(貧)NEW GENERATION 第32話 胸囲育成部とないちち賞賛部
「――と、いうわけでだ。いいな? この条件が揃えられなかった場合、解散命令を出すぞ?」
呼び出された会議室で、部長を勝手に名乗っている二人が、えらい巨乳の女教師から浴びせられた言葉である。
板橋まなまと大平野カクシコは、もちろん反発した。
しかし、巨乳は淡々と、正論で二人を諭した。
早い話が日ごろの行いが良くないということだ。
空き教室の無断使用。後輩へのセクハラ的な勧誘を繰り返し、有望な人材を強制的に加入させていること。そもそも部活とするには人数が足りていないこともある。
この問題が一週間以内に解決されない限り、『ないちち賞賛部』も『胸囲育成部』も、どちらも解散となることが勧告されたのだった。
だったら、五人以上を集め、正式に部活として認められればよい。最近部室に出入りしている篠原あたりに証言させて、セクハラ的な勧誘による加入の強制をしていないことを証言してもらえばよい。
全ての問題は、それで解決する。
そして、その解決の可能性があるからこそ、両部長が、こうして並んで座らされていたわけだ。
残りの一週間で新しい貧乳を集めるのは難しい。無理な勧誘をしないように釘をさされている以上、二つの集まりが統合されること以外に道はないのだ。
そんなことは、まなまもカクシコも、重々承知しているのだった。
問題は、どちらが主導権を握るかということである。
伝えたいことを言い終えると、教師は手を叩いて立ち上がり、
「それじゃ、一週間のうちに、どうするか決めましょうね」
そして会議室を出るよう、二人にうながした。
部屋を出て、板橋まなまが真っ先にメッセージを送ったのは、比入ひのでだった。
言われたことを箇条書きにして送ると、すぐにひのでが走って来た。
ひのでは、開口一番、いつもの軽いノリで解決策を口にする。
「簡単じゃん。戦って勝った方が真の部長っしょ」
カクシコとまなまは、「それはそう」と頷き、しかし、何で勝負したらいいのかと考えを巡らせた。
そこに、あまりに耳のはやいことで、後輩の篠原栄華が、全てを理解した顔であらわれた。
「お困りのようですね。対戦競技のことなら、私に任せてください。とっておきの戦場を用意しますよ」
「タイミングよすぎない? 連絡もしてないのに、なんで知ってんの」
「情報源は明かせません」
篠原栄華は学園の上層部にいる母親から、二つの愛好会を潰す方向で話を進めている件を聞いていたのだった。
★
屋内温水プールに、七人が集まった。
春夏秋冬、いつでも入れる巨大で立派な百メートルプールだ。
シンプルな水着に身を包んだ貧乳たちが、二つのチームに分かれ、向き合っている。
片方には、『胸囲育成部』が並んでいた。すなわち、板橋まなま、比入ひので、前玉うおるの三人である。
もう片方には、『ないちち賞賛部』が並んでいた。すなわち、大平野カクシコ、天海ミユル、今山ハルヒメの三人である。
それぞれ指定の水着のみを着用しているが、今山ハルヒメのみ、上半身が隠れている。フード付きのラッシュガードを着用しているのだ。
そして両チームの真ん中に、篠原栄華が陣取り、審判の役目を果たすことを表明した。
「さて、先輩がた、貧相な水着姿で何をするのかと言えば、和井喜々学園伝統の、『胸パッド拾い』です」
板橋まなまは、「ああ、あれか……」と呟いた。大平野カクシコ、比入ひので、天海ミユルも同様の反応だった。
高校からの新入生である前玉うおるのデータベースには無く、今山ハルヒメも名前はきいたことがあっても実際にプレイしたことはなかった。
その様子を察して、ひのでが二人に説明する。
「いやー毎年、プール授業のなかでやらされるんよね。胸パッド拾い。水面に浮かんだり、水底に沈んだりしているパッドを多く集めた方が勝利するゲーム。妨害ありで強奪もありだから、和井喜々プールの格闘技と呼ばれたりもしてるんよ」
「格闘技……。けっこう激しそうっすね」とハルヒメ。
「何が来ようと負けない。あたしが最強の貧乳だってことを、わからせる」
うおるは、そう言って、美しいフォームでプールに飛び込んだ。
和井喜々学園プールに電流が走った。
「……え?」
「せ、先輩?」
「うおる?」
「これやばくない?」
「まずいかしらね」
沈んだまま浮いてこなかった。
うおるが動作不能に陥り、始まる前から脱落となった。
ハルヒメが勇気を発揮して飛び込んで、引き上げる。
「大丈夫そうですー!」
呼吸もあるし、鼓動もある。気を失っただけのようだ。
人間ではなく、機械を内蔵した貧乳ドールなので、こういった事故も起こる。明らかに占い女の設計ミスか、データベース構築ミスである。
とはいえ、もともと前玉うおるはプール授業があれば、すべて見学する予定だったのだ。
すでに、うおるが自分の意志で歩み始めている以上、占い女を責めることなどできようはずもない。
「うおるったら何をしてるのかしらね。これは勝利はもらったかしら」
大平野カクシコが安心しながらも煽った言葉には、誰も何も答えなかった。
今山ハルヒメは、着替えることもなく、水着姿にフード付きラッシュガードという姿のまま、俊足を飛ばして保健室へと走った。
★
駆けつけてきたハカセは、「大丈夫、すぐ治って起きあがりますよ。刺激がつよすぎただけです」と言って、うおるをプールサイドに寝かせた。
うおるの離脱は非常に厳しいものだ。三人が二人になった時の戦力ダウンはあまりにも大きい。しかも、防水機能さえあれば他の追随を許さないほど万能なうおるがいなくなってしまったわけだ。
未来のテクノロジーの一部を使っているとはいっても、完全というわけではないのだ。
予想外の事態に、板橋まなまは頭を抱えた。自分とひのでだけでは厳しい。相手の人数も減らしてもらうか、誰かを補充する必要がある。
板橋まなまは、誰かいないかと周囲を見回してみた。期待していなかったのだが、一人の女子が目に留まった。
「いるじゃん。いいのいるじゃん」
その視線は、篠原栄華の貧乳をロックオンしていた。
それに気付いた大平野カクシコが、「何を考えているのかしらね。その子は中立でしょ?」と不快感を表明したのだが、篠原は、腕組をして数秒考え込んだ後、言うのだ。
「確かに、私はどちらかというと育成派ですからね。盛らない方針のほうが好ましいっすね」
「じゃあ、誰が審判をするのよ。不正を監視するために、絶対に必要じゃないかしら?」
カクシコの抗議もむなしく、一人の女が名乗り出た。
「あの、横からすみません。私、できますよ。ジャッジ」
占い女が審判を担当することになった。




