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ユウセイ  作者: 遠藤ほうり


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8

「ね。……ユウはさ、私のこと最初どう思ってた?」


「最初? 最初はまぁ、弱そうだなって。あと、いつもオドオドしてたのが、なんかイラついた」


「イラついたって、ひどい言い種」


「いや、それは仕方ないじゃん。あの頃は本当にそんな感じだったんだから。じゃあ逆にさ、私はどう? 私の印象」


「そうだなぁ、ユウの印象っていうと、まず勢いがすごいひと? 出会ってばかりの頃とか私、全然喋るタイミング掴めなかったし」


「あれはこう、あの頃はほら、こいつなら勢いで押せるかなって思って話し掛けてただけだし」


「うわ、やっぱり私そんな風に思われてたんだ。そういうとことか、ユウって結構性格悪いよね」


「いや性格悪いって……。あのさ、そういうこと言うの失礼だとか思ったりしないの?」


「でもユウ、半分笑ってるじゃん」


「そりゃあ性格悪いのは当たってるし」


「えー、そこ認めちゃうんだ? でも、私は楽しかったよ、ユウと一緒にいたの」


「いや嘘だぁ! ……流石に嘘でしょ」


「ううん、本当。だってほら、マラソンの時のこと覚えてる?」


「あー、あの時は焦ったぁ」


「遅刻して一緒に怒られたよね」


「こんなことならサボっとけば良かった!」


「ね、結局良い場所も見付からなかったし。今はほら、もう良い思い出だけど。急いで着替えたのも、先生に怒られたのも」


「最初に出てくる思い出がそれってさ、もっとマシな思い出なかったの」


「だって、楽しかったから。でも、別の思い出かぁ……。あ、ユウってアダ名決めた時とか?」


「えぇ、あれが?」


「どうしたの、なんか不服そうだよ」


「だってさ、それこそ私の性格悪いエピソードそのものじゃん」


「えぇ、そうかなぁ?」


「絶対わかってるくせに。ほら、ニヤニヤ笑ってるし」


「ふふっ、無理してる感あるから~とか言ってね。最初にそう呼ばせたのユウなのに」


「あーもう、忘れろ忘れろ! 次、なんか次のエピソードないの」


「次の……、あー」


「何?」


「私の喉のこと、心配してくれた」


「……あれは違うから。勝手に休んで、しかもなんか隠し事してるのがムカついただけだから」


「でも、私のこと気に掛けてくれたの、ユウだけだったもん」


「心配してくれるような友達とか、いないもんね」


「うん、ひとりしかいない」


「だーかーら! してないから、心配とか絶対」


「ね、ユウ」


「何」


「それ、ちゃんと私の目を見て言える?」


「……言えるし、普通に」


「ほら、目逸らした」


「逸らしてない」


「嘘、見てたもん」


「……あー、もう最悪。来なきゃ良かったこんなところ!」


「あ、拗ねちゃった」


「拗ねてないから。誰がこんなヤツのことで拗ねるかっての」


「そうかなぁ、拗ねるかもしれないし」


「そもそも、私がめちゃくちゃ性格悪いのわかってるじゃん」


「ふふっ、よく知ってる」


「だからつまり、そういうこと」


「そっか、そうかも。……ね、ユウ」

「今度は何」


「…………ごめんなさい」


「はぁ。だから、私は別に拗ねてるわけじゃないって」


「そうじゃなくて! ……私の、声のこと」


「あー、そういうこと。そんなの別に謝られるようなことじゃないし。星ちゃんが悪いわけでもないし。てかやめてよ、気まずくなるじゃん」


「ん、それもそうだよね。それじゃあえっと、ありがとう」


「いやありがとって、別に感謝するタイミングでもなくない?」


「最悪なのに、こんなところに来てくれたこと」


「あー、そっちか。だって仕方ないじゃん、これが、……最後かもしれないんだし」


「だから、ありがとう」


「……うん」


「あ、そうだ。ユウって、私のことなんて呼んでたっけ?」


「何、突然どうしたの? ……せいちゃん、だけど」


「うん、やっぱりそうだよね」


「ちょっと、何笑ってんの」


「実は私の名前、セイちゃんじゃないんだ」


「……はぁ? なんで、言ってよ、何で今まで教えてくれなかったの!」


「それはあの、初めてだったから! あだ名とか、付けて貰うの」


「どーりで気付けなかったわけだ。で、名前は? 星ちゃんの本当の名前」


「……教えるなら、ひとつだけ約束」



「約束?」


「これからも私のこと、せいちゃんって呼んで、くれない、かな?」


「はいはい、わかったわかった。せいちゃんのことは、これからもせいちゃんって呼ぶ」


「本当だよ、約束だよ?」


「本当、約束。なにその目」


「なんでもないですー! ……それじゃあ、教えるね」


「うん」


「私の、本当の名前はね」




「―――、っていうの」


 そう言い終えると同時に、彼女はいきなり咳き込んだ。ゲホゲホと湿った音のするそれはあまりに苦しそうで、私は慌ててその背中を撫でさする。


 初めはすぐに治まると思った。なのにどうしてか全然止まってくれない。むしろそれは回数を重ねる毎にどんどん激しくなって、もしかしてこのまま死んじゃうのかもな、なんて頭に過るほどには。


 咳は、しばらくして落ち着いたけど。まだ少し苦しそうな彼女は、喉に手を当てながらゆっくりと呼吸を整えて、そのまま口をパクパクとさせていた。何度も、何度も、確かめるように。


 嫌な感じがした。


 慌てて彼女の顔を覗き込むと、そんなに私は心配そうな顔をしてたのだろうか、まるであやすように穏やかな微笑みを見せた。


 柔らかく笑うその様子に一瞬ほっとしかけて、だけどやっぱり何か違う。さっきまで話してた時とは違うその表情は、むしろ見つめるほどに胸が苦しくなってくる。


 だからか、それとも、それなのに。もしかしたらその両方かもしれない。彼女は最後に、ピースサインをしてみせた。


 そういうところとか本当に最悪で、イラつく。


 今までこいつに思ったこと、きっとこれから私が思うこと。一緒にいて感じること、あれもこれもそれも全部。言ってやりたいことなんて、黙ってても勝手に溢れ出てくるくらいたくさんあった。そのはずなのに。


 もう何ひとつだって、声にならなかった。


   有声/終

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