(貧)NEW GENERATION 番外編 第19.5話 ミユルサイド(1/2) 天海ミユルの秘密
ここから二話ほど、天海ミユル視点の番外編となります。
混乱のうちの和解を屋上から見下ろしながら、篠原英華は愉悦していた。
家族が拡大した。
大平野好史と比入氷雨の関係が復活した。占い女も家族になった。
大平野カクシコも、比入ひのでも、前玉うおるも、娘になった。
和やかな輪はそうして拡大していくものだと、篠原は金網に手をかけながらニヤリと笑う。
「計画通りってヤツですね」
篠原英華のほくそ笑みに、どこがだよという視線を向けていたのは、制服姿の天海ミユルだった。
遠く屋上から、事態の推移を見守っていた。
ミユルは不安げな声で、
「ねえ、本当にお願いね、誰にも言わないで」
「もちろんっすよ、ミユル先輩。でも、もう少し言い方ってあるんじゃないっすかね」
「クッ……お願いします」
「いやー、いい気分っすねぇ」
この二人が、なぜ一緒にいるのか。
なぜ仲良しの輪のなかに入っていないのか。
なぜミユルが誰にも言わないでと懇願し、なぜ篠原が脅しで返したのか。
それを知るには、事件の少し前に遡らなければならない。
★
屋上の庭園。
枯れた花を片付けていた篠原英華は、誰かが屋上に向かっていることを察知して、素早く壁際に身を隠した。
さきほどまで持っていた枯れた花束を落としたあたりで、二人の先輩が立ち止まった。
大平野カクシコが深刻な雰囲気で会話をはじめた。
比入ひのでは、ふざけて返しているようだったが、いつもとは違う緊張感があった。
かいつまんで言えば、大平野カクシコが、父親との仲で悩んでいるという内容だった。
しかも、よくよく聞き耳を立ててみると、それが姉妹の会話であることがわかった。
――ひので先輩が、カクシコ先輩を姉貴とか呼んでいる。
家庭の事情に首を突っ込むのは、さすがの篠原でも気が引けた。
けれども、そういえば板橋まなま部長が、カクシコ先輩の元気のなさを気にしていたなと思い出し、わりとあっさり好奇心が勝った。こっそり尾行でもしようと、ひとり頷いた。
妹が姉の手を引いて屋上を後にした。
踏み出そうとした篠原を止めたのは、先輩の手だった。
振り返ってすぐに目に飛び込んできたのは、はち切れんばかりの胸の膨らみだったのだが、残念ながら、それは盛られたものだ。全体的にぽっちゃりとしたシルエット。
いつの間に背後にいたのだろうか。
「この手はなんですか、ミユル先輩」
「ミユルは、感心しないな。のぞき見とか。まして先輩の秘密を嗅ぎ回ろうなんて、どんな天罰が下るやら」
「……何か知ってそうな物言いですね。何者なんですか? ミユル先輩は」
「ミユルはミユルだよ。カクシコ先輩の後輩で、あなたにとっては先輩。ただそれだけ。何もあやしいことなんて無い、ただの女子高生」
「いまの、特別な秘密がある人が言いそうですよね。ていうか、この立入禁止の屋上にいながら二人に声を掛けなかったってことは、先輩ものぞき見してたことになりませんか? ミユル先輩は、ここで何をしてたんですか?」
「ミユルは、別に何も」
「カクシコ先輩のことが心配で、見守っていた、とかですか?」
「どうかしら」
篠原は、しばらくミユルを上から下までじろじろと見つめて、やがて閃く。
「……なるほど、そういうことですか」
「どういうことなのよ」
「カクシコ先輩が、ひので先輩やお父さんに気を遣って、胸を盛るのをやめてしまうんじゃないか。それが不安で、遠巻きに様子を見守っていた。違いますか?」
「んなわけないでしょ」
「ですよね。じゃあ、やっぱり、ただ心配で?」
「そういうことにしといてあげる。ミユルの母親からきいたんだけど、あの二人って、父親が一緒でね。その父親が最低なクズ男で、隠し子をつくって家庭崩壊の原因をつくったんだってさ」
「それ、ひどいですね。こらしめてやりたい」
「気持ちはわかるけど、篠原には何の関係もないんだから、首突っ込まないこと、いいね?」
「そうですね。はい」
そしてミユルは、篠原から離れると、二人を追いかけるように階段を下っていった。
「あやしい……」
ひとまず去っていく背中を見送った篠原だった。
その時の篠原は、誰がどう見ても首を突っ込む気しかない雰囲気を醸し出していた。
ミユルを追いかけるように意気揚々と屋上を去っていった。
★
天海ミユルには秘密があった。
両親や、その友人たちがその秘密を知っているのみで、学園では、ほんの一部の人間しか知らない重大な秘密だ。
学校の教員用昇降口には、彼女専用の特別な道具がある。
傘立てにささった茶色い棒を手に取ると、それまでのぽっちゃりボディから一気に痩せ、偽物の乳は爆散した。制服は体型の変化にあわせて変形し、非常にスレンダーでセクシーな形になり、色も地味な制服から一転、ピンク色を基調とした鮮やかなものとなる。
彼女の身体全体は、優しく柔らかい光に包まれた。
可愛らしさと神々しさが同居しているようだった。
そう、魔法少女である。
魔法少女ミユルは、目を閉じ、誰からも見られないように姿を透明にしたいと願った。そうしたら本当に誰の目からも見えなくなった。
目を開き、茶色い杖にまたがると、空を飛んだ。
「ひさしぶりだね、この感覚」
力がみなぎっている。自由自在の力だ。
いつもは、暴漢の襲来とか、暴走車が学園に突っ込んでくるとか、目に見えて学園に危険が迫った時にしか、この力は使わないことにしていた。
両親から受け継いだ杖、そこに込められた「願いエネルギー」が、いつ底をつくとも知れなかったからだ。
それでもミユルがこの杖を引っ張り出したのは、やはり大平野カクシコが心配だったからだ。
上空から、ミユルは二人を追いかけた。
マンションでの会話も、ファミレスでの話し合いも、姿を消したミユルは、全て窓の外から観察していた。
「あのひと、本当にやらかしてたんだ……」
ミユルの両親は、大平野好史と仲が良かった。ミユルは小さなころに、大平野好史に遊んでもらったことがあり、「ミユルちゃんは、美しい絶壁のような貧乳にそだつぞ」などという暴言を浴びせられたこともあった。
絶壁のような貧乳って、それを「育つ」と言っていいものかしらと、何度思い出しても疑問に思う。
あわよくば、「いい機会だ、こらしめてやろう」とさえ、ミユルは考えていた。
そうこうしているうちに、皆の携帯が音を立てて震えた。
窓の向こう、ファミレスの中では、カクシコとひのでが、携帯を手にとるや、驚きの表情を見せた。
ミユルも携帯端末を浮かせて確認する。画面を見る前から、ミユルには予感があった。
「これ、よくないやつだ。こらしめるとか言ってる場合じゃないな」
前玉うおるからのSOSだった。
ミユルは空高く舞い上がり、まちを直下に見下ろした。
あちこちで、いっせいに土煙が発生していた。




