(貧)NEW GENERATION 第21話 前玉うおるの救難要請
和井喜々学園近くにあるファミレスに入り、三人で話すことになった。
カクシコは背中を丸めながらひのでの横に座っていて、向かい合う本物の親子の会話をじっと聞いていた。
何の話をしているのかと思えば、まーた胸の話だった。
「いいか、ひので。巨乳というのはな、貧乳が失われた状態なんだよ」
「パパこそわかってない。普通のさ、ごく普通の感覚ならさ、貧乳が積み重なることで巨乳になるってわかるっしょ。巨乳は貧乳を含む。だったら巨乳も同じくらい愛せる。違う?」
「もとより、巨乳は否定していない。していないが、俺は貧乳こそが好きだ」
「どこが好きなの?」
「全部だが? その人の貧乳をトータルに愛してるんだが?」
「強いて言うならどういうところ?」
「そうだな、よくよく思い返してみると、貧乳だと言われてひどく恥ずかしがっていたりする、その可愛い反応とかは、昔から変わらず好きだな」
「だとしたらパパはさあ、貧乳が好きなんじゃなくてさぁ、貧乳煽りが好きなんだろ」
「ん……? 煽り……? なんでそうなる」
「こないだね、カクシコ先輩のことが好きだっていう男子から相談されたんよ。ありえんことに。ウチは興味が湧いて、『は? どこが好きなん?』ってきいたわけよ。そしたら、その男子は言ったんよ。『貧乳なところが好き』だって。でもさ、普段はパッドを入れてるのに、貧乳なところは見えないじゃんって返したら、そしたら男子は何て言ったと思う?」
「どうせ『貧乳を恥ずかしがって、必死に隠しているところが可愛い』とかだろ」
「さすがパパ。同類だから、すぐわかっちゃうんだね」
「いいや、間違っている。俺はその段階はもうとっくに乗り越えた。俺の氷雨への愛は、さらにその先の先をを行っている」
「でも、『貧乳が好き』っていう時のパパは、この男子みたいにさ、隠して恥ずかしがってるところの延長線上に貧乳を見てるんじゃない?」
「ふん、どうだろうな。わからん、そんなの」
「あっ、ふーん、逃げるんだ。いつもそうやって、ママから目を背けてきたんだよね」
「それとこれとは……」
「じゃあ、ママが貧乳じゃなくなっても好きでいられる?」
「……よしわかった。娘の前だから恥ずかしいと思っていたが、こうなれば言うしかないな」
「何よ」
「よくきけ、俺が貧乳を好きだと叫び続けるのは、氷雨のことを誰よりも愛しているということを、遠回しに伝えるためなのだ」
「そんなこと考えてる時点で、氷雨ママのこと、ちゃんと好きじゃないんじゃね?」
「何言ってんだ。好きだぞ。大好きだ。愛してる。いつでも。いつまでも」
「じゃあ、何で別れて暮らしてんの?」
「氷雨が怒って出て行っただけだ」
「迎えに来ればよくない? ウチを連れ去るとかすればよくない? それが愛じゃない?」
そこで、それまで黙っていたカクシコが口を挟む。
「親子そろって、なんか歪んでない?」
「カクシコに言われたくはない」
と父が言った時であった。
ピコピコンと電子音がした。
二人分の携帯端末がメッセージの通知音を響かせたのだ。
ひのでは不思議に思った。話し合いに邪魔が入らないように、マナーモードにして通知音や着信音などは全て鳴らないようにしていたからだ。
画面を確認するや、目を見開いた。
隣に座っていたカクシコも、同じ画面を見ていた。
それは唐突なSOSだった。
「えっ、なにこれ……。『たすけて。消される。ハカセに』って……うおるから……」
「うおる? 知らない名前だな。新しいお友達か?」
「うん、パパと別で暮らすようになってからできた大事な友達」
「ひので、その子の写真はあるか?」
「あるよ」
ひのでは、部室に顔を出す面々――カクシコ以外の六人――が映っている自撮り写真を見せた。
ひので、まなま、篠原、うおる、ハルヒメ、ミユルの姿があった。
その中で、父の目は、一人だけ胸を盛っていることに瞬時に気付いた。
「これは、天海ミユルか? あれも貧乳を隠してしまっているのか! お母さん譲りのハイレベル貧乳を!」
「それは今はやめろよ。パパふざけすぎ」
「すまん。それで……ええと、うおるちゃんは……この無表情で座っている子だな。だが……おいまじか、この貧乳は……!」
「知ってるの?」
「忘れられない夏だった。あれは十数年前、俺が胸を揉みまくった麗しの貧乳ドールじゃないか!」
「はっ? うーわ、それ、うおるが言ってた通りじゃん。マジでやってたとか。ドン引きだわ」
「いいや、あの頃は意志を持たない存在だったからセーフだ」
「なにそれ」
「それよりも、話を聞く限り、その子が今、占い娘に消されそうになってるってことでいいか?」
「よくわかんないけど、そんな感じかな。占い娘じゃなくて、ハカセって書いてあるけど」
「いいや、ハカセなんてマトモなもんじゃあない。それは俺の良く知る占い娘だ。俺が行こう。成長した占い娘に対抗できるのは、俺だけだッ」
「まあそれ以前に、これって、もともとパパが解決すべき問題な気がする」
「うっ、勘の鋭い娘だ。たぶんその通りだよな」
そこでカクシコが首を傾げた。
「わからないのだけれど、どうして、うおるのピンチが、お父さんの問題になるの?」
「それはな、メッセージに出てきたハカセって人が――つまり、俺が占い娘って呼んでるのが――カクシコ、おまえのお母さんだからだ」
カクシコは、なおさら謎が深まった様子だった。




