86.科学とは
「彼が居なくなった後、どうなったのですか?」
「王はシラセの最後を嘆き、蒸気機構の兵器転用は王命で禁止されとる」
どうやら命懸けの訴えは通じたようだ。それにしても、いままでの三人の転生者と明らかに考え方が異なる。知識と理性ある人間が到達する考えは、異なるのだろうか。
「それでは、あなたは」
「ワシはどうも馬が合ってな。 うちの店で酒を飲んだり色々試作しとったんだ。 そこにある蒸気時計もそうじゃな。 蒸気のあるこの町では、壊れない限り永久に回り続ける一品じゃよ」
壁には歯車が組み合わされた時計が置かれていた。機械式の時計なら王都にもあったが、蒸気が必要とはいえ永久に回り続けるとは凄い作りだ。
科学を人類の幸せの為に、理想に過ぎない話だが、欲深い人間が居なければ可能な事かもしれない。現にドワーフの王は、白瀬の言葉を理解し兵器転用を禁じたそうだ。
「この方は聡明な人だったようですね。 出来れば生きている間に会いたかったです」
どこから出したのか、カウンターテーブルには酒が入ったジョッキが置かれている。
「本当に……惜しい奴じゃったよ。 時計にポンプ、畑と本当に街を良くしてくれたのに」
その表情には悲しみが宿っていた。ジョッキに入っている酒を一気に飲み干し、再び酒を注いでいる。ドワーフは楽しそうに酒を飲むものだが、まるで悲しみを紛らわそうとしているようだ。
「ワシらが機械仕掛けの竜なんてものを作ろう躍起になったのが悪かったんだ」
「機械仕掛けの竜 ですか」
「今は厳重に封印されとるよ。 王の友人でもあり、最後の傑作でもあるからのう」
しかし、すでに命を絶っているとなると、転移者の気配は一体どういうことだろうか。他に転移者がこの町に居て何かを企んでいるのだろうか。
「彼のお墓はありますか? お参りに行きたいのですが」
「あぁ、第三墓地に葬られとるよ。 地図も描いてやろう」
走り書きのような地図を受け取り店を後にした。
第三墓地の前には衛兵のドワーフが立ち、地図を見せて場所を再度確認してもらう。大まかな位置を教えてもらうと門をくぐり墓地の中に入った。石壁を掘って作られた墓地、小さな迷路のような作りの中を進み、目的とした棺の前に着いた。
他の棺より少々長い作りから、中に眠っているのがドワーフではないことが分かる。
【シラセ ダイキ】
石棺の前に刻まれた名前、この世界の言葉ではあるが、名前は確実に日本の者だ。
「見知らぬ日本人。 あなたの願い、ドワーフ達はちゃんと理解していますよ」
この世界に来てから初めてする、両手を合わせた黙祷を捧げ、その場を後にした。




