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ないチチびいき  作者: クロード・フィン・乳スキー
新世代篇 前編
60/80

(貧)NEW GENERATION 第17話 占い女の独白

 黒ずくめの女は、暗い部屋で画面に向かい、一人つぶやいた。


「うおる? ずいぶん長いこと報告がありませんけど、大丈夫です?」


 返事がなかった。


「うおる? うおる? きこえていますか? 通信機の電池切れでしょうか。そんなはずは……。うおる?」


 返事がなかった。


 どれだけ待っても、何度話しかけても、ウンともスンとも返ってこない。


「本体の故障でしょうか? いえ、画面には位置が表示されて、ちゃんと動いているので、それはないですね……」


 しばらく、静かに思考をめぐらす時間があって、黒ずくめの女は、決意の表情で立ち上がった。


「管理下からの離脱の可能性ありと判断します。だとしたら、最悪の場合、世界を破壊する悪魔的行為に及ぶことも考えられます。原因は、おそらく私のプログラムミスによるエラー。自我をもちはじめたテクノロジーは、破滅的な時間軸への流れをつくってしまうかもしれません。だったら、どうしますか? そうです。リセットです」


 自分を説得するような自問自答を見せた後、女は立ち上がった。


  ★


 暗い部屋から別の暗い部屋に移動した黒衣の女は、カメラの前に座り、独白を開始した。


「もしも、うおるに敗北した時のために、この事態に至った経緯を記録しておきます。あの子を攻略するヒントに少しでも……いえ、ちがいますね。きっと私が、罪を告白したいだけです。いつまでたっても弱い私で、本当にごめんなさい。


きっかけは、私の娘の十五歳の誕生日でした。娘のカクシコちゃんは、言いました。『パパに会ってみたい』と言いました。一度も口に出したことのない言葉でした。私はずっと、その日が来ることを覚悟していました。けれども、実際に娘の口から聞かされた時、やっぱり受け入れがたいものでした。


それでも私は、その時、平静を装って、好史さんの住所をカクシコちゃんに教えました。私は、パパに会いたいなんて言葉が、私に対する裏切りのようにも思えて、すねて、すぐにでも行ってしまえばいいと思ったりしたんでしょうね。数日ほど頭痛に悩まされ、寝込みました。その様子をみて、カクシコちゃんは好史さんに会いに行くことをやめたようでした。


優しい子なんですよ。とっても。だけど、今年に入って、二月くらいだったでしょうか。カクシコちゃんは、学校で何か嫌な事があったみたいで、すごく落ち込んでしまいました。私も相談に乗ろうとしましたけど、『貧乳でもないお母さんにはわかんないよ』と言われて拒絶されました。


私だって、今ではそこそこに育ちましたが、他の人よりもずっと、貧乳の苦しみがわかるはずなのですけどね……。ともかく、カクシコちゃんは、私との衝突がきっかけで、父親と初めて話をすることができたようでした。


カクシコちゃんは悪くありません。悪いのは私です。


いつだって私が悪いんです。


私が、好史さんのいる大平野家の様子をコッソリ見に行くと、好史さんしか住んでいないようでした。近所の人のうわさ話を盗み聞きしたところ、氷雨さんが、娘のひのでちゃんを連れて出て行ったことを知りました。視界が大きく歪みました。


また、私が壊してしまったのです。でも、仕方ないじゃないですか。パパのことを知りたいなんて言うんですから。


私は行方をくらますことにしました。好史さんに顔向けできないのはもちろんのこと、娘のカクシコちゃんにも合わす顔なんかありません。だって、後ろめたさしかないです。


勝手に産んで、勝手に育てて、いきなり父親のもとに行かせて、その結果、円満な家庭を、かけがえのない幸福を、崩壊させてしまったのです。また私がひきこもるのも当然のことです。


少し時が経ち、やがて、好史さんはついに離婚し、私のカクシコちゃんを引き取る決意をしました。氷雨さんは、ひのでちゃんを連れて二人暮らしをはじめました。


どうです? 全部、私のせいでしょう?


さて……次に私が心配になったのは、カクシコちゃんの友人関係です。もともと悩んでいたみたいですし、私がいなくなっても、学校でうまくやれるのか、ということです。


そこで、好史さんの実家の押し入れに封印されていた『世界一の貧乳ドール』を回収し、改造することにしました。万能未来道具の水晶玉はもうどこの時空にも存在しませんが、未来の技術については、私の頭の中に少しだけ蓄積があります。


私は、うおるを新入生として、送り込みました。カクシコちゃんと接して、元気にやってるかとか、いじめられてないかとか、悩みの原因とかを探ってもらうためです。思い返してみれば、うおるが自我を持ち始めた兆しは、いくつもありました。


その時点で、もっと詳しく失敗の原因を調べるべきでした。道具でありながら自我をもち、私の監視下を勝手に離れるなんて、裏切りでしかありません。思い通りにならないなら、もう壊します。


明日から、周到に、執拗に、万全に、準備を進めましょう。うおるは、とても強い子ですから」


 黒ずくめの女は立ち上がり、カメラの電源を落とすと、扉に手をかけた。


 暗かった部屋に、強い光がさしこんでくる。


「世界が、白いですね」


 まぶしい光の世界へと、久しぶりに飛び出していく。




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