(貧)NEW GENERATION 番外編 第21.5話 ミユルサイド(2/2) 大平野好史の指鳴らし
ただならぬ事態が起きていることは、明らかだった。
まちのあちこちで、土煙が発生している。火柱が上がっているところもあった。
逃げ惑う前玉うおる。その影を、おびただしい数の機械人形が追いかけていたのだ。
十や二十なんてものじゃあない。百、いや、数百、数千体はいるかもしれない。
さらにミユルが驚かされたのは、前玉うおるの人間離れした俊敏さだった。
それでも、絶望的な物量差をみれば、時間の問題なのは明らかだった。
このままでは、うおるが危ない。いや、うおるだけでは済まないかもしれない。大事な先輩である大平野カクシコの身も危険だ。
というか、これはもう、このまちの危機である。
あるいは、前玉うおるが逃げれば逃げるほど、被害が広がって、世界全体に被害が出たりすることもあるかもしれない。
――全力で守らなくては。
敵の破壊力に対抗するために、ミユルは透明化を解いた。一体ずつ機械人形を潰していくことにしたのだ。
前玉うおるは敵ではない。彼女を襲っている者たちを、何が何でも完全に止めなくてはならない。
未来の技術の一部を使って作られた兵隊を相手に、ひとり奮戦する。
幾度となく光の弾を繰り出し、敵を撃ち抜いていく。
はじめは苦戦していたが、動きや判断の癖がわかると、素早く的確に無力化することができた。
不幸中の幸いだったのは、敵の機械仕掛けの兵隊たちが、目に見えて機械であることだ。もしもこれで他の人間と見分けがつかなかったらと思うと、ぞっとする。
戦っているうちに、次第に余裕が出てきたのだろう、ミユルは不安になってきた。
――もしかしたら、途中で「願いエネルギー」が尽きてしまうかもしれない。
――今この力を使い果たしたら、近い未来に訪れるかもしれない悲劇を解決できなくなるかもしれない。
――というか、誰かに見られたらどうしよう。
前玉うおるにも見つからないように守っているけれど、いつまで秘密のままにできるかわからない。
残った敵も減ってきたから、前玉うおるにも余裕が出て、自分のことを発見してしまうかもしれない。
再び空高く舞い上がると、残りの敵が、いつも通っている学園に集中していることがわかった。
前玉うおるの足が向かう先も、どうやら和井喜々学園のようだ。
体育館の屋根に降り立った天海ミユルは、これまでそうしてきたように、敵の攻撃を回避しながら、隙を見つけてカラフルな光の弾で敵を撃ち抜いていく。
何度目かの敵の攻撃を回避した時、こそこそと逃げ回っている知り合いが目に入った。
傷ついて血みどろの大平野好史を、二人の女の子が体育館裏まで運んでいる最中だった。
機械仕掛けの人形たちは、しかし、男を運ぶ姉妹には手を出せないようだった。武器を出したり引っ込めたりして、迷っているようにも見えた。
敵の首謀者も、無差別に攻撃させているわけではないらしい。
それならそれで、大平野好史が蜂の巣にされていることに違和感をおぼえないではないけれど、ともかく緊急性の低さから、しばらく身を隠していることにした。
体育館裏の安全地帯まで運ばれた大平野好史は、持ち前の不死身さで無事だったが、しばらく動けないようだった。
大平野好史は、二人の娘に語り掛ける。
「すまん。腰を含めてあちこちやられたようだ。筋肉はずたずたで骨は粉砕されて内臓は機能停止している。だが、じきに治るから、回復まで待ってくれ」
「そんなん待てるわけねえし。うおるがピンチなんだから。先に行くし」
「ひので、まて」
大平野好史が、娘の手を掴んだ。
「なんだよ」
「絶対に無理はするなよ。俺は娘であるお前の、ないちちびいき、なんだからな」
その言葉が発せられた時、まるでその無神経な発言をとがめに来たかのように、一斉に敵が集まってきていることに気付いた。
安全地帯は、安全地帯ではなくなってしまった。
「こんな機械仕掛けの兵隊に、どうやって勝つよ?」とひので。
「本当、どうしたらいいのかしらね……」とカクシコ。
娘たちの問いに答えたのは、大平野好史だった。
「そうだな……」
好史は、空を見上げた。
その視線の先には、魔法少女ミユルがいた。
本当は、もうおしまいだ。なすすべがない。絶望だ。さよなら娘たちよ。とか、そういうことを言おうとしていたのだった。
けれども、ミユルが駆け付けていたなら話は別である。
好史は、ミユルが魔法少女をやっていることを知る数少ない大人の一人なのだ。
大平野好史は、ミユルと目を合わせたまま小さく頷いた。
一瞬のアイコンタクトで、ミユルの次の行動が決まった。いや、決めさせられたというべきかもしれない。
もはやミユルに選択肢はなかった。先輩と友達に魔法少女を晒すことになったとしても、助けるしかない。
大平野好史は、ミユルの気も知らずに格好つけた声を出す。
「相手は、ほとんど未来のテクノロジーだ。それを上回ることができるのは……」
「できるのは?」
「そう、愛の力だ」
それは、好史からミユルへの、助けてほしいというメッセージだった。
ミユルが魔法少女でいられるのは、おおげさではなく、愛の力があってこそだ。
両親からの愛だとか、会ったこともない誰かからの愛だとか、ミユル自身の愛だとか、茶色い杖にはいろいろなものが詰まっている。
愛の力があれば、なんでもできる。
だけども、あまりに近すぎる。
いくら普段と姿が変わっているとはいえ、カクシコやひのでに気付かれたらおしまいだ。
これからの学園生活で、永遠に魔法少女ネタで煽られ続けたり、腫れ物にさわるように扱われ続けたりしてしまう。
迷いに迷い、出るに出て行けないでいると、大平野好史は、だらりと力なく落としていた手を持ち上げた。
ミユルの胸の迷いを、好史は敏感に感じ取っていた。その様子を瞬時に把握するだけにとどまらず、さらに、その解決策を見つけ出したのだ。
――これをやれば、自分に目を向けさせることで、天海ミユルを動きやすくすることができる。そのうえ、自分のカッコイイ姿を娘たちに見せつけることもできる!
かくして、指は鳴らされた。
その怪しい動きをみて、また、機械人形たちの引き金が引かれようとした。
大平野好史はほとんど不死身だ。人類離れした再生能力を持っている。
それでも、何度も父親が撃ち殺されるショッキングな映像を大事な先輩と友達に見せるわけにもいかない。
「パパぁ!」
「おとうさん!」
たくさんの銃口が、父を狙っていた。
父親の生命の危機を感じ取った娘たちが悲痛に叫んだ。
ミユルは、勢いよく空へと飛び出した。
二人からは死角になって見えないところで茶色い杖を振り回し、光の弾を生み出した。
五色に輝く光の弾は、変則的な軌道で機械仕掛けの人形たちを襲い、圧倒的な武力で暴力を叩き潰した。
そして、見つからぬように急いでその場を離れたのだった。
こうして、全てが解決した……かに思われた。
天海ミユルは、ひとけのない遊歩道で、荒い呼吸を整えながら、魔法少女への変身を解いて、制服ぽっちゃり女子に戻った。
そして、やり切った、とばかりに、ない胸をなでおろした。
そんなミユルを待っていたのは、後輩のニヤケた声だった。
民家の白い塀に背を預けながら、篠原英華はいう。
「天海ミユル先輩。みていましたよ」
「げっ。えかぷん……」
「動画、みます?」
「なぁっ……」
「その前に先輩、屋上にでも行きましょう。あの一家の結末が気になりますし」
「何言ってんの。こっからは、もうハッピーエンドしかないでしょ。見なくてもわかる」
「いいから、急いでください。あっ、そうだ。その杖に乗せてもらいましょうか」
「これは、そんな気軽に使っていいもんじゃ……」
「魔法を使って大立ち回りしているところ、ネットにばらまいてもいいんですか?」
「……あんた、絶対いい死に方しないわね」
「えへへ、よく言われます」
「ほめてないけど」
「いやーそれにしても、学園守護の魔法少女がいるって話は、母からそれとなく聞いていたんですが、まさかそれが、ミユル先輩だったなんてねぇ」
「誰にも言わないでよ?」
「ミユル先輩次第ですけど?」
天海ミユルは、奥歯を噛みしめた。
この日以来、立場が逆転し、魔法少女ミユルの活躍が派手にはじまるのだが、それはまた別のお話である。
ミユルサイドは、ここまで。
次話より本編に戻ります。




