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エピローグ 『腐蝕のダイヤ』 +4 

 ファンタジーの世界って、夢と希望に溢れている。そんな風に思わない? だけど魔法と剣の世界でも暮らしているのが人間なら……彼らも私達と変わらない心を持って、悩んだり苦しんだりしている。魔法が使える彼らにも心があるなら、それは強さにも弱さにもなる。だから、私が彼女に与えたのは唯のきっかけ。


「おや……元気そうだね。落ち着いたようで良かったよ」

「何笑ってるんですか、腐川先生? 」


 何でも無いよ、そう誤魔化すのも何度目だろうな。彼女の代わりにやって来た、アシスタントには説明してもおそらく信じて貰えない。私自身、彼女がいなくなってからあれは夢だったのでは、そんな風にも思う。けれどあの騒がしい夢はネタに詰まった時を見計らい、私を容赦無く召喚獣として喚び出してくれるのだ。


「何描いてるんです? 女騎士と魔女……? 売れるんですかこんなの? ドロドロしてるしこんなの人気出ませんって! 魔女をもっとツンデレにしてですね、先生の持ち味のオークを……いや、今度はオーガなんかでもいいかもしれませんね!? 私先生の女騎士シリーズに憧れてここに来たんですよ? なんでいきなり作風変えちゃうんですかー!? 」


 そうだねぇ、生返事で私は新入りへの言葉を濁す。召喚ゲートとして私の手元に残された、一冊の本。元は私の本だったのに、契約道具にされてから、中身は一度真っ新に変わってしまった。それを開けば賑やかな声がする。彼女達はまた揉めているようだ。


《私は認めんっ! ロアの真の美しさを演出するには、『レイン×ロア』こそが至高っ! 年下の少年に翻弄される、逞しい肉体と知性! 素晴らしいではないか! それが私の辿り着いた結論だダイア! ミザリーも言っていたぞマリスは受の方が美味しいと! 》

《は!? あんた達あくまで私達に対立するって言う訳ね! 良いわ、そこまで言うのなら相手になってやろうじゃない! この道では私の方が格上だって事思い知らせてやる! 》

《そうですそうですぅ! 解ったらさっさと私にロア×マリス様とコント×マリス様本を売りやがれですわっ! 》

《ミザリー何を言うそこはマリス×ロアだ! また内輪揉めを、マリス貴様の策略か!? 》


 言い争う女達の向こうから、微かに聞こえる不審な声は、噂で呼ばれる人物か。


《腐蝕の魔女……あの女は危険だ。あの女からまず始末する計画を立てないと……》

《もう兄様ったら……まだ諦めてないんですね》

《……頭が痛いことばかりだな。マリー、レインはどうした? 》

《にーちゃん、ねーちゃん! ギルドからの発表出たって! これ見てよ! 騒ぎ起こしすぎたから、俺等もロア達も……また一年学園やり直せだって! 》


 少年の明るい声がもたらす絶望に、仲の悪いパーティ達が挙って同じ悲鳴を上げる。最強パーティの方は一度は卒業したのに、可哀想なことで。いや、嬉しそうな声も聞こえるな。


《レイン、何か困ったことは無いか? 私も一緒に通えるのだ。住まいを此方に移しては……》

《コテージは全壊。レインはこのまま俺と同居だ! 貴様の出る幕はないぞロア! 》

《ふっ……三年前の再勝負と行くか、ラクトナイト! レインの仲間としては認めたが、それ以上とは認めていない! 同性の同棲など破廉恥なっ! どうしてもと言うのなら、私を倒してからにしろ! 》

《おお……あの乳騎士共、美味しい修羅場を演出できるようなったじゃない。録音魔法展開っ》

《ダイヤちゃ、ろ、ロットちゃん……えっとこれ、ダイヤちゃんの新しい登録名だって! 》

《へぇ……腐蝕のダイヤ、良いじゃない! えーと読みは……》


 音声を切り貼りして新たな商品開発を企む魔法使い。彼女は友から手渡された紙を目にし、驚きのあまり声も出せないようだった。それでも私が得持つ本には記されていく。契約相手の情報なのだ、当然だろう。


(ええと、何々……)


 “ロゼンジ=キャロット、落第中にてパーティ名は未だ決まらず。通称・腐れ魔法使い。異界漂流中に学びし腐術を用いた騙し討ちを好む”そこまで読んで私は笑ってしまった。なるほど、恥ずかしかったわけだな彼女は。確か、二つ名に自分の名前が入るのは名誉なことだと言っていた。『Twin Belote』の二人のように彼女が世に認められた証でもある。次に喚ばれた時は、彼女を何と呼んでやろうか。いや……大事な時に私を呼ばなくなったんだ。彼女は本当の魔法を手に入れたに違いない。それを羨ましがってはいられないと、私は机に向き直る。


「さて、私も冒険の旅を続けなきゃなぁ……! 」


 しかしネタはどうしよう。タイトルは……早速行き詰まった私は、先程聞いたばかりの彼女の二つ名を拝借することにした。異世界から落ちて来た女の子。彼女はここには留まらず、私とテンプレ通りの恋に落ちることもなかったが、彼女が笑みを取り戻すための手助けに、私の本がなったこと。それは私を強く励ます魔法となった。あの子は確かに、勇者だった。そして今も勇気をくれる。夢のような世界に暮らす彼女の人間臭さが、私を励ましてくれる。私が暮らすこの世界には、魔法なんて無いけれど……魔法以外の力でも、私達はそれを乗り越えていけるはずだと、彼女の言葉が聞こえてくるんだ。

 【腐蝕のダイヤ(ロゼンジロット)】……腐蝕のダイヤ。黒尽くめの性悪魔法使い。だけど彼女は今日も、誰かを励ます光であるだろう。

以前小説賞用に書いた小説でした。今回、めでたく落選したので腹いせにページ数内に治めるため削った部分もぶち込みました。

やりたいネタだけはまだまだたくさんあるので、気が向いたら続き書くかもしれません。ここまでお付き合い下さった方々ありがとうございました!

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