#1 内山准(ジュン)
あるとです。
今週から新作、"With my R"の連載が始まります。
Exhaustで出来ないこと、この作品でしか出来ないこと、
様々なバトルの表現に挑戦します。
これからどうぞよろしく。
栃木県にある峠、日塩もみじライン。秋になると紅葉が綺麗で、紅葉狩りに来る観光客で溢れかえる、栃木県屈指の観光スポットの1つ。
だが、そんなもみじラインも、夜中の1時を回れば静かになる。誰もいない小さなパーキングエリア、暗く見えにくいブラインドコーナー。
幽霊でも出るのかと心配になるほど、その場所は落ち着いた雰囲気を漂わせている。2007年、初夏。そんなもみじラインで、2台のスポーツカーがバトルを繰り広げていた。
「そんな物か、地元最速ってのは。」「こんなとこで、負けてたまるかよ!こっちも行くぜ、32Rッ!」
スコーティアホワイトのランエボⅨが先行して走っていた。その後を、ガングレーメタリックのR32型GT-Rが追っている。
R32のドライバーは、エボⅨに対してペースが悪く、後れを取っていた。(本当だったのか……あれが、公道最速の走りなのか!?)
対して、エボⅨのドライバーは焦ることなく、淡々とコーナーを抜けていく。先の見えない暗いコーナーも、全て軽く曲がっていき、そして立ち上がっていく。
その姿はR32のドライバーにとって、まるでプロドライバーのラリークロスを真後ろで見させられているような感覚。
それも、同じ走り屋で同じ馬力帯として、そして地元民であるR32のドライバーの走りを上回る速度でコーナーを抜けていくというのだから、彼にとってはとても屈辱的な事だった。
(っざけんな……これが、これがぁ……ッ!)R32のドライバーは、精神的にも体力的にも限界が来ていた為に、ついにアクセルを離してしまう。
(……終わりか。あんなに自信ありげだったが、所詮はこの程度……俺も、随分舐められたもんだな。)その姿をバックミラー越しに、エボⅨのドライバーは走り去っていく。
すぐに、エボⅨは姿を消した。R32のドライバーは道路脇で停車させると、ステアリングに拳を突きつけた。(クソッ……たれぇッ!)
車のクラクションが暗い峠に響く。彼の心には、"屈辱"ただ1つが残る。地元最速と呼ばれたGT-Rは、こうして敗れることとなったのだった。
「──大丈夫か、ジュン?」バトルから2日後、栃木県某所の山の麓にある、小さなログカフェ。シックで落ち着いた雰囲気のこの場所は、いつも人気で人が多い。
「あ、店長……全然大丈夫じゃないっすよ。」そんなこのカフェでバイトとして働く内山 准は、閉店のタイミングでカウンターに突っ伏していた。
「だろーな、かの"地元最速"さんが負けたんだからな、そりゃショックだろう。」店長の岡本 和彦は、彼を横目にコーヒーをカップに注ぐ。
「その"地元最速"としての面目が丸潰れっすからね。もみじラインの走り屋全員がレベル低いとも思われたくないし、やっぱり後悔だらけで……。」
ジュンはそう言いながら、額を机に押し付けたまま動かない。岡本はカウンターに肘をつき、コーヒーの入ったカップを軽く揺らしながらため息をつく。
「で、敗因は?」「……へ?」岡本がそうきくと、ジュンは顔を上げて彼の方を見る。
「負けた理由だよ。ただ"負けました"で終わっていいことじゃねえ。負けた理由を分析できてなきゃ、速くはなれねぇし。」
ジュンはしばらく黙り込んだ。「……コーナーっす。」やがて、ぽつりと呟く。「特にブラインド。地元勢でもブレーキ踏むようなコーナーで、アイツはアクセルオフだけで駆け抜けた。
ヘッドライト照らしてるとはいえ、暗いのには変わりない。それが度胸からくる物なのか、計算し尽くされた物なのか……とにかく、見ててゾッとしたっすね。」
「なるほどな。」ジュンの分析に対し、短く返す岡本。「……お前の負けた理由は、大体分かった。簡単に言えば、"自信過剰"だったんだよお前。」
「自信過剰ォ?」ジュンは思わず眉をひそめた。「俺、そんなつもり……」「あるね。いかにも"俺、絶対負けません"って顔してる。」岡本は間髪入れずに言い切る。
「"地元でなら一番速い。だからこそ、遠征に来た走り屋なんて軽く捻ってやれる、ヨユー"なんて思ってたろ?」「ギクッ。」
図星だった。「分かりやすい反応ドーモ。」岡本は肩をすくめ、コーヒーを一口飲む。
「つまり……自信があるのはいい、だが自信を持ちすぎるなってことだ。だからといって、自信がなさすぎるのもよくない。
自信過剰な人間は、自分に酔いしれていつしか自滅する。自信のない人間は、自分のやるせなさに打ちのめされて自滅する。
程よく自信のある人間は、そんな極端な事は無い。お前は自信がありすぎる……だからこそ、お前は地元でも相手に負けたんだ。この結果は当然としか言えないな。」
ジュンは何も言い返せず、視線を逸らした。「……そっすか。」「……俺はただ、自分に酔いしれるなって言ってるだけだ。
俺の古い友人が言ってた言葉を教えてやる。"どんな相手でも油断するな、自分が世界一速いと思い込むな、どんな時でも本気でいけ、勝ってても攻め続けろ。
そうすれば、どんな相手でもきっと勝てるだろう。"ってな。」どれも当たり前のようで、今の自分には出来ていなかったことばかりだった。
ジュンは自分が今まで、自分に嘘をついてまで隠してた気持ちに気がつき、またカウンターに伏せて悩んだ。
(今まで何やってたんだろ……32Rに乗り換えてから、誰もついてこれなくなって、一人になって寂しかったその気持ちを、俺はただ正当化したかっただけだったのか……。
酔いしれてる……のか、俺。自分が速いって思い込んで、寂しさをどうにか抑えようとしてた。今まで、ホント何やって……。)
目頭に涙を浮かべ、自分の今までを悔やんでいた、その時だった。「敗北は終わりじゃなく、勝利へ向かう道の始まりだ。」岡本は口を開き、ジュンにそう伝えた。
静かに落ちたその言葉は、妙に重かった。「これは俺の言葉な……カッコつけてみたかったんだよ、俺も。お前みたいなガキンチョに、走りを教えてみたかった。それだけだ。」
「勝利への道……か。」ジュンは小さく呟いた。「……決めました、俺今から走ってきます!
32Rの限界を、俺の限界を突き詰めて、俺がずっと抱えてた根拠の無い自信を潰して、今どうすべきかを、きっちり考えてきます!」そう言って、ジュンはカフェを飛び出していった。
(……全く、今のガキンチョは元気なもんだな。)
(……あと1本!)深夜のもみじライン。ジュンのR32は、暗い峠道を駆け上がっていく。(頂上着いたら、少し休憩すっか……。)
7番カーブを抜けたタイミングで、ジュンの視界に前方から名ヘッドライトの光が近づいて来るのが見えた。(タイミング悪ぃ……チッ。)
ジュンは仕方なく左車線に移り、高速ですれ違った。(S13か、それもSR20。いい車だよな……。)
離れていくテールランプ。ジュンは気にせず、自分の走りを続ける。彼はすでに5往復以上ももみじラインを上り下りしている。
ガソリンがあるとはいえ、ドライバーの集中力も限界と言える頃合いだった。(……ん?)そんなタイミングで、バックミラーにヘッドライトの光が映る。
最初はただの後続車かと思っていたが、すぐに違うと分かった。(速い……さっきのS13か!)バックミラーに映るヘッドライトが、みるみるうちに大きくなる。
クールダウンに入っていた32Rとの距離は、どんどん縮まっていく。(……上等じゃ──)アドバンテージを離そうとするジュンは、さっき岡本に言われたことを思い出す。
『どんな相手でも油断するな、どんな時でも本気でいけ。』(今、本気でバトれる……訳ねぇよな。)ジュンはハザードを焚き、アクセルを緩める。
それに気づいたS13のドライバーは、疲れ切ったジュンを横目にオーバーテイク。ジュンとの距離を離していく。
(……それでいい。)ジュンはクールダウン走行をしながら、S13の向かう富士見台展望台駐車場へと向かっていったのだった……。
ジュンのR32のグレードはNISMO。
V-SPECやV-SPECⅡではありません。
ジュンが運よく手に入れた初愛車で、
彼これ3年は乗り続け、大切に維持しています。
頑張れジュン。
以上、あるとでした。




