(貧)NEW GENERATION 第16話 前玉うおるのよろこび
大平野カクシコに元気がないらしい。
副部長の天海ミユルからの報告だと、普段は近づかない窓際の椅子に座り、頬杖をつきながら物思いにふけったり、溜息を繰り返してるのだという。
その話を聞いて、板橋まなまは不快そうに口を開いた。
「恋でもしてんのかよ」
即座に反応した比入ひのでは、顔の前で手を振って、
「ないでしょ。恋多きミユルならまだしも」
引き合いに出されたミユルは、苛立ちを隠すことなく言い放つ。
「なにそれ。人聞き悪いじゃないの。ミユルは告白されても断わってる」
すると、まなまは、ほんの少しの怒りを混ぜて、
「だらしない体型のままじゃ誰とも付き合えないって? そんなんでモテ期をスルーしていいのかよ。そもそも、ちょっとポッチャリしてた方がモテたりするらしいし、痩せたらむしろ誰からも見向きもされねーんじゃねーの?」
「はあ、何でそういうこと言うかなあ」
「男みてーなまな板をしたわたしが言うんだから、間違いない――って、誰がまな板だ!」
「落ち着いてください部長。自分で言ったんすよ」とひので。
すると、ミユルはあきれ顔で、
「モテまくりのミユルに嫉妬してるところ悪いんだけど、今はミユルのことはどうでもいいでしょ。カクシコ部長を元気にしないと。本当に心当たりないの?」
「それな。うーん、あるにはあるんだが、どうも家庭の問題で、けっこうデリケートな感じだからなぁ、勝手に言っていいもんか……どうなんだ、ひので」
「なんでひのでに話を振るのよ。ミユル、わけわかんない」
そして、ひのでは静かに頷き、不快感まるだしのミユルに向かって事情を説明する。
「カクシコパイセンが隠し子で、ウチの姉貴だったんすよ。それを知っちゃったから、信じたくなくて落ち込んでんのかなって」
「は? ばかなこと言ってんじゃないのよ。ミユルをだまそうなんて、良い度胸じゃん」
「いや本当なんだって。ね、うおる」
「そのようね。ちなみに、ひのでとカクシコの父である大平野好史さんは、あたしの胸を三日三晩揉み続けた後で、押し入れに放置したことがある」
ミユルは、うおるの発言により、ますます信じられなくなってしまった。
「こっちは真剣に相談してるっていうのに。そういうところがこのペチャパイ部の一番悪いところなのよ」
嫌味ったらしいミユルの言葉に、まなまは反発する。
「胸を盛りまくっているやつに何を言われても響かねえな」
「響かない? そうでしょうね。振動しにくそうだものね、貧乳って」
「お前が振動していると思っているのは、乳じゃなくて腹の肉だけどな」
「なんですってぇ……!」
まなまとミユルの争いが激化していく一方だったが、そこで中学生の篠原が机を叩いた。生徒会長らしく仕切ろうというのだ。
「みなさん、落ち着いてください。貧乳同士で罵り合うことほど虚しいことはありません。それは胸にストレスをかける行為で、お胸を成長させるという『胸囲育成部』のモットーにも反しますし、貧乳を褒め称えようとする『ないちち賞賛部』の名折れでもありますよ!」
その言葉で、双方の拳をひとまず納めさせることに成功した。
「皆さん。そもそも、なぜ落ち込んでいるのかということも大切ではありますが、それよりも重要なのは、どうなったら元気になるかということです。家庭のことが原因なのであれば、心配事の根を断つことは困難かもしれません。では、まずは少しでも気を紛らわす策を考えるべきです」
まなま部長は、なるほどと頷き、「カクシコを元気にしよう作戦ってわけだな」と指を鳴らした。
すぐに、うおるが素朴な疑問を口にする。
「そもそも人間は何をよろこぶの? 食べること? 睡眠の質を高めること? それとも性的なあれこれ?」
何が人間のよろこびなのか。それぞれ答えを返す。
「たべること」ミユル。
「家庭円満」ひので。
「努力と成果」栄華。
「胸が大きくなること」まなま。
ひとそれぞれなのね、と前玉うおるは感心した。
「うおるは、何だと思う?」
ひのでの問いに、うおるは、それまで耳につけていた指示用のイヤホンを外して長机の上に置いた。
そして言うのだ。
「……誰にも支配されないで、自分の意志で、歩いて行けること」




