9.命
地面が弾ける。
ユウマは転がるように避ける。
息が追いつかない。
視界の端で、また攻撃が来る。
「っ……!」
避けきれない。
――当たる。
そう思った瞬間。
「下がって!」
ミナが前に出た。
ユウマとセレスの間に、無理やり割り込む。
次の瞬間、衝撃。
ミナの体が弾かれる。
⸻
音が遅れて届く。
地面に叩きつけられる鈍い音。
「……は?」
ユウマは動けない。
⸻
「おい……」
意味もなく近づく。
「なんでだよ……」
敵だったはずだ。
なのに、庇った。
⸻
ミナの体が、わずかに動く。
まだ、息がある。
「……セレス、先輩……」
かすれた声。
「喋るな」
セレスが言う。
今までより低い声で。
すぐ近くまで来ている。
⸻
「……違います」
ミナは続ける。
「この人は……違います……」
息が途切れそうになる。
それでも言う。
「だから――」
「いい」
セレスが遮る。
短く。強く。
ミナの言葉が止まる。
「それ以上、喋るな」
怒りでもない。焦りでもない。
ユウマは動けない。
何も分からない。
ただ見ているだけ。
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ミナはかすかに笑う。
「……すみません」
セレスの手が、わずかに震える。
「やめろ」
低く言う。
ミナはもう動かない。
完全に、止まる。
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静寂。
⸻
数秒。
いや、もっと長く感じる時間。
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やがて、ゆっくりと立ち上がる。
顔は見えない。
俯いたまま。
ユウマが声を出す。
「……違う」
小さく。
「俺は――」
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セレスが顔を上げる。
その目は、完全に変わっていた。
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「……黙れ」
低い声。
今までとは明らかに違う。
感情が抑えきれていない。
「……なんでだよ」
ユウマが言う。
⸻
セレスは答えない。
ただ、一歩前に出る。
「任務を続ける」
声は震えていない。
剣を構える。
ユウマは後ずさる。
セレスは止まらず、踏み込む。
ユウマは逃げる。
何も分からないまま。
後ろに残るのは、ミナの体だけ。
夜の街に、戦闘音が戻る。
セレスの原動力、それはもう任務じゃなかった。
(続く)




