76.酒とドワーフ
不機嫌そうな表情だとは思うのだが、ドワーフというか、他の種族なので年齢や感情が上手く読み取れない。恐らく年上だと思うのだが、もし年下だった場合は非常に失礼になってしまう。
「そんな面倒な事はいいませんよ。 樽 で行きましょう」
カウンターから酒が樽で運ばれ、テーブルの横に置かれる。少し驚いたのか大きく目を見開いた後、気分を良くしたのか樽にジョッキを突っ込んで酒を飲み始める。
「で、ワシに何の様だ」
「まずは久しぶりにドワーフに会ったので話がしたかったんですよ」
「ほぅ、変わり者に会ったのか」
話しながら樽にジョッキを突っ込んではどんどん体に収めていく。ドワーフにとって酒は命の水と言うが、本当にどんどん腹に収めていく。
「えぇ、まだ12歳の頃でしたが、斧の扱い方を沢山教わりました」
「斧か。 そりゃワシらに敵う使い手は滅多におらんな。 ほれ 坊主も飲め」
ジョッキを受け取り、樽から酒を掬うとそのまま飲み干す。
ドワーフに付き合っていればこちらが酔い潰されかねないが、ドワーフと仲良くなるには一緒に酒を飲むか、鍛冶仕事を手伝うくらいしかないのだが、今回は色々覚悟のうえだ。
「それで、本題は ウルツァイトにでも行きたいと言ったところか?」
「えぇ、オーディン王国に戻りたいのですが、ミリシア帝国からでは戻りにくく、経由したいのです」
「……そうじゃな。 一度国に戻ろうと考えとったところだ。 その背の剣を見せるのなら、連れて行ってやろう」
抜いてもいないのに剣の事を気付かれた。ドワーフは全員鍛冶師、武具の鋳造技術に目がないというが、例に漏れず目の前のドワーフもそのようだ。
おかげで話も通じやすいのだが、なんていうか分かり安すぎる。
「ドワーフの国ウツルァイトに到着してからでしたら、構いません ここでは徴発される可能性がありますので」
ミリシア帝国は治安はよくないが、執政もあまり良くない。状況によっては非常に珍しい武具も、領主などに献上するよう命じられてしまう可能性もあった。
「ふむ。 まぁいいじゃろう。 むっ、酒が切れたか」
「すみません。 3樽追加を御願いします」
「3じゃと? さすがに飲みきれんぞ」
まるまる一樽を飲んでさすがに腹に溜まってきたのか、3樽と聞いて驚いている。
「12歳時にあったドワーフのおじさんは、宴会の占めはこうしてましたよ」
届けられた樽を持ち上げるとひっくり返し全身に酒を浴びる。理由は分からないが、領地に鉄を打ちにきていたドワーフは宴会の占めは毎回こうしていた。
「ふっ、ふははははぁぁぁ! そりゃ嫁にぶん殴られる前の作法だわい! そのドワーフはきっと大馬鹿ものじゃな!!」
笑いながら同じように酒樽を掴むと全身に浴び、残る一つとなった酒樽の酒を分け合いながら飲み干した。
ドワーフは分かりやすい。頑固で大酒のみで時に乱暴だが、何よりも性格に裏表がなく親しみやすかった。




