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異世界に転生者は不要   作者: 赤崎巧
2章 各領地への遠征開始
49/176

49.試合開始


 偽装した騎士に連れられ、案内された場所は領主の経営する巨大な奴隷市場の地下。

 屈強な戦士が護る扉を数回抜けたその先、天井は非常に高く、檻で囲まれた巨大な円状の舞台とそれを見下ろす客席があった。

 狂気的な熱気に支配され、舞台上では男の戦士がリザードマンに敗北し貪り食われている最中だったが、その様子さえも歓喜と狂気に侵された歓声が上がっている。


「それでは私は客席から観戦致しますが、何卒ご無事で」


「死にたくはありませんし、依頼ですからちゃんと引き付けますよ」


 用意された全身を覆うフルプレートメイル、関節部を鎖帷子で覆われ、フルヘルムで視界も悪い。体格に合わせた特注品ではなく量産品なので体に余り合っては居ないが、おかげで身丈以外は完全に隠せている。

 檻の入り口前まで降りると、屈強な男が扉の前に立っており、参加者の証である紙を渡す。

 たった3試合眺めていただけだが、ここの観客は凄惨な試合であればあるほど歓声を上げていた。趣味ではないが依頼を受領した以上やるしかない。


「参加者か。 自前の武器かそこにある物を自由に使え」


 指差されたものは刃も欠け錆びた剣に槍に斧だった。種類と数だけは豊富にあるようだがまともなものは一つも見当たらない。


「重槍を一本いただきます」


 折の中に入ると逃げられない様に扉に閂が掛けられる。

 相手はどうみても人には見えないのだが。


「今度は久々のゲスト参加者だ! 血祭りに上げられるのか、それとも勝ち続けて富を得るのか見物だぜ! さぁ最初の相手は3人の奴隷を食い殺したオークだ!」


 司会らしき男は声を全体に響かせる魔法を使っているらしく、観客席全体に声が響いている。しかしそれほど期待されていないのか、観客席の視線はこちらに余り向いていない。

 久々のゲストと言うことで試しに見ているだけと言ったところか。


「ぶぉぉぉぉ!」


 オークは雄たけびを上げながら棍棒を振り回しているが、動きが余りにも鈍い。

 振り下ろされた棍棒よりもリーチがあることさえ分からなかったのか、大きく踏み込みながら突き出した重槍はオークの胸部を突き破り、力を込めてオークの体ごと持ち上げる。

 血が噴出し暴れようとしているが、命が尽き掛けているのがその腕に力はない。

 城崩し 鈴風で大分体に負担が掛かったが、治る過程で体が負荷に耐えられ力強く成長できたようだ。

 一時的に身体強化を2割まで使用し、重槍ごと檻に叩き付けると柄を蹴り込む。体を貫いた重槍によって風穴の空いたオークの体から血が吹き出し舞台を真っ赤に染め、観客は歓声を上げる。


「今回のゲストは力自慢のようだ! 随分と派手でここの流儀も分かっているぜ!!」


「司会者、この程度なら一度に5体は出せ! 時間の無駄だ!!」


 柄にも無い挑発、それでも観衆の目を集めるにはこれくらいした方がいいだろう。


「お~! 今回のゲストは生きが良いぞ! こっちも生きが良いのをだそうじゃないか!」


 鎖に繋がれたリザードマンが3体檻に入れられる。どうやら次の相手のようだ。

 力自慢といわれた以上、出来る限りそれに即したほうがいいのだろうが、勝利報酬の件をまったく聞いていなかった。

 こちらが武器を持っていないのを理解しているらしく、先に解き放たれた1体が大口を開いてこちらに向ってくる。

 眼前に迫った大口の上顎と下顎を掴み、身体強化3割を使用し骨格ごと頭部を引き裂く。

 血が噴出し体を朱に染めていくが、他のリザードマンも解き放たれるとこちらに襲い掛かってくる。

 頭を引き裂いたリザードマンの尻尾を掴み、力任せにもう1体に叩き付け、肉と骨が潰れるような音が響き血飛沫と肉の一部がが観客席まで飛び散った。観客は悲鳴と歓声をあるが、残る一体のリザードマンは恐怖に感じたのか、私から離れて逃げようと必死に檻に体をぶつけて逃れようといる。

 丈夫な折に阻まれ逃げられず、手が届くまで近付くと恐怖でその場に伏せ、完全に戦意や闘争心を失っていた。

 ダンジョンのリザードマンなら決して戦意や闘争心を失うことはないのだが、このリザードマンは湖畔などで捉えられたのだろう。


「従うか、死か」


 手を向けると自らその下に額を当て、契約の魔法を受け入れる体制を取っている。

 出来れば最後まで足掻いて欲しかったが、死よりも辛い従属の方が良いと考えるならそれもいい。


「汝の生命は我の物成り。 血潮から血肉に至り、魂までも我に捧げよ」


 リザードマンの全身に魔力が流れに従属の紋様が刻まれていく。


「《スクラヴォス・エレホンス》」


 最後に額に奴隷の紋章が刻まれ個の自由は全て奪い去られ、自死の自由さえもたない存在の出来上がりだ。この場では殺すかこうでもしないと観客は納得しないだろう。


「数々の奴隷やゲストを食い殺してきたリザードマンを屈服させるとは、かなりの大物ゲストだ! しか~しまだまだこちらも手駒はありますよ!!」


 司会者も随分とテンションが上がってきているのか、こちらまで唾が飛んできそうな勢いだ。しかし部下らしき男が耳打ちを何かするとすぐに収まる。


「残念ですか。 これだけ楽しいのをすぐに終わらせては勿体無いと、支配人から連絡です。 明日再開いたしますので、お客様は通常の奴隷の試合をお楽しみください」


 支配人からの口出しとは、どうやら思ったよりも大事に出来たようだ。閂が開けられリザードマンと共に出ると案内人が待っていた。身嗜みを整えられた案内人は、檻の門番とは異なり下卑た笑みを浮かべている。


 2.5mはあるリザードマンは完全に服従しており、腰折りながら静かについてきてる。本来忠誠も何も無い個で生きるのだが、従属魔法により与えた知識に従って動いている。


「明日までの客室をご用意しております。 どうぞこちらへ」


 案内された部屋は豪華とはいえないが、整えられた部屋で、数名の綺麗な女が蟲惑的な服装で待っていた。

 暇つぶし用の性奴隷だろう。男も用意されている事から、念のため男色の可能性も考慮されたのだろうが迷惑この上ない。


「男は下がらせてくれ。 女だけでいい」


 相手をするつもりはないが、こういう役目の女は放り出すと、望む望まないも無く他の男の相手をさせられる。

 それならせいぜい踊りを見るか、小話でも聞かせてくれたほうが暇つぶしになるし精神衛生もいい。だがいきり立ったブツを持つ男を、服を着たとしても部屋においておきたくはない。貞操は大事だ。


「かしこまりました。 明日の夕刻には開始されますので、それまでどうぞ御寛ぎください」


 扉が閉められ、女たちはさっそく服を脱ごうとする。


「服はそのままでいい。 それより食べ物を持ってきてくれ。 こいつも私も腹が減っているんだ」


 女達は頭を下げると、すぐにその場を離れ料理を運んでくる。教育が行き届いているため、上手な作り笑顔と美しく劣情を誘う身の振る舞いだ。

 良質な奴隷、恐らく男を満足させる技量もそれなりなのだろうが、はっきり言って興味が全くない。

 依頼を成功した後の身の潔白という理由もあるが、それよりも行為中はどうしても周囲への警戒が甘くなるのは生物として確実であり、安全を確保できない環境と相手でヤる事はない。

 用意された食べ物だが念のため、先にリザードマンに飲み食いさせ毒がない事を確認する。

 女達にさせてもいいのだが、所有者からしてみれば興奮剤だろうと致死毒だろうと関係はない。

 身の安全を確実にするならリザードマンに喰わせ、状況によっては解毒してやった方が確実だ。目の前で血を吐いて死なれても目覚めが悪いし当分の間食事が不味くなる。


「酒は飲まないから私には注がなくていいし近くに寄るな」


 ほんの少しの油断で、背後から刺されたり毒を盛られたくも無い。

 潜入とまではいえないが、敵地に居るような状態で危険な事に手を出すことはない。問題は顔を見せないためには食事が出きないというということなのだが、さすがに明日までこの状況は辛い。


「全員風呂に入って来い。 それが終わったら踊りを見せてくれ」


 全員出て行ったのを確認し、ヘルムを外すと急いで食事を済ませる。

 その後戻ってきた女達に舞いを見つつ、食べきれない料理と飲むつもりが無い酒を、女達に与えその代わりに話を聞いた。


「先日まで頂点はリザードマンキングだったのですが、人が食い殺し入れ替わったのです。 ですが、余りに強さに人ではないのではないかと。 お相手をした女も食い殺されてますので・・・・・・」


「食い殺したのか? それはまともじゃないな」


「今では日に2人ほど奴隷を食べております」


 人を食い殺す人か。食人鬼のグールやグーラーならありえるが、それはあてはまらない。

 単に人肉主義な人間ならいいのだが、ワーウルフやワータイガーやワーベアーだったとしたらやっかいかもしれない。

 ワーウルフは力が、ワータイガーは素早さが、ワーベアーは力と耐久が優れ、Bマイナスに属する危険な魔物。それを相手にするとなると少々前準備が居るかもしれない。

 女達には寝所を使わせ、洗浄の魔法 ブリュシスで身を清めると、対策を考えながら椅子に座る。

 どうしたものかと考えていると、女達とは違う気配が一つ扉からこちらに向ってきた。

 警戒していた奴隷化したリザードマンは首から血を流して死亡しており、探索と暗殺に向いた騎士団員と言うべきなのか。


「支配人が有力者に観戦を打診しました。 明日の試合開始と同時にこちらも動きます」


 準備が良いのではなく元々用意してあったのだろう。なんにせよ二日で用が済むならそれでいい。


「こちらは最後まで戦えば良いのですか?」


「昼過ぎから2戦あるはず、注目を集めればさらに時間的猶予が出来るでしょう」


 そう言うと他の者に気付かれる前に姿を消した。やはり隠密に優れた人員を得た方が都合が良いように思えるのだが、さすがに人材を確保する方法が思いつかない。

 アークス兄に頼り過ぎても問題だが、やはり探索や隠密、暗殺に適した人材が欲しい所だ。

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