(貧)NEW GENERATION 第5話 板橋まなまのいじられ
「カクシコ先輩は、いつもああなの?」
前玉うおるの問いに答えたのは、比入ひのでだった。
「そだね。最近は、いつもあんな感じだよ。おもしろいよね!」
「おもしろい……というのは、よくわからない」
「そ? 少なくとも、うちにとっては、おもろいなあ。部長と同じくらい、いじりがいあるし」
その比入ひのでの言葉に、部長の板橋まなまが反応した。
「ひので、あんたねえ……」
「やっ、ちがうちがう。好きな人のことは、いじりたくなるもんっすよ」
ひのでの慌てぶりを見て、すぐに怒りがおさまっていったようだ。まなまは呆れ混じりの息を吐いた。
「ほどほどにしなさいよ、まったく」
板橋まなまの冷静に安心した比入ひのでは、誤魔化すように話を変えて、
「てかさ、カクシコ先輩の印象、うおるはどう思った?」
「にぎやかだったけれど、どこか不安げというか、後ろめたさというか、苦しみというか……。そういう感情が混じっているみたいだった。子供っぽく見えても、思春期らしく、たくさん悩んでるんだろうなって……」
「へえ」
ひのでは、まるで壁をつくるような、拒絶まじりの声を返した。
前玉うおるは、心の中でヤバイと思った。事前に集めたデータから推測すれば、大平野カクシコの悩みは、そのまま比入ひのでの踏み込まれたくない秘密でもあった。
いきなり触れられたくもない部分に踏み込んでしまいかけたのは、明らかな悪手だ。なんとかフォローするべく、頭を働かせる。そうして、うおるが選び出した言葉は、
「……だから、板橋まなま部長とは違ってると思う」
部長いじりだった。
「おい、まるで、わたしが何の悩みもないみたいに言うなよ」
結果、場がなごんだ。
比入ひのでも「たっは」と笑いながら手を叩いた。
「いやあ、急成長! 最高! センスある! うおるさあ、煽り性能めっちゃ高いじゃん。ウチの部に超合ってるじゃん! うれしい!」
「あんたらねえ、ほどほどにしないと、わたしがキレたら大変よ」
「いやいや、部長は優しくて包容力ありますから。心は巨乳ですよ」
「ひので、それ思ってもないでしょ。すぐ怒るし、心が狭くて、器も小さくて、おまけに胸まで小さいときてる。ほら、どうしようもないでしょ?」
板橋まなまの問いに、二人は長い沈黙を返した。
「おい、何か言えよぉ! 『ソンナコトナイデスヨ部長』とか、嘘でもいいから言えよぉ!」
「いや、だって、ねえ、うおる?」
「ええ、きわめて優れた自己分析。間違いなく心から貧乳」
「ちょっと! 初日から尊敬の欠片もないんだけど、どうなってんの、この貧乳部員!」
「貧乳部長が何か言ってるけど、どう、うおる。初日の感想は」
「あたしは、板橋まなまの『胸囲育成部』に入った。大平野カクシコの『ないちち賞賛部』と敵対した。比入ひのでに出会うことに成功した」
「なにその活動日誌みたいなの。楽しかったかって、きいてんだけど」
「楽しい。……そうね。これが、楽しいってことなのかな」
「大丈夫?」
「ええ。問題ない」
部長は、なんとか怒りを鎮め、紙パックを潰しながら豆乳コーヒーを飲み切ると、静かに頷いた。
「なにはともあれ、役者は揃ったわ。今年は、つぶしにいくわよ、『ないちち賞賛部』の偽乳を」
「はい! 絶対つぶしましょう! 部長!」
「さて、目標がハッキリしたところで、今日は解散しましょうか。また明日、この部室で会いましょう!」
今年度の第一回目の活動が終わった。
「またね、うおる」と比入ひので副部長。
「明日も必ずきてね」と念を押してくる板橋まなま部長。
前玉うおるは、大きく頷いて、部室を後にした。




