47.義姉からの依頼、標的は領主持ち伯爵
「それでまったく資金がないと?」
「・・・・・・はい。 情けない事ですが」
結婚するにはかなりの資金が居る。成り行きの上とはいえ、結婚を許された以上、今後移り住むサーシャの為に屋敷や従者等の準備しなければならない。
執事にメイドに従者兵士に料理人、生活用品に至るまで、子爵貴族クラスのものを一から用意するとなると億の資金が必要となる。
なんにせよ、一度兄アークスに相談をと尋ねたのだが。
「アークスの弟でありながら情けない。 貴族としての心構えが足りていません」
ロータス・シリエジオ・イールス・ヒューレ・デュークウーマン・リーゼハルト、つまり義理の姉に怒られていた。
クォーターエルフであり、新緑のような翡翠の長髪と整った顔、そしてエルフの名残である僅かに長い耳とスレンダーな体系、そして人の領域を著しく外れた膨大な魔力。
王家の血筋でもなくとも、代々公爵の地位を与えられるだけの人格と力を持っている。
「そのとおりです。 申し訳ありません」
「仕方ありません。 義理とはいえ弟である以上少しは手を貸してあげます。 アークス」
「なんだい?」
「モース伯爵領で進行中の作戦に遅延が発生していましたね。 その解決をさせなさい。 結果次第では屋敷程度の報酬を払って上げます」
ロータス義姉は厳しいが優しい。それ故に女性騎士や女魔導士達は挙ってリーゼハルト家の騎士団か魔法兵団に所属を望む。待遇も報酬も良く、時間が許せばロータス直接の指導も受けられるためだ。
「ご配慮有難う御座います義姉上」
「帰る前にアレを作って行きなさい。 あと子供達に会っていくのよ?」
アレとは血液を混ぜた水、ロータス義姉は兄と同じく私が何者かを知っており、魔力の質がこの世界の一般人とは異なる点があるため、研究用として血液を提供している。
「わかりました」
執務室から退室すると、その足で甥と姪が待つ勉強部屋へと向う。
扉を開けるとずっと待っていたのか元気に駆け寄ってきた。
長男のジョシュアと長女のアンジェ。2人ともロータス様に良く似た翡翠の髪の色をしており、エルフの血統である細身の体と僅かに伸びた耳をしている。
まだ幼い身でありながらジョシュアはアークスに剣を、アンジュはロータス様に魔法を教わり、すでにC級冒険者程度相手にはならないほど強くなっている。
厳しい英才教育もあるだろうが、2人がその才能を持て余すことも、奢る事もないのは生まれ持った性格と教育の賜物だろう。
「おじさん」
「おじちゃん」
まだ10代でおじさんといわれるのは若干堪える。だが叔父である事は間違いなく、慕ってくれているのならそれでもいい。
「それじゃあ、今日はお菓子を一緒に作ろうか」
「うん!」
「あま~いのがいい!」
ハチミツとタマゴとパン、そして少しの調味料を使うだけだが、普通の貴族は料理などしないため、一種の遊戯であり甘い物を食べられる機会になっている。
翌々日、義理の姉の依頼としてグレン達がモース伯爵領に向った頃、サーシャはロータスに2人きりの茶会に呼び出されていた。
「リーゼハルト公爵閣下、お初にお目にかかります」
身を整え礼節に従い振舞っても、格の違いに私も緊張してしまう。
侯爵家や伯爵家なら、式典などで末席近くに居るサターナ子爵家でも見かけたことはあるけど、オーディン公爵家やリーゼハルト公爵家ともなると、その顔を見たことはなかった。
なによりもグレンのソーディアン家が、リーゼハルト家の婿養子となったのがグレンの兄、つまり私にとってもリーゼハルト公爵閣下は義理の姉と言うことになる。余りの事の大きさに目眩がしてきた
「緊張しなくていいわ。 これは私的な茶会、あなたはいずれ妹になるのですから」
「私のような者に恐れ多い事です」
緊張しないでと言われても、リーゼハルト公爵家は王族の血を引かずとも、公爵の地位を与えられた名家。
私が連れてきた側仕えも緊張でぎこちなく、リーゼハルト家の側仕えに手土産を渡している。
促され向かいの席に座る。中々手に入らない最高級の茶葉とお菓子がテーブルに並べられ、側仕えは丁寧かつ何も言わずに先んじて準備を整えていく。
「婚約者のあなたから見て グレンはどうみえるのかしら?」
個人的な茶会だからと呼ばれてきたけれど、正式な婚約者として見定められることになるなんて。
「貴族としては色々問題があると思います。ですが」
私を止め貴族で居続けられるのも、飢えを満たす方法を教えたのも、結果的には結婚相手となってしまったけど、両親の元に居た時より自由は増やしてくれるただそれだけの相手。
「私が必要とするものを満たせる人です」
「そう、契約相手として納得出来る相手と言うことかしら。 それにしても」
貴族の結婚は取引、自由な恋愛など無い。結婚生活でさえ一種の契約上の取り決め、その相手が誠実なのか、不誠実なのかそれが大事な点。ロータス公は私の顔をじっと見た後、笑顔を浮かべた。
「義妹が真祖の素質を持っているなんて、これも何かの縁かしら」
「えっ!? あっ!」
突然の言葉に子女らしからぬ声を上げてしまい、驚いてその場から離れようとしてしまったが、拘束の魔法で身動き一つ取れなくしてしまう。
「私は白鳳騎士団の団長よ? 吸血鬼も随分討伐と研究したからわかるわ。 大丈夫、害するつもりはないわ」
「あの・・・・・・、それではこれは」
「驚いて動こうとするなんて淑女として失格よ。 今回は私達だけのお茶会だから許しますが、今後義妹として必要な教育を受けてもらいますから、そのつもりで居なさい?それとあなたの衝動を抑えられるように研究もしますから、定期的にお茶会は開きますからね」
拘束を解かれ、優しい笑顔を浮かべる義理の姉に、サーシャは何も言えずに頷く事しかできなかった。




