95.決着
急いで体制を整えるために立ち上がろうとしたとき、音も無く飛び掛ってきたジノに首を噛み付かれ地面に叩き伏せられる。声も出せず首に食い込んだ牙によって血が噴出し骨まで達していた。身体強化によって一撃で首を噛み千切られるまではいかなかったが、それでも大変危険な状態に持ち込まれてしまった。
ジノの喉の下を殴りつけるがそれでも離さず、両前足で体を押さえつけられ今にも首の肉を引きちぎられそうだ。両眼に指を突き刺すと、さすがに口を開き絶叫の雄叫びを上げた。口を開いた隙になんとか逃れ、細胞増殖の魔法で首の傷を塞ぎながら距離を取る。
ジノはうめき声を上げ、両目からは赤い血が流れ落ちている。完全に失明しているようだ。
「まだやるか! ジノ!」
ジノは傷を癒す手段が無い。視界が無い状態のまま戦うのは余りにも不利なのだが。
「オォォォォォ!」
ジノは雄叫びを上げ、体躯を8m近くまで巨大化させる。まかさここまで巨体に慣れるとは思わなかった。
「《アースウォール》」
土壁を作り出ししゃがむと、飛び掛ってきたジノが土壁を突き破り、頭上を通過していった。ここまでの大きさとなると質量そのものが強大な武器、まだジノは諦めず音を頼りに攻撃を仕掛けてくるようだ。
「凍てつく意思、冷鋭なる刃、《アイスツーハンデットソード:クリュスタッロス》」
透明に光り輝き、大型の両手剣と形状として詳細に作り上げられた氷の剣を握り締める。
音や声を当てにジノは再び大口を開け、正面からこちらに襲い掛かってくる。もはや高度な策を練れる状態ではないということだが、それでも諦める事無く向ってくる。
大口を開けた噛み付きの一撃を避け、胴薙ぎに切り払う事で強固な毛皮を切り裂き、血を吹き出したジノは地面に横たわった。ようやく動けなくなったジノは唸り声も上げていない。
剣をジノの眉間に突きつける。このまま突き刺せば確実な死を与える事が出来るのだが。
「気は済んだか。 私の勝ちだ」
ジノは大人しく動かなくなり、敗北を認めたように体を元の大きさに戻した。
「今治す。 無理をしてくれたな」
細胞増殖の魔法によってジノの傷を癒す。まだ傷を負って時間が経っていないので、失明した眼も体の傷も完全に癒すことが出来た。
これでジノの下克上は一旦終わりだ。だが、また力関係がひっくり返ったと思ったとき、上に立つモノとして相応しくないなら、狼は誇り高く再び仕掛けてくるだろう。犬種ではなく狼種を従えるという事はそういうことだ。
「さて帰ろうか。 皆待っている」
傷が癒えてもまだふらつく足のまま、ジノと共にゆっくりと王都に戻る。
「ハラガヘッタ」
「傷が癒えたばかりで食うと体が受け付けないぞ」
下克上が終われば今までとなんら変わらない。そんなものだ。




