(貧)NEW GENERATION 第13話 篠原栄華を勧誘
夏が始まろうとしていた。
昼は炎天下。夜は熱帯夜。朝から晩まで蒸し暑い。そんな地獄の釜の底にいるような日々が続く中で、前玉うおるは平然と通学路を歩いていた。
他の生徒は制服を汗で濡らしたり、小型扇風機などで自分を冷やしたりしていたが、うおるは汗ひとつかいていない。
うおるは、暑さも寒さも感じないことができるのだ。
部活動の生徒たちが、掛け声をあげながらランニングしていて、集団が前方からやって来て、前玉うおるとすれ違った。
風が吹き、うおるの前髪を大きく揺らした。
普段隠れている片目は、通り過ぎていく集団のなかで、ひとつの胸元に釘付けになった。
颯爽と走る、健康的な貧乳を見出したのだ。
無表情なまま、素早く接近し、彼女の細い腕を掴んだ。
彼女は立ち止まった。
体操服の胸は揺れなかった。
袖に入ったラインの色からすると、中等部の生徒のようだった。
先輩の女性に突如として腕を掴まれたというのに、彼女は落ち着いていた。
「どうかしました?」
「一緒に来て」
「はあ、いいですけども」
★
まるで倉庫のような部室には、三人の部員と、一人の新入部員候補の姿があった。2対2で向き合うように、向き合わされた長机の席に座っていた。
うおると新入部員が手前側に座り、奥側に、まなま部長とひので副部長が座った。
「それで? これが、うおるの連れてきた新しい貧乳部員候補ってわけか」
部長の言葉に、前玉うおるは頷いた。
「そう。私の目には、彼女がハイレベルな貧乳であることが、すぐにわかった。彼女は、この部活にふさわしい」
前玉うおるは、貧乳スコープ簡易版を使えるのだ。彼女の左目に宿るその能力は、そこそこの精度で貧乳美を見抜くことができる。
「でもさ、うおる。こいつ、まだ中学生じゃねえか」
板橋まなま部長はそう言って呆れてみせた。
比入ひのでも、「ほんとそれ。育つかも知れんし」と疑惑の目を胸に向けるばかりだった。
しかし、うおるの目は特別なので、はっきりと言い切れる。
「安心して。育たない。間違いない」
「まあ、うおるが、そんな自信満々に言うなら、話くらいは聞いてやってもいいけどな。じゃあ、そこの謎の中学生。この部活に入ろうってんなら、まず自己紹介でもしてもらおうか」
体操服姿の中学生女子は、周囲を見回すと、何かを悟ったようにひとり頷き、平たい胸に手を当てて名乗った。
「篠原栄華っていいます」
その名前を聞いてすぐに、前玉うおるはデータベースにアクセスしようとした。
ところが、情報を整理し切る前に、比入ひのでが口を挟んだ。
「篠原栄華? 中等部の生徒会長じゃん」
そこで、部長という立場を理由に偉そうにしていた板橋まなまに焦りが生じる。
「あっ、え、会長……いや、でも、中等部だったら、わたしのほうが先輩だし……」
やがて、まなま部長は迷いを振り切り、力強く言い放つ。
「で、生徒会長なのに、この部活に志望した理由は?」
偉そうな態度を見せることに決めたようだ。
篠原は毅然とした態度で答える。
「志望してないです。ていうか、あなたたちあれですよね、勝手に部活名乗って、学校内の空き部屋を不法占拠してるっていう――」
「そそそ、それは! あの『ないちち賞賛部』とかいう謎の組織のことね。わたしたちは、むしろあいつらとは敵対しているの。あなたが生徒会長って言うなら、そういうのを取り締まりたいでしょう。わたしたちに協力して手柄をあげれば、中等部の学生たちや先生たちから尊敬されて、信頼されるに違いないわね」
「はあ、それじゃ、あなたたち、何部なんですか?」
「わたしたちは――」
と言いかけた時、うおるのデータベース検索が終わった。
「あ、部長、この子、理事長の一人娘だったわ」
「なにぃ?」
和井喜々学園中等部の生徒会長である上に、そもそも学園全体を総括するレベルの偉い人の娘だったと判明した。
その途端に、部長が前のめりになった。
「それを先に言えよ。だったら大歓迎だ。ぜひとも我が部に入りなさい。え、他の部活に入ってる? 兼部すればいいわね」
「いや、あの、私は卓球部と生徒会でクソ忙しいので、先輩がたには悪いんですが、お断りを――」
そう言いかけた時、部室の扉が勢いよく開いた。
「ちょっとまったぁ!」




