次なる刺客
「もう行っちゃうんですか……?」
「悪いな。あんまり長居しても悪いし」
「また、来てくれますよね?」
「ああ。約束したろ?」
「お嬢様、皆様にも役割があるのですから、ワガママ言ってはダメですよ」
「分かってるよ……」
それでも、名残惜しそうに顔を曇らせる。
出会いがあれば別れがある。
いつまでも一緒にはいられない。
聡い子だから、それも分かっていることだと思う。
だから、次に会うために約束する。
「またね」
「うん。また来るよ」
ロロちゃんも精一杯笑顔を作って、ミーナちゃんと握手を交わした。
旅の荷物となってしまうので、お土産は遠慮させてもらった。
お土産は十分にもらっているのだから。
「さあ、行こうか」
新しい装備に身を包んで、互いに手を振りあった。
辛いものはあるだろう。
でも、立ち止まってばかりもいられない。
魔法使いの国から、俺たちは旅立った。
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1人、国を出てからも足取りが重かった。未練があるのだろう。
まだやりたいことがある。やり残したことがある。そう言いたげだ。
「寂しいか?」
「ん……うん……」
「でも、それが旅ってもんだ。旅をしているならば、出会いもあれば別れもある。それを繰り返すんだ。別に、今生の別れってわけじゃない。旅が終わったら、会いたいときに会い行けばいい」
「うん。そうだね。また、会いに行けばいいんだよね。その時は……ちゃんと話せるかな」
結局、自分が魔王の娘だということは明かせなかったらしい。
俺たちも気を使って、ロロちゃんの話題を避けていた。
もっとも、一番口を滑らせそうなのは俺だという話なのだが。
「大丈夫。俺が魔王が安全な存在だと全世界に認めさせてやるさ。そうすれば、魔王の娘だからって拒まれることないさ」
もっとも、あの子に限っては、魔王の娘だからって、それを知って軽蔑したり、距離をとったりするような子ではないと思うが。
それでも、可能性はゼロじゃない。
存在する限り、その可能性を払拭することはできやしない。
「ソード一人じゃないでしょ」
俺の前を歩いていた三人がこちらを向く。
俺じゃない、俺たちでそれはやり遂げるのだ。
「大丈夫。ロロちゃんの味方はここにいる。魔王城に行くまでは、俺たちが助けてやる」
「ありがと。ソード、みんな」
「まったく、涙ぐましい話だな」
どこからともなく、声が聞こえた。
俺たちの誰でもない。
低く、威圧感のある声。だが、聞いたことのない声ではない。
その声の主の顔も体格も思い出せる。
「やっぱり……つけてたか。リーチェルさん」
「この後に及んで、まださん付けで呼んでくれるとはな。だが、やはり、その子が魔王の娘だな」
「うっ……」
ロロちゃんは俺の袖をつかんで、後ろに隠れる。
あの時とは似ても似つかない雰囲気を漂わせている。
「ロロちゃんを知ってるってことは、アンタ、7大悪魔の一人だな?」
「ご名答。リーチェルというのは、この体を借りているものの名だ。だが気にするな。明確な契約の元、この体を借りている。私が離れれば、この者の意思も戻るであろう」
「……その間、本人の意思はどこにあるんだ?」
「心の奥底だ。支配関係が逆転していると考えてもらえばいい。逆転も何も、私が一方的にしているから、あまり関係のないことだがな」
「で、何の用だよ」
「なに、腕試しだ。そこの私たちの姫様のな。別に害をなそうというわけではない。それと、これも君に返してあげよう。ただし、勝てばの話だがね」
「負けたら?」
「そうだな……。では、姫様。私についてきてもらいましょうか。いつまでも勇者の側というのは、私たちも示しがつかないので」
「い、嫌だ」
「そこまで露骨に態度に表して拒否しなくても……」
「OKそのルールでいこうか」
「ちょっとソード!何言ってるの⁉︎」
「言ったろ、ロロちゃん。助けてやるって。俺たちといたくないなら、あいつについていけばいい。そうしたくないなら、俺たちがあいつに勝ってやる」
「勝算はあるの?」
「さあな。戻った力もスピードだけだ。力も武器の扱いも、大したレベルには到達してねえ。だけど、ロロちゃんを奪われたくねえな。ロロちゃんが、俺たちといたいって言うなら、俺は負ける気はしねえ」
「ソード……」
「ハハハ。一国の勇者あろうものが、まさか魔王の子供に肩入れするとはな。世も末だ。だが、だからこそ、姫様が気に入ってるのだろうな。……自己紹介をしよう。我が名はルシファー。君のその傲慢を打ち砕いてあげよう」
「待て。も一個ルール追加。俺たちは五人のパーティだ。だから、五人で戦う。いいな?」
「いいだろう。悪魔、NO2である、この私も本気を出させてもらうとしよう」
NO2……。サタンの次か。いきなり、強い奴に当たっちまったな。序列に意味があるのか知らないが、強いということだけは判断がつく。
「なあ、ロロちゃん。ルシファーってどういう意味だ?」
「えっと、確か『傲慢』を司る悪魔。自身もプライドが高くて独りで行動する癖があって、あと戦闘に関しては、その相手のプライドを砕くのが好きという、変態的なやつだよ。ただ、あからさまに折れたと判断した場合は、そこまで被害が及ぶことはないという、紳士なのかなんなのかよくわからない悪魔」
「解説ありがとう。まあ、とりあえず援軍とかはなさそうだな。そういえば、先日あいつ……えっと、名前なんだっけ?」
「私を見ないで。しかも、誰か分かんないし」
「あれだよ。襲撃してったやつ」
「そういえば、名前をちゃんと見てなかったな……」
「まあ、またどっかで見るだろ。そいつに猫かぶってたか知らんけど、引いちまうぐらいだからな。大したことは……」
どこからか拾ったのか石が頰をかすめ、切れていた。
「次は目だ」
「よし、作戦を立てるぞ。俺とスターで特攻かけるから。アリスはウィナとロロちゃんのカバー。ロロちゃんはウィナの指示に従うこと」
「全部聞こえているのだが」
「大したこと言ってねえし、役割分担は大事だぜ。一人で戦ってきたアンタには分かんねえだろうけどな」
「分かるつもりも毛頭ない。信じられるのは、己の力のみ。頼ることなど、軟弱者のすることだ」
「なら、その軟弱者にやられた時には考えを改めろよ」
俺たちは五人で、初めての強敵に挑んだ。




