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正義対悪

 現在の天見のストック状況……1、原初の光輪 2、双爆輪唱 3、平和の象徴 4、覚醒の恵風 5~13、著作権フリーの光、闇、風、地、火、水、体、木、雷

 前回は申し訳ない。色々と忙しかった上半期の締めでした。今回はちゃんと終わらせました。

 始まりの構図は単純だった。フリューゲルとネイロが天見を狙い、天見は下がり、ファイナが二人の相手をした。後方に下がった天見は特に何かをすることもない。つまり、二対一だ。


 フリューゲル側の狙いとは違ったが、これも一応有利な形だ。遠慮なく、ファイナを攻めたてた。


 三人は朱雀宝門流の同門で、ファイナとフリューゲルが炎の槍で打ち合い、当然出来る攻撃の合間を、ネイロの火球が埋めていた。


 学生ということを忘れるような過激な攻防に、解説を挟む隙もなく、観客は見入っていた。実際は一分ほどだったが、ファイナが火の壁を目隠しに使って下がった所で、観客席からは詰めていた息をはくため息が漏れた。


 一人でほとんど無呼吸運動をしていたファイナは、肩で息を整える。


「本当に、最初は何もしなかったな」


 後ろにいる天見に文句のように言うが、


「俺だってはしゃげなくて辛いんだぞ。でも、最初から最後まで俺ばかり狙われたら八百長を疑われるだろ。チャンスがあればファイナが相手でも本意気で狙われる。そういう相手だっていうことを分からせないといけない」


 それは分かる。実際、向こうも最初は天見を狙っていた節がある。コピー魔法使いが大したことないのは一般常識なので、彼を狙うのは常道だ。が、今回は変な思惑があるのではないかと取られかねない。


 それでも、心象のファイナは不満で苛立つ。


「分かっているとは思うが、ここは公の場だ。扱う魔法には気をつけろ」


「乱入で滅茶苦茶になったら台無しだからね」


 チラリと、観客席の最前にいる燕を見た。


「頼むから、二・三発もらってあっさりダウンなんてことのないように」


「それが一番心配よね」


 ベリメスも赤い本を手にして、笑いながら同意する。


「ということは、やっぱり俺の相手って……」


「明らかに水鏡を見ているではないか」


 今回も天見はちゃんと対戦相手の情報を入手していた。それによると、相手は素早いチップ交換で切れ目なく魔法を使うことを強みにしている。実際に見たが、その手際は予想以上で手品を見ているようだった。


 質より量で押し切るタイプだ。魔法耐性が無い天見には相性が悪いと言える。


「では、やるぞ」


 ファイナがチップを入れ替え、モザイク処理された文言を展開しながら駆け出す。


「二頭一対の理に爆砕せよ!」


 フリューゲルとネイロは近づかれる前に回避しようとしたが、ファイナは間合いのはるか手前で、


「双爆輪唱! 烈!」


 輝く拳を地面に叩きつけた。爆発の衝撃でリングの床が弾け、粉塵がモワモワとまい上がった。


 狙いを察知したフリューゲルはすぐさま自分とネイロの周囲を火の壁で囲った。だが、その壁に天見の輝く拳がぶち込まれた。


 壁からはね返った余波を喰らいながらも、天見の拳は壁にヒビを入れた。フリューゲルは砕かれる前に壁を消し、ネイロを抱きかかえて逃げた。


「水鏡!」


 逃げようとした先からファイナの声が聞こえ、背後から「ナンバーナイン、インストール!」というベリメスの声が聞こえた。


 しまった! と思ったフリューゲルはネイロを突き飛ばして遠ざけた。


『連理の枝』に挟まれれば、恰好の的になる。


「コピースタート!」


 粉塵が晴れかかって、フリューゲルは目の前にファイナを見る。そこで彼は、ファイナの火球に向かって手を差し出して握り潰し、一拍遅れて背中に殴られたような軽い衝撃を受けた。


 タイミングが外れ、秘技は発動しなかった。


 ネイロが投げた火の槍をファイナは後ろに飛んでかわし、フリューゲルは天見に体を向ける。ネイロもフリューゲルの背中を守るように、ファイナの前に割り込む。


 一旦間が出来たことで観客から歓声が上がり、遅れて今の攻防の解説がアナウンサー席で行われる。


「さてと……やるか、ベリメス」


「本当にやるの?」


「それしかあの速さに対抗する手段がないんだから、仕方がない」


 ベリメスは渋々の様子で、


「ナンバーテン、インストール」


「コピースタート」


 ぴゅ~っと天見の指先から出た水は、フリューゲルまで距離があったが何とか山なりで届いた。


 意図が分からず、フリューゲルは戸惑う。


「…………何のつもりかな?」


「のんびり文言を唱えていたら間に合わないかなって」


 言いながら、天見は水鉄砲を上に向かって出していたが、すぐに効果が終了して止まった。


 ただの挑発行為に思われたのか、観客席からは天見に向かってブーイングが飛ぶ。そして、実際にやられたフリューゲルはすぐさま周囲に文言を展開させる。


「ナンバーイレブン、インストール!」


 フリューゲルの早口の文言の間に、ベリメスも天見のモノクルに魔法を送る。


「朱雀宝門流、緋槍!」


「コピースタート!」


 体属性で身体能力が強化された天見は投げ飛ばされた火の槍を避け、フリューゲルに迫る。


「ナンバーセブン、インストール!」


 効果が切れた瞬間にベリメスが叫んだが、相手は文言を唱え終わっている。


「朱雀ほ――」


「〝縮小〟コピースタート! 二五%!」


 天見は掌に出来た小さな風の塊を、思いっきり叩き潰した。みっしりと風の〈粒子〉が詰まっていた魔法は、とんでもない音を上げて破裂した。


 鼓膜が破れかねないほどの音に、フリューゲルの発言が止まり、目が回りそうだった。


「ナンバーファイブ、インストール!」


「コピースタート!」


 追い打ちで、天見はフリューゲルの顔面に光球を叩きつけた。ダメージはないが、目が眩んだ。そして、音が三半規管にまで影響していたフリューゲルは後ろから強く押されてリングから落ちた。


 この試合にリングアウトで負けというルールはない。それに、リングの外は衝撃を和らげるため天然芝が敷かれている。落とされて受け身が取れなくても、大したダメージはない。


「ナンバートゥエルブ、インストール!」


「コピースタート!」


 木の著作権フリーによって、天然芝が伸びてフリューゲルの体に巻きついて拘束する。そこへリングから飛び降りた天見の膝が、彼の腹に落ちた。しかも、雷の著作権フリーのオマケ付き。


 体が一瞬痺れたフリューゲルだったが、視界が回復して一気に全身を燃え上がらせた。


 火力に戸惑う天見に、リングの方から十数発の火球が放たれた。術者はネイロだ。


「ファイナ! ちゃんとそっちを抑えておけ!」


 慌てて後ろに下がって避けた天見に文句を言われ、


「ダメージ覚悟で援護したのだ! 止められるものでもないだろ!」


 火の槍でネイロを背後から斬りつけたファイナが言い訳をする。


 自分を省みずパートナーを助けるという美しい構図の隣で、言い合いをする天見とファイナ。観客の目に「仲悪っ!」と映った。


 体勢を立て直したフリューゲルが火の槍で突きこんできた。天見は水球を穂先と自分の腹の間に入れ込んで、何とか軌道をそらして避けた。ら、フリューゲルは槍を逆手に持ち替えて、防戦一方で攻めたてられていたネイロを守るために投げ放った。


 その武器を手放した隙を見逃さず、天見は身体強化の拳でフリューゲルの顎をアッパーでかち上げた。


 ダメージを受けながらもフリューゲルは天見から視線を外さず、


「朱雀宝門流、紅雨!」


 頭上に作った十数の火球を天見に降らせた。


 二人ともリング上に戻らずやり合い出すので、観客達は場外乱闘と騒ぎ出す。


 でも、リングの外と観客席は離れている上に高さが違うので、場外乱闘をした所であまり観客を巻き込むことはない。間近で解説をしなくてはいけないアナウンサー席は別だけど。


 後ろを気にする余裕なんてなかった天見は腰がアナウンサー席にぶつかり、勢いからテーブルに上体が倒れた。


 飛び掛かってきたフリューゲルの槍を天見は回転して避ける。かわされた槍は簡単にテーブルを貫き、フリューゲルがテーブルに落下した衝撃で木製の足が折れた。


 シーソーのように片側が持ち上がったので、身体強化した天見は下から手で押して、フリューゲルへとテーブルを倒した。


 フリューゲルは後転してテーブルを避け、下がった所で天見に向かって持っていた槍を投げた。それをテーブルの残骸で受け止め、燃え始めたテーブルを放り投げたら避難しようとしていたアナウンサーに当たった。


 追撃にきたフリューゲルの燃え上がった拳をしゃがんで避け、


「ナンバーエイト、インストール!」


「コピースタート!」


 地面から地の著作権フリーで生成した砂を握りこんで、フリューゲルに投げて目潰しした。


 ブーイングが響く中、天見はテーブルの天板でフリューゲルの頭を叩いた。かなりの勢いで、天板は二つに割れた。


 地面に落ちたフリューゲルをまたいで、天見はリングに戻る。


「ナンバーツー、インストール!」


「ファイナ!」


 ネイロの背中は見えている。文言を唱え始め、天見はこのままファイナと挟むつもりだったが、


「水鏡! 後ろだ!」


 振り返った時に輝く右手が顔の前にあったのはたまたまだ。でも、その手でフリューゲルの燃え上がった拳を受けたから助かった。〈粒子〉が集まった段階で、まだ発言を唱えていなかったから『双爆輪唱』のカウンターは発動しなかった。


 地力ではかなわないので、天見はすぐさまフリューゲルの拳を受け流した。


 そして、時を戻したようにフリューゲルとネイロは背中合わせになり、天見とファイナに挟まれた。


「背中、大丈夫かい?」


「支障はありません」


「大丈夫」と答えないあたり、ネイロの正直さが分かる。隙だらけで喰らった一撃が、軽いものであるはずがない。かくいうフリューゲルも、頭が痛みでガンガンする。


 フリューゲルは「何故だ?」と考える。自分達だって『連理の枝』だ。『連理の枝』に挟まれることが危険だというのは知っているし、そうならないように動いているつもりだった。なのに、気づけば挟まれている。つまり、動かされているのだ。それもおそらく、ファイナではなく……目の前の天見によって。


 何から何まで奴の思い通りかと思うと、頭痛が倍増して怒りで目まいしそうだった。


「フリューゲルさん。一緒にピーコーを狙いましょう。グリューテイル様をフリーにさせてしまいますが、とにかくこの挟まれている状況を何とかしないことには。上手くいけば、グリューテイル様がピーコーをかばいに来るはずです」


 確かにこの配置のままでは……と、フリューゲルは何か違和感を覚えた。そして、時間がないのでネイロにだけ聞こえる声で短く指示を伝えた。


 ネイロは驚きが顔に出ないように苦労した。


 天見達とフリューゲル達は睨み合い、緊迫した空間を作っている。まるで、先に動いた方がやられると言わんばかりの状況だ。


 天見の頬を冷たい汗が流れ、遠くにいるファイナと視線を合わす。彼女も覚悟を決めたようにコクンと小さく頷く。


「起動!」と「コピースタート」の掛け声が重なり、モザイク処理された文言が展開され、大気中の〈粒子〉を指輪が集める。


『二頭一対の理に爆砕せよ!』


 天見とファイナの文言が重なる。


 ここが勝負所になると、観客も分かったようだ。一際大きな歓声が上がる。中には「ふざけんな!」「卑怯だ!」「ピーコー、全然助け合ってねえだろ!」などとヤジも多く飛んでいる。


 輝く左手と右手を振り上げ、天見とファイナは駆ける。


『双爆輪唱! (Ⓒファイナ=グリューテイル)』


 ギリギリの間合いに入られた瞬間、フリューゲルは自分を踏み台にし、ネイロをジャンプさせた。ファイナの視線が一瞬跳んだ彼女を追いかけ、無意識に上へ向かう。そして、視線が下に戻った時、腕を引いた天見がファイナの拳を直前でかわしていた。


「しまっ――」


 と、声に出せるほどのゆとりはなかった。


 衝突こそしなかったが、無理やり回避した天見はもう満足に動けない。


 体勢を低くして二人の間から抜け出していたフリューゲルはこのチャンスを狙い、


「朱雀宝門流、高灼(こうしゃく)の拳闘!」


 燃え上がった拳ががら空きの天見の背中にクリーンヒットする。そして頭上からは、


「朱雀宝門流、紅雨!」


 十数の火球が天見を狙って降り注いだ。


 ネイロが着地し、黒煙が晴れると天見がうつ伏せに倒れていた。


「水鏡!」


 声に反応するように、天見は震える手で地面を押す。まだ、終わっていない。が、一気に形勢が逆転したことで、観客が大いに盛り上がる。


 ファイナが天見に近づいて引き起こすと、黒こげになった彼は荒い息をついていた。体力ゲージが奇跡的に数ミリ残った程度のギリギリ状態だ。


「よく考えてみたら、ファイナ達は『連理の枝』になってまだ数か月。学園での成功率やプロを秘技で倒したこと、さらに今回、常に秘技をくり出しやすい立ち位置を取ることから勘違いしていたが、使いこなすようになるには早すぎる。時期的にはまだ駆け出し段階のはずだ」


 ファイナは天見を支えながら唇をかんで黙っていたが、


「……バレたか」


 天見がアッサリと白状した。それに気分を良くしたフリューゲルは満足そうに笑い、


「ギリギリだったよ。最初にあった絶好の機会に『双爆輪唱』ではなく、著作権フリーで秘技を行おうとしたこと。挟んでいながら挑発してまでこちらに攻めさせていたことなどから、もしかしてと思ったんだ。ファイナ達の本当の狙いは秘技で僕達を倒すことじゃない。秘技の危険性を知る僕達だからこそ、そのポジションから逃れようと焦り、不用意に動く。その動きの中で隙を見出し、ダメージを与えて倒そうとするのがキミ達の本当の狙い! だからこそ僕達は、動かなかったんだ! 不用意で軽率だったね、キミ達! そしてさらに――」


「あの~、フリューゲルさん」


 調子よく話していた所に、ネイロが入ってきた。


「何だい?」


「あの人、ここぞとばかりに休んでいますよ」


 体育座りをした天見は俯き、全力で休んでいた。傍らにいるファイナは手で扇いでやっている。


 ピシッと、フリューゲルのこめかみに青筋が浮かぶ。


「まずい、ばれたぞ水鏡」


「もうちょっと長々と講釈をしてくれるかと思ったんだけど……ファイナが合いの手で「くっ」とか「やられた」とかって入れれば調子づかせられたのに」


「あの自己陶酔のコメントのどこで合いの手が入れられる?」


 フリューゲルの頭に怒りマークがペタペタと張りつく。


「ふ、ふふふふ、どうやらピーコーは打たれ弱いみたいだね。多少休んだ所でもう動けそうにもないじゃないか! これで二対一。いや、ピーコーを守りながら戦うともなれば、もう勝負はついたんじゃないかい!」


「この程度のこと、いつものことだ! こんなところで諦めたことなどない!」


「え? ちょ」


 天見の手を取ったファイナはおもむろに回転しだした。


 仲間割れかと思うほど豪快で高速の回転で、ファイナの足下からは摩擦熱による煙まで上がっているし、天見の悲鳴も上がっている。


「飛んでいけえぇ~!」


 唖然とするフリューゲルとネイロに向かって天見は投げられた。


「『連理の枝』がパートナーをそんな使い方する!?」


「うるさい! フリューゲルの尺度で私達をはかるな! 水鏡!」


「双爆輪唱! Ⓒファイナ=グリューテイル!」


「さっきの、悲鳴ではなくて文言だったのですか!?」


 両足を輝かせた天見を、驚きつつもフリューゲルとネイロは左右にひょいっと動いてかわした。「こんなザル作戦成功するわけないだろ~!」という残響がかなたに消える。


 指パッチンしたファイナは残念そうに「惜しい」と呟いた。


「いや、ファイナ……」


 後方でおそらく天見が誤爆したであろう爆発音がした。


「キミって、そんなキャラだった――けっぇ!」


 体がくの字にそったフリューゲルがファイナに近づいていく。


「水鏡! 2、1!」


 カウントダウンに合わせて、


「ナンバーナイン、インストール!」


「コピースタート!」


「ゼロ!」


 ファイナの火球と天見の火球が前後でフリューゲルを挟んだ。猛々しい火柱が上がり、勝負は決した。

 あまり悪役レスラーに関する知識が無いため、場外乱闘と凶器攻撃ぐらいしか思いつかない。少しレスリングに興味を持とうと思いました。

 最後の解説は次回に回します。いきなり出した方法じゃなく、天見が洗脳されていた時(笑)にやっています。

 それでは、次回予告。エピローグにしたいな。

 次回更新は来週の金曜日です。

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