サプライズ
一応、ウィナに言われたとおり夕方になる頃に屋敷へと戻ってきた。
アリスはもう少し文句を言うかと思ったが、意外にも聞き分けよく、戻ることに同意をした。
てっきり、夜まで遊んで行きましょうぐらい言うもんだと思ったけどな。
「お兄ちゃん、私だって小さな子供じゃないんですから、やっちゃいけないことの判別ぐらいつきますよ」
「度々夜這いに来てるのは誰だ?」
「さて、なんのことでしょうかね?」
すっとぼけやがったぞこの姫。
それだけ、満喫したのか、満足したかは置いといて、姫の足取りは軽かった。
「でも、よかったのか?」
「何がですか?」
「あんまり店も回ってねえし、お前の目的は果たせたのかと思ってな」
「果たせましたよ。私の目的はお兄ちゃんとデートすることでしたから。でも……やっぱりいいです。あんまり望み過ぎては、何も掴めなくなりますから」
背中を向けたまま、アリスは俺に言う。
まだ、何か望んだことがあったんだろうか。姫である立場上、アリスは普通の女の子としてのわがままはあまり言ってこなかったハズだ。
反動もあるのだろうが、基本的には謙虚なのである。
叶えてやれることなら、叶えてやりたいが、こいつが今の時点で望まないのならば、俺が無理やり口を割らすこともないだろう。
「ちょっと、残念ですけどね」
振り返ったアリスの顔は、夕日で影になり、いまいち見えなかったが、笑ってるようにも、寂しそうにも見えた。
「さ、戻りましょうか。日が沈みかけてるってことは、少し時間も遅いと思いますし」
夏は夕方になっても、なかなか日が沈むことなく、空は明るい。
それが暗くなってきているということだ。時間としては7時を回ってるところだろうか。
先に入って行ったアリスを追うように、屋敷の中へと入った。
入ったが、妙に静かだ。いつも、何かしら物音がしてるのだが、今に限っては何も聞こえない。
しかも、先に入って行ったアリスの姿すらもすでにない。
俺、異次元世界にでも入り込んじゃったかな。俺だけ別世界に飛ばされたとか。
まあ、ないだろうな。
一つ一つ、回って行くとするか。
最初に食卓のある部屋へと足を踏み入れた。理由はないが、なんとなく人がいるならそこかと。そろそろ飯の時間だったし。
俺が扉を開けた途端、割れんばかりのクラッカーの音が鳴り響いた。
「誕生日おめでとー‼︎」
「…………すまん、幻覚を見てるようだ。出直してくる」
「いやいや、あんたの誕生日だから。あんたのために用意したものだから」
「マジで?」
「嘘ついてどうするの。ほら、座った座った。みんな手伝ってくれたんだから」
俺を上座の方へと連れて行き、無理矢理座らされる。
「簡単ながらケーキなど作らせていただきました。お口に合うと幸いです。では、あとは下がらせていただきますのでごゆっくり」
「ええ〜ばあやが一番頑張ってくれたのに、一緒にいようよ〜」
「ですが、お嬢様。こんなおばさんがいてもですね」
「何言ってるんですか。お礼もしたいですし、一緒にやりましょうよ。多くて困るなんてこともないですし。料理だって、こんなにあったら、食べきれないかもしれないですから」
「そうですか?では、お言葉に甘えさせていただきましょう。ああ、皆さんの分を取り分けますよ」
そういって、ものの五分しないうちに全部盛り付け終わった。
仕事が早いな。手が何本生えてんだって動きでしたよ。
いつにも増して豪華な食事をいただき、食後のケーキのロウソクを消す。
そういえば、こうしてケーキなんて食って誕生日を迎えたことなんてなかったな。
子供の頃は、誕生日なんて関係なし修行、修行だ。もしかしたら、俺自身も忘れてたことなのかもしれない。
暖かい空間。いつかたどり着きたい俺が描いている風景のはこういうところなのかもしれない。
ただ、ここまで豪勢じゃなくても、もっと質素でこじんまりしたものでいいけどな。
思いがけない形で叶ってしまい、それに苦笑する。
「どうしたの?」
「……嬉しいんだよ。どんな形であれ、祝ってもらえたのが」
「もう、あんまり祝われて嬉しい年にはなってないでしょ?」
「雰囲気だよ。いつかは、家族とか出来たら、子供とかに『お父さん、おめでとー』とか言われてみてえもんだ」
「そうだね……」
「ちょっとー!それ、私のイチゴー‼︎」
「私のだよー!」
将来のこととはよそに、今の目の前の目的で争ってる子たちもいるけど。
ケーキがあと二人分だが、イチゴが一個しか残ってないので取り合いになってるようだ。
「年上なんだから譲ってよー」
「ロロちゃんこそ、年上に敬意を払って譲りなさいー!」
「だーもう、半分に切ってお互いに分ければいいだろ?」
「「それはプライドが許さない」」
ああ、はいそうですか。もう、心ゆくまで争っててください。
俺の誕生日じゃないの?
「ほら、お嬢様。イチゴならまだありますから」
ばあやがどこからともなく、イチゴを取り出し、ミーナちゃんのほうに乗っけた。
二人とも笑顔でケーキを頬張っている。とても無邪気だ。
環境もあるだろうが、やはり子供にはそうやって育って欲しい。
せめて、魔王にロロちゃんを返す時は、少しでも立派な姿にしてやりたいな。
うむ、誕生日って年を取ると、下のあやかってる子のほうが楽しそうに見える。
俺自身が楽しんでないわけではないのだが、こうして楽しんでるのを見ると、事前に知らされてて、楽しみにしてたのかと思う。
それはそれでいいことだ。俺がとやかく口を挟みことはない。
だけど……
「もう少し……主役を祝ってくれませんかね?」
「仕方ないなあ……ちょっと待ってて」
ウィナが呆れたように言うと、食事の場から離れた。
「何しに行ったんだ?」
「私をプレゼントってやつですかね?」
「…………ないな」
「根性なしですもんね。お兄ちゃんと同じで」
「誰が根性なしだ」
「痛い!」
何やら、箱を包装紙で包んだものを持ってきて、それでアリスを殴っていた。あの、それ、僕のプレゼントではないのでしょうか?
「あ、私が渡すよ」
「そう?じゃあ、よろしくね」
ロロちゃんが駆け寄ってきて、箱を受け取った。大した大きさではないが、何が入っているのだろうか。
「じゃあ、日頃の感謝と誕生を祝って、おめでと!ソード!」
ロロちゃんから箱を差し出される。
「中はなに?」
「見てみて」
ウィナに目線で確認を取ると軽く微笑みを浮かべてた。
それを見て、包装紙を剥がし、中身を取り出そうとするが、出てきたのはまた箱だった。
「なんだこれ?」
「まぁまぁ、開けて開けて」
箱を外すと、また箱が。
それを4回ほど繰り返し、かなり小さい箱となってしまった。
「なんて言うんだっけこれ……」
「マトリョーシカですよ」
「そうそれだ。最終的に箱がプレゼントとかないよな?」
「そ、そんなことないから。いいから開けちゃって」
「お、おう」
少しどもったのが気になったが、また開けることにする。
ようやく、中身が見えた。小さなシルバーリング。指輪だ。
「指輪?」
「そ。色々魔法耐性が付くんだって。それなら、邪魔になることもないし、役に立つでしょ?」
「どこにはめりゃいいんだ?やっぱ指輪って左の薬指か?」
「そりゃ、結婚指輪でしょうが……入るところでいいよ。……べ、別に薬指でもいいけどさ……」
「じゃ、中指にしとくか」
なんか、ウィナが不貞腐れてるようにも見えたが、薬指だと誤解されそうな気がする。
しかし、いつ測ったのか、サイズはピッタリだ。
だが、それ以前にいつ買ったのかということもあるが。気にするだけ野暮なのだろう。
「あ、あのさ……よかったかな?それで」
「ああ。指が太くなったり、激やせしない限りはいつも付けとくよ」
「ホント?よかった」
「よかったね、ウィナ」
「ロロちゃん、うるさい」
「いはい、いはい」
頬を引っ張られて、ロロちゃんの顔が面白いことになっていた。ただ、その状態になっていても可愛らしい。仲のいい姉妹のようだ。
「仲、いいですね。ちょっと妬けちゃいます」
「あれでも、あって一ヶ月過ぎたぐらいなんだぜ?」
「そうなんですか?でも、なんかロロちゃんと壁がある気がして」
多分、その差はロロちゃんの正体を知っているか否かの違いだろう。晒しているからこそ、ロロちゃんはウィナに甘えることが出来ているのだろうし、嫌われたくないからこそ、ミーナちゃんには隠し事をしている。でも、これだけは言っておこう。
「ロロちゃんも、ミーナちゃんのこと好きみたいだからな。旅が終わったら、ロロちゃん連れて遊びに来るよ」
「約束ですよ」
「ああ」
口約束など絶対ではないが、ロロちゃんが人間界に残るのかどうかも分からないが、出来る限りは叶えてやりたい。
世界が平和になり、モンスターに怯えなくてもいいようになったら、いつか。
「では、今日のところはこの辺りでお開きとしましょう。片付けは私がやっておきますので、皆さんは休んでてください」
「わ、悪いですよ。私は手伝うので」
「そうですか?では、ウィナさんお願いします」
どこかで見たやりとりを展開して、二人は片付けに入った。女子たちは早々に立ち去り、手持ち無沙汰な俺とスターがそこにいた。
「お前は祝ってくれないのか?」
「祝われて嬉しい年じゃないでしょう。年をとって、誰かを追い越せるわけでもないですし」
「お前はいつだったっけ?」
「もう過ぎましたよ。5月4日です」
「そうか。旅してる間に祝えるかな?」
「そうならないことを祈りたいのですけど……」
まあ、そんなに長く続けたくはないな。
何年もやってる奴はそりゃ、いくらでもいるけど、スターは旅をして魔王を倒せばいい俺と違って、王子としての責務もあるのだ。旅だけしているわけにはいかない。アリスのこともあるし、長い期間、その席を空けているわけにはいかないのだろう。
そろそろ、出発の時か。
「じゃ、俺はそろそろ寝らあ。じゃあな」
「ええ、おやすみなさい。それと、誕生日おめでとうございます」
「ありがとな」
寝る前に、少し風に当たろうと外へ出た。
今日は満月のようで、辺りを照らしている。
俺はそれに、左手の中指にはめた指輪をかざしていた。




