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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
2章 各領地への遠征開始
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89.耐性以上の魔法

 炎熱を纏う舞い姫ウェスタは空中に舞い上がると、踊る様に複雑な魔法陣を描き始める。今回は攻撃魔法の為に呼んだわけではない、人では本来使う事ができない禁呪以上の魔法、それを行使するために態々出向いてもらった。

 あとは完成するまで気付かれないように時間を稼ぐ。


「《アヴァランチ:クライゼ》」


 15m近い巨大な雪崩を作り出し、雪崩の質量に機械仕掛けの竜の動きが止まった。濃霧も消えてしまうが、無事目的の足まで接近できればそれでいい。

 巨体である二足歩行故の欠点、それは足を破壊されると著しく戦闘力が落ちることだ。

 機械仕掛けの竜の左足、身体強化に加え、左手で支えながら打ち込むが、ブレーカーガントレットごと弾き飛ばされてしまう。いくら爆発による貫通力が優れているといっても質量と強度が違いすぎ、ミスリル合金の骨格相手に、ミスリル合金製の杭が根元から折れ曲がってしまっている。


「これではだめか」


 せめて失った大剣、城崩し 鈴風があれば、力任せに引き倒す事もできたかもしれないが、ないものはどうしようもない。あとは蒸気機構を使う以上、過度に冷却すれば動きが鈍るはずではあるが、これ以上魔力を使うわけにはいかず手詰まりに近い。

 

「いくぞぉ!!」


 大声のした方向を向くと、鉄が煮えたぎる大鍋が台車に載せられ運ばれてきた。


「足を狙え!」


 大鍋が投じられ、溶解した鉄が関節部かかると急速に冷え固着していく。構造を知るドワーフゆえの手段だろう。次々と溶解した鉄がかけられ、高温の蒸気とはいえ鉄を溶かすほどではなく、機構に入り込んだ鉄が固まり動きを阻害していく。

 

「このっ!うろちょろしやがって!!」


 機械仕掛けの竜を操る転移者は随分いらだたしく思っているのだろうが、ドワーフ達の方がやや上手と言ったところだろうか。


 魔力の流れを感じ、空を見上げる。炎熱を纏う舞い姫ウェスタが時間をかけて描いた、直径50m高さ10mにもなる積層型大規模魔方陣が完成していた。

 魔力の魔剣の力も借り、生命力も魔力に変換し魔法陣に注ぎ込む。それでもまだ足りず魔方陣は光を失ったまま、手元に燃え盛る火の剣が現れる。

 本来人が操るに相応しくない精霊魔法、それ相応の代償が必要とする。火の剣を握り締め、右肩に剣をあて切り落すことで贄として捧げる。右腕が炎に飲み込まれ消えると、火の剣は短剣サイズになるがまだ贄が不足している。右目に剣を突き刺し、燃え上がり剣に飲み込まれていく。

 凄まじい激痛に絶叫を上げたくなるが必死に堪え、火の剣が消えると魔方陣に光が宿り、代償の支払いが終った事を告げていた。


「フォティア(火)・フローガ(炎)・カーフシ(燃焼)・エクリクシ(爆発)、イリアケスキリーデス(黒点)」


 魔方陣が光り輝き、炎の巨大な腕が機械仕掛けの竜を掴み、結果以内に引きずり込んでいく。必死に足掻いているようだが溶解した鉄が固まり、動きが鈍くなった脚部では自由に動けず巨大な結界の中心に固定された。


「《カタフィギオ・イリョス》(聖域の太陽)」


 魔力が足りない分は気絶寸前まで生命力を削られ、立っている力も失い地面に倒れてしまう。地面に倒れたまま左腕で身を支えがなら見上げると、結界の中央で光輝く太陽が産み出され、超高温・超高熱によって機械仕掛けの竜が溶解していく姿がみえた。

 大きく息を吐き、仰向けになると意識を手放す。もはや精神の限界だった。

 

 どれだけ時間が経ったのか分からないが、意識が戻り眼を覚まし身を起こす。周囲を見回すと、機械仕掛けの竜は完全に溶け、ただの鋼材の塊に戻り多くのドワーフガ眺めていた。

 

「「大丈夫?」」


 エルとリーアナの声に、二人が肩に乗っていることに気付いた。こちらを心配しているような表情で見ているのだが、また無理をし過ぎて心配を掛けてしまった。


「体力も魔力もある程度戻り、とりあえず大丈夫だ。 それで転移者の気配は」


「ないよ」


「まったく感じません。 討伐できたようです」


「そうか。 よかった」


 今回も転移者を倒す事はできたが、ドワーフ達が居なければ時間の掛かる召喚から魔方陣の作成など、敵の近くで二段手順の精霊魔法など出来なかった。ドワーフ達が居なければ手段も状況も選ばずに全力を出せたかもしれないが、どんな能力を持つか不明だった転移者を相手に、怪我人は居ても死亡者が居ないのなら上出来だろう。

 意識を集中させ、右腕と右目を細胞増殖の魔法で再生させる。軽く動かしてみるが、違和感も無く大丈夫なようだ。ただ、血を流しすぎた影響か少し頭がくらくらする。

 剣を地面に突き刺し、体を支えながら立ち上がる。まだ足元がふらつくが、ゆっくりなら動くのに問題はなさそうだ。早めに食事などで血液を作らない事には戦えそうに無い。

 ゆっくり鋼材の塊に近付くと、ドワーフ達は眼を輝かせながらそれを見ていた。


「すごいわい!」


「ミスリル合金が全部アダマンタイトにかわっとるわ!!」


「百年採掘してもこんなにみつからんぞ!」


 火と炉の女神ウェスタ、その神力を持って放たれた炎によって、溶かされたミスリル合金が全てアダマンタイトに変質したようだ。


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