマ数秒の時間経過の後、シブキの真後ろでダスプレトの不気味な声が響く。咄嗟に振り向いたシブキは、喉元まで迫っていたダスプレトの剣を、自分の剣でどうにか受け止めた。
冷や汗が首筋を流れていったのを感じながらも、シブキはあくまで不敵な笑みを作る。
「ハッ、簡単に死んでたまるかってんだ……!」
「どうかなあ? 僕と戦えば君は死ぬんだよ。絶対にね」
ダスプレトは剣を押す力を強めながら、そう言った。鍔迫り合いに至っている現状、これほどの至近距離でもダスプレトの顔や表情は窺い知れない。それがただの影ではなく、なんらかの術の類であることは明白だった。
どこまでも素性を明かそうとしない、気味の悪い男である。シブキはわずかに背を走る悪寒に無視を決め込んで、すう、と息を吸い込んだ。
「そういうデカい口は、勝ってから叩くんだな!」
一声、同時にシブキはダスプレトの剣を強く押し返すようにして弾く。後退したダスプレトは、そのまま次の一撃を警戒して距離をとる。
実力差が大きくあるような感覚はない。それはつまり、一対一では頓着するが、二対一に持ち込めれば有利をとりやすいということだ。それをシブキの相棒である勇輝も察したのであろう、彼はシブキに加勢しようと前に出る。
しかし、勇輝の前進を阻むように、薄緑の光を纏ったハルバードが突きつけられた。ダスプレトが連れていた、黄緑色のパーカーを着た青年のものである。
ハルバードのスパイクをかわし、勇輝は彼を威嚇するように鋭く睨む。
「退け。お前に構っている暇はない」
「……あいつの邪魔をするなら、おれが相手だ」
青年は小さくも確固とした声で言うと、ハルバードの柄を手元でくるりと回してヘッドの角度を変え、アックスブレードの部分を勇輝に向けて振るう。
対する勇輝は、その一撃を大鎌の刃で受け止める。
「なるほど……。言っても聞けないのは、お互い同じなようだな」
「お前が諦めてくれればいいだけだ。おれはお前に危害を加えるつもりはない」
「ああ、そうか。だがな、俺は――」
勇輝は柄を握る手に力を込め、ハルバードを一気に押し返す。
「やむを得ないなら、貴様を殺しても構わない」
ふらつきながらも後ろに下がった青年は、ポールを握り直して顔を上げた。
「……物騒な奴だな、お前」
「なんとでも言え」




