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「ね。……ユウはさ、私のこと最初どう思ってた?」
「最初? 最初はまぁ、弱そうだなって。あと、いつもオドオドしてたのが、なんかイラついた」
「イラついたって、ひどい言い種」
「いや、それは仕方ないじゃん。あの頃は本当にそんな感じだったんだから。じゃあ逆にさ、私はどう? 私の印象」
「そうだなぁ、ユウの印象っていうと、まず勢いがすごいひと? 出会ってばかりの頃とか私、全然喋るタイミング掴めなかったし」
「あれはこう、あの頃はほら、こいつなら勢いで押せるかなって思って話し掛けてただけだし」
「うわ、やっぱり私そんな風に思われてたんだ。そういうとことか、ユウって結構性格悪いよね」
「いや性格悪いって……。あのさ、そういうこと言うの失礼だとか思ったりしないの?」
「でもユウ、半分笑ってるじゃん」
「そりゃあ性格悪いのは当たってるし」
「えー、そこ認めちゃうんだ? でも、私は楽しかったよ、ユウと一緒にいたの」
「いや嘘だぁ! ……流石に嘘でしょ」
「ううん、本当。だってほら、マラソンの時のこと覚えてる?」
「あー、あの時は焦ったぁ」
「遅刻して一緒に怒られたよね」
「こんなことならサボっとけば良かった!」
「ね、結局良い場所も見付からなかったし。今はほら、もう良い思い出だけど。急いで着替えたのも、先生に怒られたのも」
「最初に出てくる思い出がそれってさ、もっとマシな思い出なかったの」
「だって、楽しかったから。でも、別の思い出かぁ……。あ、ユウってアダ名決めた時とか?」
「えぇ、あれが?」
「どうしたの、なんか不服そうだよ」
「だってさ、それこそ私の性格悪いエピソードそのものじゃん」
「えぇ、そうかなぁ?」
「絶対わかってるくせに。ほら、ニヤニヤ笑ってるし」
「ふふっ、無理してる感あるから~とか言ってね。最初にそう呼ばせたのユウなのに」
「あーもう、忘れろ忘れろ! 次、なんか次のエピソードないの」
「次の……、あー」
「何?」
「私の喉のこと、心配してくれた」
「……あれは違うから。勝手に休んで、しかもなんか隠し事してるのがムカついただけだから」
「でも、私のこと気に掛けてくれたの、ユウだけだったもん」
「心配してくれるような友達とか、いないもんね」
「うん、ひとりしかいない」
「だーかーら! してないから、心配とか絶対」
「ね、ユウ」
「何」
「それ、ちゃんと私の目を見て言える?」
「……言えるし、普通に」
「ほら、目逸らした」
「逸らしてない」
「嘘、見てたもん」
「……あー、もう最悪。来なきゃ良かったこんなところ!」
「あ、拗ねちゃった」
「拗ねてないから。誰がこんなヤツのことで拗ねるかっての」
「そうかなぁ、拗ねるかもしれないし」
「そもそも、私がめちゃくちゃ性格悪いのわかってるじゃん」
「ふふっ、よく知ってる」
「だからつまり、そういうこと」
「そっか、そうかも。……ね、ユウ」
「今度は何」
「…………ごめんなさい」
「はぁ。だから、私は別に拗ねてるわけじゃないって」
「そうじゃなくて! ……私の、声のこと」
「あー、そういうこと。そんなの別に謝られるようなことじゃないし。星ちゃんが悪いわけでもないし。てかやめてよ、気まずくなるじゃん」
「ん、それもそうだよね。それじゃあえっと、ありがとう」
「いやありがとって、別に感謝するタイミングでもなくない?」
「最悪なのに、こんなところに来てくれたこと」
「あー、そっちか。だって仕方ないじゃん、これが、……最後かもしれないんだし」
「だから、ありがとう」
「……うん」
「あ、そうだ。ユウって、私のことなんて呼んでたっけ?」
「何、突然どうしたの? ……星ちゃん、だけど」
「うん、やっぱりそうだよね」
「ちょっと、何笑ってんの」
「実は私の名前、セイちゃんじゃないんだ」
「……はぁ? なんで、言ってよ、何で今まで教えてくれなかったの!」
「それはあの、初めてだったから! あだ名とか、付けて貰うの」
「どーりで気付けなかったわけだ。で、名前は? 星ちゃんの本当の名前」
「……教えるなら、ひとつだけ約束」
「約束?」
「これからも私のこと、星ちゃんって呼んで、くれない、かな?」
「はいはい、わかったわかった。星ちゃんのことは、これからも星ちゃんって呼ぶ」
「本当だよ、約束だよ?」
「本当、約束。なにその目」
「なんでもないですー! ……それじゃあ、教えるね」
「うん」
「私の、本当の名前はね」
「―――、っていうの」
そう言い終えると同時に、彼女はいきなり咳き込んだ。ゲホゲホと湿った音のするそれはあまりに苦しそうで、私は慌ててその背中を撫でさする。
初めはすぐに治まると思った。なのにどうしてか全然止まってくれない。むしろそれは回数を重ねる毎にどんどん激しくなって、もしかしてこのまま死んじゃうのかもな、なんて頭に過るほどには。
咳は、しばらくして落ち着いたけど。まだ少し苦しそうな彼女は、喉に手を当てながらゆっくりと呼吸を整えて、そのまま口をパクパクとさせていた。何度も、何度も、確かめるように。
嫌な感じがした。
慌てて彼女の顔を覗き込むと、そんなに私は心配そうな顔をしてたのだろうか、まるであやすように穏やかな微笑みを見せた。
柔らかく笑うその様子に一瞬ほっとしかけて、だけどやっぱり何か違う。さっきまで話してた時とは違うその表情は、むしろ見つめるほどに胸が苦しくなってくる。
だからか、それとも、それなのに。もしかしたらその両方かもしれない。彼女は最後に、ピースサインをしてみせた。
そういうところとか本当に最悪で、イラつく。
今までこいつに思ったこと、きっとこれから私が思うこと。一緒にいて感じること、あれもこれもそれも全部。言ってやりたいことなんて、黙ってても勝手に溢れ出てくるくらいたくさんあった。そのはずなのに。
もう何ひとつだって、声にならなかった。
有声/終




