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32 ーその後ー

 動物に乗って長く走ると、やはり尻が痛くなってくる。

 痺れすぎて、尻の感覚がなくなりそうだった。


 走り続けた道の先、見たことのある建物が見えて、理音は顔を上げた。


「エシカル」


 短髪の男が指差した先は、確かに見たことのある場所で、そこがエシカルであるのは間違いなかった。


 戻って来た。


 何て、長い日々だったのだろう。

 エシカルを離れたのは、遠い昔のように思えてくる。


 城のてっぺんに赤い旗がなびいているのが見えて、理音は顔を上げた。

 フォーエンの行列でも、あの旗は見た。

 不思議な模様の、不思議な動物が描かれた旗だ。

 国旗だろう。それがやけに懐かしく感じる。


 門をくぐると、男はゆっくりと進んで行く。

 どこへ行くのかと思えば宿らしき場所で、乗っていた馬を預けるようだった。

 納屋に馬を繋いで主人に金を渡すと、さあ、どうするのか。と、理音を見た。


 ここまで来れば十分だ。

 理音はしっかりとお辞儀して礼を述べる。そのまま城へと向かおうと手を振って、男と離れた。

 つもりだった。


「え、ついてこなくていいって!」

 どこに行くのか興味があると、ほいほいついてくる。


「いや、ついてこられても、お礼なんてないよ?あげられないよ?」

 理音の言葉は届くことがない。

 口笛を吹きながら、気にせずついてくるようだった。

「えー、ついてきてもさー」


 正直、ここまで来て何なのだが、最後の難関があるのだ。


 大通りを進んで、道は真っ直ぐだった。

 坂道を登って階段を上がって、塀に囲まれた城へと歩んで行くと、重厚な門が見えた。


「最後のここがねー」

 門兵がジロリとこちらを睨みつける。

 平民が、何の用かと言うわけだ。


 男はキョトンとして門を指差した。ここに用があるのか?とでも言いたいのだろう。

 そうなのである。

 この中に入りたいのである。

 なので、とりあえず門兵に聞いてみる。


「すみませーん」

 門兵はあからさまに嫌そうな顔をした。言葉が違う女が何の用だ。である。

 しかし、そうだな。何と言えばいいのだろう。

「えーと、コウユウ。ツワ」

 あとは、

「理音」

 って言えば通じてほしい。通じるわけがないのだが。


 門兵は、怪訝な顔をする。それは当然か。

「えーと、どうしようかなー。フォーエン出してほしいんだけど。せめてコウユウさんか、ツワさん。リオンが来たって、言ってください」

 いや、無理か。

 門兵は犬を追い立てるように、シッシと追い立てる。

「じゃあ、理音、モニア」

 理音、家って何じゃい。


 自分で言っていておかしいとわかるが、他に関係する文字を思い出せない。

 帰って来たと伝えてください。とか、まだ難しくてわからない。


 門兵はみるみる険しい顔になってくる。いや、頼むよ。


 じゃあ、どうすればいいのか。考える前に、男が理音の襟首を引っ張った。無理だから、やめろの目だ。

 いや、わかっているが、他に方法がない。

「フォーエン!帰って来たから、門開けてー!!」

 大声でしめたら門兵に追い立てられて、男と逃げるように門から離れた。


「あー、どうしよー。ここまで来たのにー!」

 本当に最後の難関だ。この城の中に入るすべがない。


 普通、王様が滞在している中に、ほいほい入れさせてもらえるわけがないのだ。

 だとしたら、どうやって中に入るかである。

 大体、帰って来たと言う伝言すら届くのか怪しいのだが。

 何せ自分自身が怪しかろう。


「はー、もー、何か方法ないー?」

 何せこの城、王都の城ほどではないが、庭が広大である。

 まず門を過ぎて、大広場を過ぎて、更に門を過ぎて、そこから庭に入り建物に行き着く。

 その上フォーエンがいるとすればもっと奥になるわけで、無理に入り込んだとしても、大広場で捕まって終わりだ。

 しかし突破しようとし、できなくて捕まって中に入ると言う手はある。

 それが堅実だろうか。


 そこで攻撃されたら、嫌だわ。


 あり得る話である。


「裏口あるかなー」

 自分がどうやって誘拐されたかはわからないが、誘拐犯は理音を誘拐する際、ここから出る時に正門から出たのだろうか。

 ふと考えて、まずは門の周りを見てみようと思い立った。

 理音が歩き始めると、男もついてくる。


「だから、ついてきても何も出ないって」

 しかし男は聞かない。


 わかっていないだろうか。

 いや、わかっていて、面白がってついてきているようだった。 

 これから何をするのか楽しみだと、顔が言っている。

「私は真面目にだな。フォーエン、理音だよー!」

 いきなり大声を出す。男はおかしいと笑ってばかりだ。

「真面目にやってるんだって」

「フォーエン!理音!」

 大声で叫ぶと塀の上で兵士たちが注目してくる。

 お、いいんじゃない?

「りおーん、帰ってきたよー!フォーエーン!ただいまー!」

 自分でも何言っているのかな。である。この声が届くわけがないのに。


 城は、塀を一周するにも時間がかかるほど、広い。

 門がいくつかあったが、理音が使った門は正門だけだ。

 それは当然だろう。王が使う門である。お供を連れた行列である。地方視察とは言え、多くの人を伴った。裏門など使うはずがない。

 塀から建物は遠く、近くに建物が見えるところと言えば、高い塀がそびえた。坂道を利用しているので、高さが他と段違いである。


 登るのは無理だろうか。

 無論、物見塔に人がいて、こちらを見ていた。

 兵士たちは、しっかり真面目に働いている。

 だったら、自分が誘拐された時もしっかり真面目に働いてほしいものだ。ならばこんな苦労はなかったのに。

 今更なことをちらりと考える。

 戻ってこられたから、まだしもなのだが。

 ただやはり中に入るためのすべがなかった。

 一体どうやったら、城の中に入れると言うのだろう。


 自分が泊まった部屋は、どこだっただろうか。

 かなり奥まったところに連れていかれたわけだが、フォーエンもその近くには泊まっていただろう。

 そうすると、彼が出てくる時と言えば視察の時だけで、それがまだ行われるかどうかである。その出てくる時を狙うしかないか。

 最悪、彼がもうここにいない。という話もあるのだが。

 それは今は忘れておく。


 フォーエンがここにいて、視察に出るのであれば、朝方になった。今はもう午後なので、既に帰ってきているか、これから帰ってくるか。になるわけだが。


 うーんと唸る。

 一日二度のチャンスである。

 そうであれば、ずっと正門前で待ち続けるしかないだろうか。

 フォーエンの視察は、町から出ることが多い。町中はもう既に散策していた。

 だとしたら、町から外に出ているかどうか。


「門前で待つのが一番いいかなー」

 ぶつくさと言いつつ、一周を終えると、門兵がまた来たのかと言う目を向けた。

 男も、ここにいるの?と問いかけてくる。

「うーん。他に中に入る方法がね」

 中に入りたいと言うことは、男もわかっているだろう。


 声をかける以外に方法はないかと算段する。

 フォーエンが出かけるであろう、二度のチャンスを待つ以外は思いつかない。

 フォーエンと行動を共にしているコウユウが一人外に出るとは思えず、またツワもそれはないだろう。

 他に見知っている者たちは顔しか知らず、名を知らなかった。


 フォーエンについていた理音であるが、理音の顔を知っているのは一部の人間だろう。 

 フォーエンの接客者たちは理音と話すことはなかったし、理音は化粧もしていたので、覚えている者もそう多くないかもしれない。

 だとしたら、実質、理音を知っている人間は数少ないのだ。


「やっぱ、騒ぎを起こすくらいしか思いつかないなー。一日待って、来なかったら騒いで目を引いて、捕まって中に入るが一番いいかな」


 無謀だろうか。

 牢屋に入れられて、それこそ放置になる可能性もある。

 それをやるには、中にフォーエンがいるかどうかが重要なわけだが。


「もう帰っちゃってたりして。ねえ、中にさ、フォーエンいると思う?フォーエンエーゲー」

「フォーエンエーゲー?」

「そう。フォーエンエーゲー」

 それくらいは通じると、男は復唱した。

「中にさ、まだいるかなって」


 城を指差し、フォーエンエーゲーを連呼する。

 会いたいのだと、わかるだろうか。


 男はしばらく考えて、エーゲーを口にした。

 まあ、その後何を言ったのかは、もちろんわからない。

「会いたいのね、フォーエンエーゲーに。どうにかして、入り込めないかなー」

 理音の言葉は、男には理解できない。

 故に独り言であるが、男は何か考えると、理音の腕を引っ張った。

「へ。何?」

「エーゲー、…」


 この男が何者かわからないのに、ついていっていいのか。

 今更だが、男は理音を連れて、ある店に入った。

 店の者が男を見ると、接客の笑顔の挨拶から途端変わって、引きつらせた顔を見せる。

 急いで客から遠ざけようと、男を店の奥へと、客の目から見えないように隠した。


 その時点で、もう怪しかろう。

 歓迎されていないのは明白だが、男は大して気にしていない。

 何かを店主らしき男と話して、親しい関係のように肩を叩いた。店の主人は苦い顔しかしていないのだが。

 男は理音を手招きして呼び寄せる。

 悪いことに使われそうな雰囲気だ。

 店の主人がだ。


 それはきっと当たりで、渡された服がそれを物語っていた。

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